308、体の名前
朝食を取ると、五味たちはロローの奥さんに宛てた手紙を聖処女に渡し、修道院をあとにした。
馬に揺られながら森の中を南西に向かって歩いた。
昼になると馬を降りて、修道院でもらったサンドイッチを道の脇で腰を下ろして食べた。
昨日、殺人事件を目にしたばかりの五味たちには、あまりに長閑な時間だった。
「なあ」
加須が言った。
「俺たち、こういう暇なときは、いつもエロい話をして暇つぶししてたよな?」
九頭は答えた。
「うん、してたな」
五味は言う。
「飽きなかったよな」
加須は言う。
「これからも飽きないと思うよ。でもさ、今、そういう話、したいと思うか?」
五味は言う。
「思わないよ。ロローの死に顔が眼に焼き付いている」
加須は言う。
「俺、まださ、昨日受けた傷口がピリピリ痛むんだよね」
九頭は言う。
「そりゃ、早くオーリに治してもらったほうがいいぞ。おい、オーリ!」
「なに?クーズ?」
「カースがまだ傷口が痛むってさ」
オーリは加須に近づいた。
「どう?見せて」
加須は半袖のシャツの袖をめくって肩を見せた。
オーリは手をかざした。
「風の神様、この者の、傷を癒やしたまえ」
オーリのかざした手から緑色の光が出て、加須の右肩から痛みが消えていった。
「すげえ、痛くない。ピリピリもしない。オーリ、おまえ、魔法の能力が上がったのか?」
オーリは答えた。
「ええ。魔法は使って休んでを繰り返すと力が上がるらしいわ。それより・・・」
九頭は言った。
「なんだよ?」
オーリは言った。
「昨日、あの戦いのとき、クーズはカース王のことを『加須』って呼んでたわよね?あれなに?」
五味も加須もドキッとした。
九頭は言った。
「あ、あれはなんて言うかな。あだ名だよ。カースよりも加須のほうが短くて言いやすいだろ?」
「じゃあ、私もカース王を加須って呼んでいいかしら?」
加須は答えた。
「え?あ、いいよ、べつに」
オーリはさらに訊いた。
「ゴーミ王とクーズ王にも略称があったと思うけど。なんだったかしら?」
加須は言った。
「五味と九頭だよ」
オーリは微笑んだ。
「ふたりのことをそう呼んでもいい?」
五味も九頭も「いいよ」と答えた。
五味たちは思った。
「そうだ、略称として呼んでくれればいい。転生がバレなければそれでいい。ん?俺たちは誰の人生を生きているんだ?」
オーリはアリシアとラーニャを呼んだ。
「ねえねえ、ラーニャ、アリシア、陛下たちのあだ名が決まったわ」
アリシアは言った。
「え?なになに?」
オーリは言った。
「ゴーミ王は『五味』、クーズ王は『九頭』、そして、カース王は『加須』。どう?言いやすいでしょ?」
ラーニャは言った。
「二文字ね。あれ?陛下とか王とか尊称は付けなくていいの?」
五味は言った。
「べつにいらないよ。めんどくさいだろ?」
そんな話をしていると少し離れた場所で休んでいたユリトスが歩いてきた。
「ゴーミ王、クーズ王、カース王、あなたたちは五味でも九頭でも加須でもない、そんなあだ名は国王に相応しくない。それとも、本当に国王であることを辞めますか?」
五味と九頭と加須は考えた。
「やばい、国王を辞めたら俺たちはただの人だ。強くもない魔法も使えない、それはやばい」
五味は言った。
「俺たちは国王だ」
九頭も言った。
「うん、俺も国王だ」
加須も言った。
「俺も」
ユリトスはまたその場を離れて行き、ジイたちの近くに座った。
五味は思った。
「ゴーミ王、あんたは何者なんだ?俺たちはいつまでこの体を借り続けなければならないんだ?いや、これは俺の体なのか?ほくろの位置まで前世と同じだ。しかし・・・」
九頭と加須も同じことを思った。




