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329、フェニックスの子、ポエニ

ローギャンはすぐにフェニックスの子供の絵を完成させた。

そして、祭壇画にスケッチブックに描いた絵を向けて言った。

「祭壇画のフェニックスの子供よ。我が絵に移動せよ」

すると、祭壇画のフェニックスの子供の絵が光った。そして、その光は一瞬にして、ローギャンのスケッチブックの中に飛び込んだ。

見ると、祭壇画からフェニックスの子供が消えていた。

オーリは言った。

「移ったのかしら?」

ローギャンは言った。

「手応えはありました」

加須は訊いた。

「じゃあ、二十分経ったら、この絵からフェニックスの子供が出てくるんだね?」

「はい、そうです」

そう言うローギャンに九頭は言った。

「なあ、子供が出せるならば、親も出せないか?」

ローギャンは驚いた。

「ええ?フェニックスをですか?」

「うん、話がしたいんだ」

「無理ですよ。僕なんかでは。魔法力に違いがありすぎる」

「子供は出せるけど親は無理なのか?」

「ボッホ先生くらいの大画家でなければ無理でしょう」

五味は言った。

「やってみなくちゃわからないだろう?」

ローギャンは言った。

「魔法画家ならばわかるのですが、この絵のフェニックスは相当な魔法力の持ち主です。もし、僕が自分の描いた絵の中に移動させようとしたら、おそらく、僕の魔法力が負けて僕は死んでしまうでしょう。過去にそう言う無謀なことをして死んだ画家はたくさんいるそうです」

「じゃあ、どうして、子供のフェニックスは試してみたんだい」

「祭壇画に描かれた、子供のフェニックスから感じる魔法力が弱かったからです」

五味は訊いた。

「どうやって感じるんだい?」

「それは画家として修行すれば絵の対象となる人物や生き物の魔法力はわかります」

九頭は訊いた。

「じゃあ、俺の魔法力は?」

「ゼロですね」

九頭はうなだれた。

ユリトスは訊いた。

「魔法力とは数値で表せるものなのか?」

ローギャンは笑って答えた。

「まさか、今のは比喩です」

ラーニャは訊いた。

「ローギャン、あんたの力では絵の中に閉じ込められないような魔法使いはいるのか?」

「人間ならば大抵、絵の中に閉じ込めることができます」

「じゃあ、剣技に強い敵でも閉じ込めることができるのか?」

ラーニャがそう言ったとき、ローギャン以外の一同はバンバンを思い出した。

ローギャンは言う。

「ええ、閉じ込めることはできます。僕が描き上げる方が、相手が攻撃してくるより早ければですが」

ラーニャはさらに訊く。

「もし、絵に閉じ込めた場合、その絵を燃やすか破るかすれば、閉じ込められた者は死ぬか?」

ローギャンは言う。

「死にません。そうした時点で、絵から飛び出てしまいます」

ラーニャはまだ訊く。

「じゃあ、その絵を深い水の中へ沈めてしまえば、二十分経って、絵から出たそいつは窒息で死ぬか?」

五味は、「ラーニャって恐ろしいことを考えるな~」とビビった。

ローギャンは答えた。

「そうですね。そうかもしれません。紙の絵でなければ。紙ならば水に溶けたときに中から飛び出てきてしまうでしょう」

ジイは訊いた。

「ところで、ボッホという画家は、フェニックスを永久に絵の中に閉じ込めたのか?」

「え?」

ローギャンは困った。

「う~ん、どうだろう?いくらボッホ先生でもフェニックスを永久に閉じ込めることはできないと思う」

九頭は祭壇画を見て言った。

「じゃあ、この絵は何だ?」

一同も祭壇画を見上げた。人間の背丈の二倍以上はある大きな絵だ。

しばらく一同が祭壇画を見上げていると、ローギャンのスケッチブックが光を放ち始めた。

アトスは声を上げた。

「なんだ?何が起こるんだ?」

スケッチブックの中には子供の火の鳥が描かれてある。それが(まぶ)しく光っている。

五味は叫んだ。

「出るのか?」

ローギャンは両手でスケッチブックをかざして、子供のフェニックスの絵を祭壇画のほうに向けた。

すると、さらに光が強くなり、一同は眼が開けられなくなった。そして、すぐに光が弱まり、五味たちが眼を開けると、祭壇画の前に、膝下くらいの身長の白い鳥が立っていた。白い羽毛の中に少し赤い羽毛が混じっている。まるで、何かのマスコットキャラクターのように目がマンガふうに大きくクリクリしている。体全身は丸っこい。(くちばし)は黄色だ。足はニワトリのように歩くのに適しているようだ。

九頭は呟いた。

「これがフェニックスの子・・・?」

加須は言った。

「なんか、絵に描かれていたのと違う。燃えていない」

五味は言った。

「ポエニ・・・」

ジイは訊いた。

「ポエニ?何ですかな、それは、陛下」

五味は言った。

「この子の名前だ」

アリシアは訊いた。

「その名前は、なに?親のフェニックスと決めたの?」

「いや、俺、ひとりで決めた」

オーリは訊いた。

「由来は?」

五味は答えた。

「フェニックスは英語でPから始まるだろ?俺はそれを間違えて、ポエニクスと読んでいたんだ。だから、ポエニだ?」

ユリトスは鋭い目で訊いた。

「英語とはなんです?」

五味は答えた。

「夢の中の言葉さ」

五味はポエニのほうに両手を広げて言った。

「さあ、ポエニ、おいで」

ポエニは小走りですり寄った。五味ではなく、アリシアの足に。

アリシアは、ポエニの頭をなでた。

「まあ、かわいい」

ポエニはアリシアの股間に顔を埋めた。

「「「あ、ああ、あああ?」」」

五味と九頭と加須は大きな声を上げた。

「こいつ、エロいぞ!」

「いきなり、セクシーダイナマイトのアリシアの股間を攻めるとは」

「おい、離れろ、スケベ鳥」

アリシアはポエニの頭をなでながら言う。

「まあ、かわいそうにいきなりスケベ扱いされるなんて、嫌だわよねえ」

五味はポエニの尻尾を掴んだ。

「おい、アリシアから離れろ。スケベ鳥」

アリシアは言う。

「鳥が人間にエロい意識を持つわけがないでしょう?」

五味は言う。

「いや、違うぞ。そいつは俺とフェニックスがセックスしてできた子だ。鳥も人間に性欲は持つぞ」

アリシアはまだ、ポエニの頭をなでている。

「まだ生まれたばかりの子供なのよ。お母さんがいなくて寂しいのよねえ?」

ラーニャは言った。

「アリシア、あたしにも抱かせてよ」

ポエニは今度はラーニャの股間に顔を埋めた。

九頭は言った。

「あー、こいつ絶対エロい。五味の子だ。マリンちゃんの股間に顔を埋めるのがハーレムで一番幸せを感じると言っていた五味の子だ」

オーリはしゃがんでポエニを抱いた。

ポエニはオーリの巨乳に顔を埋めた。

五味と九頭と加須はポエニの尻尾を引っ張ってようやく引き離した。

五味は言った。

「ポエニ、おまえは俺の子だ。俺がお父さんだ。お父さんと呼んでみろ」

ポエニは五味を見上げて鳥らしく小首を傾げた。

「ポエニ、おまえ、言葉が通じないのか?お母さんは俺たちの心の中にまで話しかけてきたぞ」

すると、ポエニは、一声、

「ポエエーッ!」

と叫んだ。


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