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319、安い発泡酒で満足するのは不幸か?

五味は天井を見て言った。

「なあ、九頭、加須、俺たちの父親は楽大工業の低所得者だよな?」

九頭は答えた。

「ああ、貧乏だ」

五味は言う。

「俺の親父は、ビールの代わりに安い発泡酒を美味そうに飲むんだけど、おまえらの親父はどうだ?」

加須は答えた。

「うちもそうだよ」

「九頭は?」

九頭は答えた。

「うちの親父は酒を飲むとかじゃなくてオタクなんだよ。デブのオタクさ。家族サービスとかはしなくて、いつもゲームをしてるかアニメを見てたよ」

加須は言う。

「うちの親父は毎日職場に、タッパーにご飯を詰めて行くんだ。会社の食堂で安いおかずだけの弁当を食べるんだ」

五味は言う。

「うちもそうだ。そのほうが安く上がるって、ケチくさいよな」

九頭は言う。

「ああ、それなら俺の親父もそうしてたよ」

五味は言う。

「俺たちの父親がこの町にいたら、絶対に青シャツだよな」

「うん」

「ああ」

五味は言う。

「デブチ・パリは足るを知るのが大事とか言うけど、安い発泡酒で満足しているのが幸福だと思うか?」

加須は言う。

「思わない。やっぱり、美味いビールを飲んでいる方が幸福なはずだ」

五味は言う。

「俺たちは国王に生まれ変わった。美味い酒、美味い料理が食べられる環境で、しかもハーレムまであった。そのほうがいい人生だよな?」

九頭は言う。

「ああ、でも、その責任から逃げ出しちゃったけど、国王の座は貴重だよな」

加須は言う。

「先代国王夫妻が見つかったら、必ず、ロガバに戻って、国王の酒池肉林を満喫しようぜ」

五味は言う。

「でも、その人生で俺たちは満足できるか?」

「え?」

五味は言う。

「それは俺たちの力で手に入れた王座ではない。それに先代国王夫妻に会ったりしたら、俺たちが別人だとバレちまうだろ?」

九頭はその言葉にドキリとした。

「そうだよな、両親には俺たちが別人であることを見抜く力くらいあるよな」

加須は言う。

「じゃあ、どうする?このまま、ロガバに帰るか?」

九頭は言う。

「ここまで来たのにか?」

五味は言う。

「そうだ、俺たちは冒険の旅をここまで続けてきた。命も賭けた。この旅の目的を遂げるべきだ」

九頭は言う。

「目的か・・・」

加須は言う。

「先代国王夫妻に会うことと、ドラゴンに願いを叶えてもらうことと、ドラゴンの秘宝を手に入れることか?」

五味は言う。

「そうだな。それが、目的だ。詳しいことはよくわからないけど、それに向かって俺たちは旅をしている。でも、今、俺は思うんだ。このたびの途中で出会った問題をひとつずつ解決していくことも目的かもしれない」

九頭は言う。

「サイの母親のフェニックスに会うことも今の俺たちの目的だよな?」

五味は言う。

「それだけじゃないさ。俺はこのチェンジの町の状況が、俺たちの前世の状況に似ていると思う。つまり、青シャツが不幸な状況に置かれていることだ」

加須は言う。

「え?まさか、青シャツを労働から解放するとか、そういうことを目的にするつもりか?」

五味は言う。

「ああ、今、チョロとナナシスに、この町の住民の不満などを調べさせている」

九頭は言う。

「マジか?革命家になるのか?」

五味は頷く。

「そうだ。それを遂げたら、俺たちはこの町を出発できる」

加須は言う。

「バカな。無謀だ。五味、俺たちにはそこまでの力は無いと思うぞ?」

五味は言う。

「いや、力ならばある。俺はフェニックスと交わった男だ。フェニックスを呼び出せれば、革命の可能性はある」

九頭は言う。

「革命が起こると、デブチ家の人たちはどうなる?」

五味は言う。

「殺されるだろうな。普通に考えれば」

加須は言う。

「俺はあの人たちを殺したくはないぞ」

五味は言う。

「革命を起こしながら、誰も殺させない。それが俺たちの使命だ」

九頭は言う。

「どうやって?」

「それをこれから考えるんじゃないか。ユリトスさんとかの意見も聞いてさ」

五味はそう言った。

加須は言う。

「革命か・・・五味は途方もないことを考えるな」

九頭は言う。

「ここはハイン国だろう?皇太子のカルガンを連れてきて、なんとかできないかな?」

五味は考えた。

「カルガンか・・・あいつ、逃げたよな。今頃メファニテから軍勢を率いて、レヨンさんを探しにこっちに向かってるのかな?」

実際カルガンは、アトリフと供に行動しているが、もちろん五味たちは知らない。

加須は言う。

「剣士ブンブンの息子バンバンもいるぞ。あいつはラクルスに送致された。でも、また復讐に来るかもしれない」

五味はニヤリとした。

「カードはあるじゃないか」

九頭は言う。

「カード?何を言ってるんだ?」

五味は言う。

「混乱こそ解決への道だ。俺たちはこの冒険旅行を続けてきて、そのことには嫌というほど気づかされているじゃないか」

九頭と加須は頷く。

「「たしかに」」

そのとき部屋のドアが開いて、ジイがトイレから戻ってきた。

「ああ、なんとか治まった。やはり飲み過ぎはいかんな」

五味はジイに言った。

「ジイ、俺たちは話し合ったんだけど、この町で革命を起こせないかな?」

ジイは驚いて言った。

「な、何を言ってるんです?」

五味は言う。

「誰も死なずに、デブチ家の支配をやめさせ、青シャツとか白シャツを着なければいけない法律をなくして、自由な町にするんだ」

ジイは言う。

「陛下、我々は旅の道中にあります。異国の政治に介入する立場にはありません」

五味は言う。

「でも、この町の労働者が今の生活に不満を持っているならば手を貸してあげたい」

ジイは言う。

「不満に思ってなければ?」

五味は言う。

「必ず不満はあると思うよ」

ジイは言う。

「あっても、今の生活を壊してしまうリスクと天秤にかけてどちらが重いと思うでしょうか?完璧な社会などありませんから、どこの社会の人々も不満があるのは世の常です。その不満を政府ではなく別のことに向けるのも人生です」

五味は言う。

「ジイ、それは年寄りの思想だよ」

ジイは言い返す。

「若者の思想には若気の至りというものがあることも頭に入れておいた方がいいですよ」

五味は言った。

「とにかく、明日、チョロとナナシスの報告が来る。それで判断しよう」

五味は布団をかぶった。ジイもベッドに入って卓上のランプを消した。


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