30、魔法使いの変身師
ニセモノのカース王は、ロンガの王都に逃げた。そのあとをポルトスとアラミス、そして、ロンガ王国を騎士たちが追った。ニセモノは市場に逃げた。そこで馬を降りて走り始めた。市場は馬で追うには狭かったので、ポルトスもアラミスも馬から降りて、ニセモノを追いかけた。ニセモノはある角を曲がった。ポルトスもその角に向かった。そこから頭巾を被った中年の女が出て来た。ポルトスはその女を避け、角を曲がった。すると角を曲がったところで、また、その頭巾を被った中年の女とぶつかった。
「おっ、これは失敬。む?同じ女がふたり?」
一瞬ポルトスは考えた。
そして、後を振り返って叫んだ。
「アラミス!そいつだ!その女を捕まえろ!」
アラミスはその女の肩に走ってぶつかってしまい、「すみません」と言っている所だった。
その女は走って逃げだした。
「アラミス!そいつは変身する魔法使いだ。また、他の誰かに変身されると厄介だぞ!」
アラミスは中年の女を追いかけた。中年の女の足は若者みたいに速かった。
アラミスは叫んだ。
「誰かその女を捕まえろ!」
その女の前に屈強な男が立ちふさがった。
女はその屈強な男の姿になった。
屈強な男は自分と同じ人間が目の前に現れたので戸惑った。そのニセモノはその男を突き飛ばして前へ走って行った。
アラミスは追いかけながら思った。
「こいつはもしかしたら、目の前にいる人間にしか化けられないんじゃないか?カース王になったのはいつかはわからんが、目の前に本人がいるときだったに違いない」
男は逃げて行った。アラミスは追いついた。
「ちょっとまて」
アラミスは男のシャツを掴んだ。男は倒れた。アラミスは馬乗りになった。
「おい、ニセモノ、正体を現せ」
「お、俺は、正体がわからないんだ」
「なに?」
そこにポルトスも来た。
男は言う。
「俺は目の前にいる者そっくりそのままに変身できるんだ。つまり変身師だ」
「変身師?」
「魔法使いにはそれぞれ得意な魔法がある。俺は変身が得意なんだ」
アラミスは男の首を絞めて言った。
「だから何だって言うんだ?魔法が使えれば王に化けて国を乗っ取ってもいいってのか?」
「ち、ちがう、いや、おまえら俺の力を使ってくれないか?」
「なに?」
そこへユリトスとアリシアが来た。
男は言う。
「俺の変身術を人の役に立てたい。た、頼む。王に化けたのは悪ふざけが過ぎた」
ユリトスは言った。
「とりあえず、正体を見せろ。そうしないと信用できないだろう」
「だ、だから、俺は自分の正体の姿を忘れちまった」
「どういうことだ?」
「俺は目の前にいる人間にしか変身できない。人間ってのは世界にひとりずつしかいねえ。だから、俺は自分の本当の姿がわからねえ。俺だって本当の自分に戻りてえんだ」
「では、おまえの本当の名は何というのだ?」
「そ、それがわからねえんだ」
「わからない?自分の名を忘れたというのか?」
「そ、そうだ。俺は他の人間になって生きているうちに、本当の名を忘れちまった。もう、幼い頃から変身して、他人として生きて来たからだ」
「幼い頃からか、それは不幸だな」
そこへ、ラレンが馬を走らせて来た。
「たいへんだー!カース王が山賊に攫われた!」
「なに?」
「騎士たちが全員魔法使いを追いかけた隙に大勢やって来て、攫って行った」
「やれやれ、一難去ってまた一難か。その山賊どもはどこへ向かった?」
「北だ」
「よし、ポルトス、アラミス、追うぞ。まだ遠くには行っていまい。ラレン、おまえはその魔法使いを縛って、アリシアと待っていろ。その魔法使いは変身師だ。目の前にいる人間にしか変身できない。縛って王城の牢にでも入れて置くんだ」
「あいよ」
ユリトスたちは馬で北へ向かった。
ラレンは変身師の魔法使いを縛り上げ、王城へ連れて行った。
「おまえ、何にでも変身できるのか?」
ラレンの質問に変身師の魔法使いは答えた。
「ああ、目の前にいる人間ならば誰にでも」
ラレンは思った。
「使えそうだな。殺すには惜しい」
王城に入るときに、ラレンはその魔法使いを差し出して、本物のカース王が山賊に攫われたことを伝えた。
王城は騒然となった。
騎馬隊が出動した。
ラレンは変身師を引いてアリシアと共に城に入った。
城内の王の間には王のいない王座があった。その横に老兵ソウトスが立っていた。
ラレンは言った。
「こいつはニセモノのカース王だった奴だ。魔法使いの変身師らしい」
ソウトスは命じた。
「その者を地下牢にぶち込んでおけ」
ラレンは言った。
「老兵よ、この魔法使いは使える」
「なに?」
「これからの俺の旅で利用したいと思う」
「しかし、こいつは犯罪者だ」
「王の命には代えられないだろう?」
「うむ、わかった。しかし、とりあえずは牢にぶち込め。処遇はそれから考える」
魔法使いは兵士に囲まれ地下牢に連れていかれた。
ラレンはさらに言った。
「この王城の牢にゴーミ国王とクーズ国王が捕らわれているはずだが、釈放してくれないか?」
「それはならん、敵国の王だからな」
「そのふたり、カース王を救い出すのに利用できる」
「ならん、せっかく敵国の王を捕らえたのだ」
「カース王の命がそのふたりに掛かっているとしてもか?」
「どういうことだ?」
「俺は策士だ。国王二人の身柄を使えば、色々な作戦が考えられる。それに俺たちはこれからその王たちとドラゴニアを目指して旅に出かける。王たちがガンダリアやバトシアに帰ることは当面ない」
「ドラゴニア?そこになにがあるというのだ?」
「ユリトスによれば、三国の先代国王夫妻がそこで生きている可能性があるとのことだ」
「なに?それはまことか?」
「先代国王夫妻を連れ帰るためにも国王三人と旅をすることは必要なことだ」
「しかし、釈放というのは・・・」
そこへ攫われたカース王を追いかけて行った騎士団の一部が戻ってきた。ユリトス、ポルトス、アラミスも戻ってきた。
伝令係は言った。
「ソウトス閣下、カース王は大山賊カードックの一味に山岳地帯まで連れ去られてしまいました。今騎士団が、山岳地帯で山賊と戦っています」
ソウトスは怒った。
「カードックか。大山賊?ふざけるな。山賊ごときにロンガ王国騎士団が手こずっているのか?」
「山岳地帯は奴らの庭でございます」
ラレンは言った。
「俺に一計がある。そのためにもゴーミ王と、クーズ王を釈放してくれ」
ポルトスは言った。
「それから、ガンダリアの侍従長ジイ殿も捕らえられていると聞いているが?」
ソウトスは答えた。
「うむ、たしかにジイはいる」
ラレンは言った。
「そいつも使えるかもしれない」
ソウトスは言った。
「おまえにとっては誰でも役に立つのか?」
「ジイというのは、ガンダリアでは重要な地位にいたはずだ。役立つだろう。いや、立たないかな?まあ、とりあえず身柄を俺に預けてくれたらもしかしたらカース国王を救出するのに使えるかもしれない」
「わかった。国王ふたりとジイの身柄をおまえたちに渡そう」
ラレンは加えて言った。
「さっきも言ったように、魔法使いも俺にくれ。あいつは役立つ」
地下牢にいた五味と九頭とジイは鉄格子の牢を開けられたので、なにがあったのだろうと思った。
「出ろ」
牢番は言った。
五味と九頭とジイは牢から出た。階段を上がると、眩しい光の中にアリシアのブサイクな顔と色っぽい体が待っていた。
「「アリシア!」」
「大変よ、カース国王が山賊に攫われたそうよ」
「え?何があったんだ?」
アリシアは加須がカース王として戦場に現れ、ロンガにいたカース王をニセモノの魔法使いだと見破った一連の流れを話した。
九頭は言った。
「なんだ、あいつ、自分のハーレムを目前にして誘拐されたのか?運がないな」
五味も言った。
「じゃあ、あいつの代わりに俺たちがこの城のハーレムで遊ぼうぜ」
するとジイが言った。
「なりません。あなた様はガンダリアの国王。ガンダリアにお戻りくだされ」
「うん、それもいいな。マリンちゃんもいるし・・・」
そう五味が言うとアリシアは言った。
「ダメよ、カース王が山賊に捕らわれているのよ」
五味は答えた。
「ロンガの連中がなんとかしてくれるだろう?」
「なに言ってるんですか?旅の仲間じゃないですか?」
「仲間?いつから俺たちは仲間になったんだ?」
「え?何をひどいことを言うんです?」
「だいたい、俺たちに何ができるって言うんだよ」
そう歩きながら王座の間に出た。
ユリトスは言った。
「おお、国王ふたりとも生きていましたな」
九頭は言った。
「散々苦しんだよ」
「カースが山賊に攫われたんだって?」
五味が言うと、ユリトスは言った。
「うむ、みんなで助けに行きましょう」
「嫌だよ。俺はここのハーレムでしばらく遊んで、カースの帰りを待つよ」
「ダメです。カース王を救出したらそのまま我々はドラゴニアに向かいます」
「ねえ、ユリトスさん。そう旅を急ぐ必要はないんじゃない?」
「国王夫妻がどうなってもいいのですか?」
五味の本音は「そんな赤の他人の夫婦なんてどうだっていいよ」だったが、さすがにそれを言うと自分が本当の国王じゃないことがバレてしまうと思い言えなかった。国王であるというだけのことでこの世界で生き抜いて来られたのだ。ニセモノの王であることがバレたら、どうなるかわかったものではない。
ラレンは老兵ソウトスに言った。
「とりあえず、俺たちに食事をくれないか?腹が減っては戦ができん」
「うむ、いいだろう」
こうして、五味たちは食事をした。久しぶりの贅沢な食事だった。
食事を終えると一同は城を出た。そこにはジイもいた。
ポルトスは訊いた。
「ジイ殿、本当に大丈夫なのですか?山賊と戦うかもしれないのですよ」
「何を言うか。私はまだ若い。戦場で指揮を執っていたんですぞ」
「そうでした。すみません」
そこへ、ラレンがふたり出て来た。
「え?ラレンがふたり?」
一同は驚いた。
ラレンは言った。
「おい、魔法使い、ふざけるな。俺の姿になるなよ」
「じゃあ、どういう姿になればいいんだ?俺は常に誰かの姿を借りていなければならないんだ」
「じゃあ、ちょっとこっちに来い」
ラレンは魔法使いを連れて城の中へ引き返した。そして、若くて美しい青年を連れて来た。
アリシアはポッと顔が赤くなった。
「イ、イケメンだわ」
ラレンは言った。
「みんなこいつは魔法使いの変身師だ。城にいたイケメン兵士に姿を変えさせた。当分はこの姿で行動する。おい、魔法使い、自己紹介をしろ」
「はい、俺は・・・」
「どうした?」
「実は名前も忘れてしまって」
「しょうがねえな。じゃあ、俺が付けてやるよ。おまえは名無しだから、ナナシスだ」
こうして加須を救出するために五味たちは、ジイとナナシスを仲間に加え、ロンガの王都をあとにし、大山賊カードックがいるという北の山岳地帯に向かった。




