33、鉄仮面
カードックの町というのは遠かった。
何度も野宿することになった。
途中に村はなかった。雨にならないことが幸いだった。
歩きながら、五味は愚痴をこぼした。
「ああ、パンとスープばっかりだ」
ジイは主のゴーミ国王に言った。
「陛下、あなたにはガンダリアという帰る場所があるではありませんか?そこでは何でも食べたい物を食べ、飲みたい物を飲める、そう楽しみを取っておくべきですぞ」
「しかしだな、ジイ、やっぱりこういう粗末な食事ばかりだと、国王であることすら忘れそうだよ」
「何をおっしゃる。ハーレムではお気に入りのマリンちゃんが待っているのではないのですか?」
五味は急に元気になった。
「そうだ!俺にはマリンちゃんがいた。ぐおおお、やるぞー!加須、待ってろ、俺が助けてハーレムに連れ帰してやるからな!」
そして、先頭に立って言った。
「おい、みんな、急ぐぞ!急いでマリンちゃんとセッ〇スだ!」
九頭は言った。
「違うだろ、おまえはマリンちゃんは当分おあずけで、俺たちはドラゴニアに行くんだろ?」
五味は首を垂れて、一番後方に下がった。
「そうだった。ユリトスさん、本当にドラゴニアなんかに行くの?魔法使いとかいっぱい出るんでしょ?」
ユリトスは言った。
「そうです。ドラゴニアにはあなたの父上母上が待っておられるかもしれないのですぞ」
そして、また、夜になった。
一行はまた道の脇の空き地で野宿した。
五味と九頭は焚火に照らされるナナシスとアリシアを見て、うっとりとしていた。
「ナナシスは顔も体も美人だな。男という所が難点だ」
「アリシアは顔だけが難点だ」
五味と九頭はそんなことを言ってクスクス笑いながら、パンを食べていた。
そこへ馬の足音が聞こえた。
ユリトス、ポルトス、アラミス、そして、ジイは立ち上がり構えた。
闇の中から現れたのはそれぞれ馬に乗った三十人ほどの男たちだった。
しかし、奇妙なのは全員、鉄の仮面をつけていたことだ。
ユリトスは言った。
「おまえたちは何者だ?」
すると、鉄の仮面の男のうちひとりが言った。
「いひひひ、我々は鉄仮面組、賞金稼ぎの軍団さ。訳あって、全員鉄仮面をつけているから鉄仮面組。いっひっひ。ほう、そこにいるのは、アトリフ五人衆のラレンじゃないかな?」
ラレンは笑った。
「ほう、俺を知ってるのか?」
「もちろん知っているさ、あなたは賞金稼ぎの中では有名人だからな」
「ほう、俺は有名人。さすが俺だな」
「どちらへ向かわれます?ロンガの王都ですか?それともカードックの町ですか?」
ユリトスは訊いた。
「カードックの町にはあとどれくらいで着くかわかるか?」
「さあ、なんとも・・・もしや、あなたがたもカース国王にかかった賞金を狙っているんでは?」
ユリトスは言った。
「我々はカース国王を奪い返したいだけだ。賞金はいらん」
「ほう、賞金稼ぎのラレンがいるのにですかな?」
「どういうことだ?」
「そのラレンという男、頭の切れる奴だと聞いています。あなたたちを利用しているだけではないかと思いますが、当たりでは?」
ラレンは狼狽えていた。
ユリトスはその様子を見て言った。
「ふむ、そうか、ラレン、こうしよう。おまえとは別行動だ」
ラレンは慌てて言った。
「なんでそうなるんだよ?突然来たこの鉄仮面どもの言葉を鵜呑みにして、裏切るのかよ?」
ユリトスはラレンを見て言った。
「先日、ラーニャの言葉を聞いたときからおまえのことを観察していた。すると、どうも不審な点が多い」
「ど、どこが不審なんだよ?」
「それは言葉では言いにくいが、私も剣士として生きている。裏切り者には裏切り者の“ニオイ”がする」
「ニオイ?」
「長く共に旅をするとそれは顕著になる」
「はあ?」
「旅の途中、会話をする中で、私は確信したよ。こいつは裏切ると」
「くっ」
ラレンは黙った。そして言った。
「わかったよ。別行動か。おい、鉄仮面ども、俺を仲間に入れろ」
「いっひっひ。じゃあ、この鉄の仮面を被りなされ」
「お、用意がいいじゃねえか」
「おまえを参謀にする」
「は?いきなり、そんなに信用してくれるのか?」
「そのためにここへ立ち寄った」
「なに?」
ラレンは疑った。
「何者だ?貴様ら?」
「それは後で話す。馬もある。乗れ」
ラレンは鉄仮面を着けた。
「なかなかのフィット感・・・って感心している場合じゃねえか。おい、ユリトス、俺を仲間はずれにしたことを後悔させてやるぜ。たしかに、ラーニャの言った通り、カードックにカース王を売ったのは俺だ。そして、カース王を取り戻し賞金を頂こうと思っていた。だからあんたらの仲間に加わった。しかし、あんたらを騙すつもりはなかった。俺とあんたらの目的はカース王を取り戻すという同じものだったからだ。今度はその仲間がこの鉄仮面さんたちになるってわけだ。ユリトスさん、こういう駆け引きで大事なのは信頼とかそういうものじゃねえ、どうするのが一番有利かってことだ。使える奴は使う。俺はこの鉄仮面さんたちを使わせてもらうぜ。文句はねえか?」
鉄仮面のひとりが笑った。
「いっひっひ。ラレンさん。あんたは運がいいよ。この鉄仮面組は最強の賞金稼ぎのグループだからね。じゃあ、行くとしようか。我々もこの先で野宿だ」
鉄仮面たちはラレンを連れて去って行った。
彼らの姿が見えなくなると、ジイは言った。
「ユリトス殿、本当にラレンの奴は裏切るつもりだったのですか?」
「私はさっき、口から出まかせを言った。ただ、あの鉄仮面たちとラレンは同じニオイがした」
「ニオイ?」
「賞金稼ぎのニオイというか。奴らは利益のためなら平気で人を裏切る。友情でさえ利用する。そんな人種だ」
そのとき、九頭がユリトスに言った。
「あの~、ユリトスさん、ここにラレンならいますけど」
「なに?」
ユリトスが振り向くとそこにはラレンがいた。
「どういうことだ?む?まさか?」
ラレンは言った。
「そうです。奴の姿をコピーしておきました」
「ナナシスか?」
「はい」
ユリトスは頷いた。
「うむ、おもしろい。使えるかもしれん」
九頭はがっかりしていた。
「あ~あ。もう、あの宿の奥さんのセクシーな体を見られないのか」
ユリトスは再び火の前に腰を下ろした。他の者も腰を下ろした。
ユリトスはナナシスに言った。
「そうだ、おまえは魔法使いだろう?」
「はい」
「いまさらながら訊くが、おまえはドラゴニアから来たのか?」
「俺は」
ナナシスは唾を飲み込んで言った。
「カードックの町から来たんだ」




