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327、マリヨンのホテルの朝食

ホテルの朝食の席に着いたとき、レヨンは驚いた。そこに死んだはずのポーランの姿があったからだ。

「ポーラン?」

「いいや、俺はナナシスだ」

レヨンは一瞬喜んだ自分がバカに思えた。ポーランはたしかに死んだのだ。首を切断されて。

食事が始まると、レヨンはユリトスたちに自分の経験した出来事を語った。

そこへ、息せき切って、チョロが入ってきた。

「みんな!」

「チョロ!」

五味は言った。

「レヨンさんに聞いたぞ。ラクルスに間一髪助けられたんだな?」

チョロは言った。

「ああ、気づいたら、チェンジの町の北の藪の中にいた。で、俺はしばらくレヨンさんを待った。しかし、来なかったから、ひとりでここまで逃げてきたんだ。で、なぜ、ここにレヨンさんがいる?やっぱりラクルスに送致されたのか?」

レヨンは言った。

「ラクルスは死にました」

「じゃあ、どうやってここに?俺より早く?」

「信じられないことですが、絵の中を通って来ました」

「へ?」

「絵の中のフェニックスに食べられたと思ったら、この町の礼拝堂の祭壇画の前で眠っていたのです」

「でも、ラクルスは死んだ?あいつは絵の中を通らなかったのかい?」

「ええ、その前にバンバンにやられ、死にました」

チョロは言った。

「なんだよ、絵の中のフェニックスは、ラクルスを救うチャンスがありながら、見殺しにしたのかよ」

レヨンは言う。

「フェニックスの考えは私にはわかりません」

チョロは言う。

「で、これからどうすんだよ。レヨンさん。あんたがラクルスと平和に暮らしたいから、その住むべき場所に行くために、俺たちと共に来たんだろ?そのラクルスがいなくなった今、どうすんだ?まだ、旅を続けるか?」

ユリトスは言った。

「チョロ、その辺にして朝食を食べろ。腹が減っているだろう」

チョロはユリトスを見て言った。

「なんだ、ユリトス、俺のカネでしっかりいいホテルに泊まっているな?」

「おまえのカネではない。盗まれた被害者のカネだ」

「もっと、悪いじゃねえかよ。罪深い奴だな」

「チョロ、朝食を食べろ。すぐ、出発する。奴が来るぞ」

「奴?」

チョロは昨夜のバンバンを思い出した。ポーランの切断された首を思い出した。

チョロは急いでビュッフェスタイルの朝食を食べた。

アトスはユリトスに訊いた。

「先生、先生はあのバンバンという男に勝てると思いますか?」

「勝つ自信は無い。心を読まれてしまい、なおかつ剣技は優れている。隙が無い」

アラミスが言う。

「でも、あのとき、先生は自分の力をセーブしていた。相手を殺さないように」

ポルトスは言う。

「先生ならば、全力を出せば勝てるでしょう?」

ユリトスは言った。

「全力?殺す気でやれば、という意味か?」

三銃士は頷く。

ユリトスは言う。

「殺すのは簡単だ。あれは相手の心を読む。だから攻撃は読まれる。しかし、防御はどうか?相手の剣を受ければいい、受けならば読まれるということはない。そこでカウンターで一撃喰らわせればよい」

三銃士は頷いた。

アトスは言った。

「おお、さすが先生だ」

ポルトスは言う。

「じゃあ、次は先生、勝てますね?」

「いや」

ユリトスは言った。

「私の全力はそこにはない」

アラミスは言う。

「どういうことです?」

「私の全力は、殺さずに倒すこと、それができてこそ全力だ」

ユリトスがそう言うと、アトスが言った。

「次は俺が戦いますよ。受けに回ってカウンターを狙えばいいのでしょう?」

ユリトスは言う。

「アトス、おまえは人を殺すとき迷いはないか?」

「迷っていたら殺せません。それに『殺す』のではなく『倒す』のです」

アトスがそう言うとユリトスは笑った。

「ふふ、おまえも私の弟子だ。たしかに私もまだ剣そのものを否定するつもりはない。私もまだ倒すつもりで戦っている。だが、殺す気はない。怪我をさせる程度だ」

アトスは言った。

「バンバンは俺が倒します。決めました」

五味は言った。

「ユリトスさん、バンバンから逃げるのはいいけど、画家のボッホを探すというのはどうする?」

ユリトスはレヨンに訊いた。

「あの祭壇画を描いた、ボッホという画家に訊けば絵の中のふたりについてもわかると思う、だから、その男を捜そうという意見があります。レヨンさんの意見はどうです?」

レヨンは黙っていた。

九頭は言った。

「俺はボッホを探したい。サイのお母さんが絵の中に閉じ込められているかもしれないから」

五味も言った。

「俺もだ。フェニックスの子供は俺の子だ。もう一度会ってみたい」

すると、五味たちの隣のテーブルで独りで食事をしていた粗末な服を着た若者が言った。

「さっきから聞いていれば、ボッホを探すとか、言ってるようですね?」

五味たちはその若者を見た。まだ、二十代で茶色い髪の毛はボサボサで、無精髭を生やしていた。

「僕の名は、ローギャン。ボッホ先生の弟子です」


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