291、ぬかるみの道を西へ
朝になり、神殿の中にエンタシスの柱の間から日が差した。
五味たちは目を覚まし、太陽を見た。
「晴れたな」
ユリトスは言った。
「追っ手がメファニテから来るかもしれん。朝食を食べたら西へ出発しよう」
九頭は言った。
「西へ行くと、森の中でカルガンがひとりで待っているんだよな」
加須は言った。
「あんまり会いたくないな」
ラクルスは苦笑して言った。
「そう言わないでくれ。私は会いたい。息子だからな」
アリシアは訊いた。
「本当に息子なの?」
ラクルスは頷く。
「うむ、あの顔はやはり、私の顔とレヨンの顔を足して二で割った顔だ。太っているが」
一同は水と乾パンを食べた。
馬は四頭。ユリトスたちは武器もカネもない。あるのはチョロの盗んだ宝飾品、それからナナシスたちの馬に積んである食料と水といくらかの金銭。
一行は獣道すらない森の中を歩いて、西へ向かう道へ出た。ドラゴン街道とは違う道。行く先には田舎の村が点在するばかりだとオーリは言っている。
一行は森の中の道を西へ進んだ。雨上がりのぬかるんだ道だ。
五味は言う。
「でもさ、犀のドラゴンの神殿がメファニテから北へ行った所にある。他のドラゴンの神殿も、ここから先、この北の森の中にあるかもしれないじゃないか」
九頭は言う。
「サイのお母さん、あのフェニックスは西のどこにいるのだろう?」
加須は言う。
「鳥だからずっと遠くじゃないか?」
ラーニャは言う。
「でも、鳥から犀が生まれるのね?」
アリシアは言う。
「サイのお父さんは犀だったそうよね」
五味は言う。
「どうやってエッチしたのかな?」
ラーニャはツッコむ。
「だから、あんたはすぐにシモに走る!」
五味は言う。
「おまえがそういう話に持って行ったんじゃないか。鳥から犀が生まれるかしらなんて」
加須は言う。
「ドラゴンだからなんでもありなんじゃねーの?」
五味は言う。
「ジイ、そういえばクリスティーナとかいうバトシアの姫は悪いドラゴンに連れ去られたんだよな?十五年前に」
ジイは頷く。
「はい、そうです」
五味は言う。
「ドラゴンはその姫さんとエッチしたのかな?」
ジイは頭を掻く。
「さ、さあ、どうでしょう?」
九頭は言った。
「あ、みんな、俺はアトリフとサイの決闘の場にいた。そのとき、こういう事実を知った。あの悪いドラゴンに攫われたクリスティーナという姫はアトリフの婚約者だったんだ」
「ええ?」
オーリは言った。
「じゃあ、もしかして、アトリフの旅の目的はその姫を連れ戻すこと?」
九頭は頷いた。
「そうらしい」
アリシアは言った。
「アトリフもただの悪人ではないようね」
ラーニャは言う。
「なにか旅で起こる混乱を楽しんでいたみたいだったけど、本当は婚約者のことばかり考えて苦しんでいたのかしら?」
九頭は言う。
「そこをサイが攻撃した。アトリフは相当苦しんだよ」
オーリは言う。
「じゃあ、アトリフの目的がクリスティーナ奪還と、もしかしたら彼女を攫ったドラゴンを倒すことだとしたら、ゴーミ王たちドラゴンの血を受け継ぐ者を必要としているのはなぜかしら?そして、ドラゴンの秘宝・・・」
五味は言う。
「俺たちだいぶ、ドラゴンに出会ってきたよな」
加須は頷く。
「うん」
五味は言う。
「そろそろ、先代国王夫妻を召喚したドラゴンに会えないかな?」
九頭は言う。
「うん、でも、ラクルスが言う聖域まで行かないといけないかもな」
加須は腕を組む。
「聖域のドラゴンか・・・」
九頭は言う。
「とりあえず、俺が次に会いたいドラゴンはフェニックス、サイのお母さんだ。サイが死んだことを伝えたい」
一行は道がずいぶんぬかるんでいるために、道の脇の草が生えている辺りを歩いたりして、ぬかるみや水溜まりをよけながら進んだ。
しばらく行くと、道の真ん中にひとりで立ってこちらを睨んでいる、若い太った男がいた。右手にはサーベルを持っている。
カルガン王子だった。




