表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
324/1174

324、ラクルスとポーランの最期

チョロはその夜、ヤーザンの洞窟の前に着いた。

そこにはひとり、ヤーザンが焚き火に向かって魚を焼いていた。

チョロは訊いた。

「ヤーザン、ラクルスたちはどこに?」

「洞窟の奥で休んでいるよ。とくにラクルスはおまえたちを送致の魔法で飛ばしてからずっと眠っている。なぜ戻ってきた?」

「あの人たちを連れて逃げたいんだ」

「逃げる?」

「カルガン王子とドンブラ将軍、剣士バンバンがチェンジに来た」

「それは本当かね?」

そう言って洞窟から出てきたのは変身師ポーランだった。

「ここに来るかね?」

「わからねえ」

「では、念のためこうしておこう」

そう言った途端、ポーランの姿がふにゃふにゃと変形していった。そして、そっくりそのままのレヨンの姿になった。

「これで、なにか策を思いつければいい」

チョロは言った。

(おとり)になるのか?」

ポーランは笑った。

「それが私の職務のようなものだ」

すると、藪の中から声がした。

「変身師か、よく王妃に化けたものだな?」

それは、剣士バンバンだった。その後ろの、カルガン皇太子とドンブラ将軍が続いて、洞窟の前の広場に出てきた。

ドンブラは言った。

「本物の王妃様はどこだす?」

バンバンはポーランたちの心を読んで言った。

「あの洞窟の中のようだぞ」

ポーランはレヨン王妃の姿でありながら剣を抜いた。

「チョロ、洞窟の中へ行き、ラクルスに言うんだ。レヨン王妃とおまえをどこかに送致するように」

チョロは頷いた。

「わかった」

チョロは走って洞窟の中へ入って行った。

バンバンは、レヨン王妃の姿をしたポーランが剣を抜いているのを見て笑った。

「カルガン王子、あなたの母上は剣を使えましたかな?」

カルガン皇太子は答えた。

「いや、母上に武術の心得はない」

バンバンはポーランを見て言った。

「とんだニセモノだなぁ」

洞窟に入ったチョロは一番奥まで走った。

そこには祭壇画の前で寝ているラクルスとそれに付き添うレヨンがいた。

チョロはすでに目覚めているラクルスを見て言った。

「俺とレヨンを送致するんだ。そして、あんたを殺せばレヨンの行方はわからなくなると言えば、あんたも殺されない」

ラクルスは起き上がった。

「やれやれ、また送致か。あれは疲れるんだぞ」

そこへバンバンたちが入ってきた。

チョロとラクルスとレヨンは恐怖に震えた。

バンバンが片手に提げていたのは、ポーランの首だった。彼はその髪の毛を掴んでぶら下げていた。

レヨンの顔ではなく紛れもなく変身師ポーランの顔をした首だ。ポーランは恐怖の表情で青くなっている。首の切断面からは血が滴り落ちていた。

レヨンは悲鳴を上げた。

ラクルスは言った。

「この殺人鬼が・・・」

ラクルスは右にいるチョロを見た。チョロはガクガク震えている。

ラクルスはチョロに向けて右手をかざした。

「送致!」

チョロの姿は消えた。

バンバンは首を捨てて、ラクルスに斬りかかった。

「てめえ、この前はその魔法で俺を遠くに飛ばしやがって。今度はそうはさせねえぞ」

バンバンはラクルスを袈裟斬りにした。

しかし、ラクルスは倒れず右手をバンバンに向けた。

バンバンはラクルスが魔法を使うより早く、彼の胸を突き刺した。

バンバンのサーベルは胸から背中に貫かれた。

その剣が引き抜かれると、ラクルスは地に倒れた。

レヨンはラクルスの横にしゃがんで彼を抱えた。

ラクルスはもう死ぬ寸前だった。

「レヨン・・・」

「ラクルス!」

「生きろ・・・」

「え?」

「生き抜け・・・どんなに、無様でも、最後まで、き、希望を捨てるな・・・」

そう言い残して、ラクルスは白目を剥いて、ガクリと首を垂れた。死んだのだ。

「ラクルス!ラクルス!」

バンバンは言う。

「さあ、王妃様、国王陛下の元へ帰りましょう。この世界一の剣豪がお守りしますぜ」

カルガンは怖くて何も言えなかった。しかし、なんとか一言言った。

「は、母上・・・」

ラクルスを抱えるレヨンはカルガンを見た。彼女の頬は涙で濡れていた。だが、その涙の溢れる瞳に映ったのは紛れもなく自分の育てた息子だった。涙の向こうに息子がいた。

「カルガン・・・私の息子・・・」

カルガンが近寄ろうとすると、レヨンの後ろにあった祭壇画から、フェニックスの首が飛び出し、レヨンひとりを飲み込んだ。そして、一瞬にして絵の中に戻った。

バンバンは驚いた。

「なんだ?何があった?今、絵の中のフェニックスの首が画面から飛び出して・・・ええ?バカな?」

ドンブラは何も言えなかった。

カルガンは祭壇画に駆け寄った。

「母上―っ!」

カルガンは泣いた。

「母上が、母上が、絵に飲まれた。絵の中のフェニックスに食べられた。ああ、もうおしまいだ」

ドンブラは言った。

「殿下、この絵は持ち帰るだす。恐らく魔法のかけられた絵だす。王都に持ち帰って、学者たちに調べさせるだす」

カルガンはドンブラを睨んだ。その目は泣いていた。

「それで、母上が戻る可能性があるのか?」

「ゼロでは無いと思うだす」

「では、チェンジの町に帰り、人を使ってこの絵を王都へ持ち帰らせよう。いや、王都じゃない。こんな絵を調べるのにわざわざ王都へ戻る必要は無い。チェンジの町で調べさせればいいではないか?」

「ごもっともだす。よし、バンバン、チェンジの町に帰るだすよ」

ドンブラはバンバンの足下に転がるポーランの首をおぞましげに見て言った。

ラクルスの死体も残酷な殺され方を物語っていた。

カルガンは早くこの場から立ち去りたかった。カルガンは、バンバンを味方では頼もしいと言えば頼もしいが、あまり好きにはなれないと思った。

当然傍らにいる読心師のバンバンはそのカルガンの心も読んでいて、ニヤリと笑った。

三人は洞窟を出ると、焚き火はそのままに、魚を焼いていたヤーザンの姿がないのに気づいた。まあ、逃げ出したのだろうとは察しがついた。

カルガンは言った。

「よし、チェンジの町に戻ろう」


チョロがラクルスに送致された先は、チェンジの町の北の藪の中だった。しばらく待ってもレヨンが送致されてこないので、チョロはひとり藪を抜けて宵闇よいやみの中をホテルに帰り、支度をして、馬に乗ってチェンジの町を出て西へ向かった。

「ああ、怖い。ポーランは殺された。レヨンとラクルスもどうなったかわからねえ。でも、俺にできるのはここまでだ。もう俺には無理だ。逃げさせてもらうぜ。みんなにこのことを知らせるのが俺の役目だ」

ランプの明かりを頼りに、チョロは森の中の道を馬で駆けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ