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318、デブチ家の歓待

五味たちはデブチ家の大きな邸宅の食堂に招かれた。

すでに夕食を済ませてあったので、軽い夜食のようなものが振る舞われた。

デブチ・パリはワインを五味たちに勧めた。

その食堂は五味たちにベルサイユ宮殿みたいな豪華絢爛なヨーロッパの宮殿を思わせた。

デブチ・パリは言った。

「しかし、あなたたちは革命の分子だという通報があって行ったのだが、フェニックスと繋がる旅人であるとは、とんだご無礼をした」

オーリはラーニャに(ささや)いた。

「青シャツとか白シャツの話を出しちゃダメよ」

「わかってるわよ」

デブチ・パリは言った。

「この町では革命の分子の取り締まりを強化しています。革命はこの社会を根底から覆す最悪の罪です。革命は人々の安定した幸せな生活を奪います。各社会階層に分かれて幸せに暮らせる社会、この町はそんな理想の社会なのです」

この言葉にむっとしたのは、ラーニャだけではなかった。

五味と九頭と加須は同時に同じことを思った。

「「「楽大工業に勤める俺の父親は貧乏で幸せか?」」」

デブチ・パリは言う。

「足るを知るということが幸福に生きる秘訣です。それをこの町では徹底して教育しています。青シャツの労働者も、足るを知り、自分の境遇に満足しています。町の外へ出ることは禁じられていますが、彼らは他の町のことを知ることなく幸せに暮らしています。自分たちの狭い世界からはみ出ないことが幸せになる秘訣です。我々デブチ家の人間はこの町を管理するために、外交も行わねばなりません。そうなるとどうしてもおカネが必要で、贅沢な暮らしをしています。これは権威をつけることにも役に立っています。市民は権威ある支配者を望みます。だから国王というものは贅沢な暮らしをしなければなりません。私たち一家は国王ではありませんが、それに準ずる存在です。こうして神と関係がある客人をもてなすのも我々の仕事です。客人には最高の贅沢でもてなす、これが礼儀ですからね」

五味は内心怒りで震えていた。

「貧乏人は貧乏人のままかよ。貧乏のほうが幸せ?狭い世界にいることが幸せ?」

九頭も加須も同様な怒りを持っていた。

しかし、目の前のデブチ・パリは憎むべき相手とは思えなかった。そこには一個の人がいた。五味たちに対し心から歓待してくれるその親切心に五味たちは礼を言わざるを得なかった。

デブチ・パリは長男だった。

彼には姉がいた。上品な美人で柔和な人柄は誰からも好意を持たれる印象だった。

父親はこの町の長である。彼は五味たちを歓待するときに誠意を持って接してくれた。穏やかな性格で、この町の神官長を兼ねていた。つまり神に仕える身だった。

他の家族もみな上品で洗練された教養と礼節を持っていた。

この町にはこの町の哲学が支配者にも被支配者にも深く浸透しているようだった。

五味たちはその被支配者が本当に幸せだと思っているのか知りたかった。

被支配者が満足していると信じるのであれば、革命を恐れる理由はない。

そして、夜も更けてきたので歓待の夜食が終わり、五味たちは寝室に案内された。

デブチ・パリは言った。

「みなさまには、混乱の中、お逃げになったお仲間がいるでしょう?彼らはどこに行かれたのです?私たちはとんだご無礼をしたお詫びがしたいのですが?」

五味は言った。

「いや、彼らはもう、町の外にいると思います。なんとかするでしょう。その代わり俺たちを明日、朝食後に出発させてください」

デブチ・パリは残念そうに言った。

「そうですか。悪いことをしました。ではおやすみなさい」

五味と九頭と加須とジイは同じ部屋になり、アリシアとラーニャとオーリが同じ部屋になった。

五味は九頭と加須と深い話がしたかった。そのためにはジイの存在が邪魔だった。

四人がベッドに入ると、しばらくして、ジイが起き上がった。

「陛下、わしはどうもワインの飲み過ぎで腹を下したようです。トイレに行ってきます」

ジイは部屋を出て行った。

五味はチャンスと思い、九頭と加須との深い話の口火を切った。


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