29、ニセモノの国王
その頃、ようやくハイヤールに辿り着いたユリトス一行は、ロンガ王国内でガンダリア王とバトシア王が捕らえられたという情報を得た。
「どうする?ラレン」
ユリトスはラレンに訊いた。
「う~ん、どうしようかな?予定通り、こっちがカース国王だと言って混乱させるか、でも、うまく行くかな?自信がねーぞ」
ラレンは腕組みして考えた。
彼らはハイヤールの食堂で食事を取りながら考えていた。すると、
「おい、あんた、カース王じゃないか?」
加須の顔を覗き込む、兵士がいた。
他の兵士も寄ってきた。
「本当だ、敵の王カース王に瓜二つだ」
そんなふうにしていると、食堂はそのことで大騒ぎになった。
そこでラレンは一計を案じた。
「みんな、聞いてくれ。俺たちは敵の国王カースのそっくりさんを見つけて来た。こいつを担ぎ上げて、こっちが本物のカース王だと言って敵を混乱させようと思っている。誰か、ガンダリア軍の司令官にそのことを告げてくれる者はいないか?我々は忠実なガンダリア王の僕だ」
そこに来ていた若者のひとりが言った。
「ユリトスさん!」
「君は」
「ハリーです」
「おお、あのとき山賊ゴメスに私たちが捕まっていたときに助けてくれた伝令係の!」
「ああ、覚えていてくれたんですね?あれ?国王陛下はいらっしゃらないのですか?」
ラレンが言った。
「今頃、陛下はロンガの牢獄の中だろう。我々は助けに行きたい。そのためにここに敵の王カースにそっくりな男を用意した。こいつを使って、なんとかロンガ国内に潜り込みたい。とにかく戦線を越えれば何とかなると思う」
ハリーは答えた。
「わかりました。司令官に伝えてきます」
ハリーは出て行った。
ハイヤールの町の周囲には戦争のために多くの仮宿舎が建てられている。その中に司令官の建物があった。
ハリーの報告を受け、司令官ドットスは言った。
「なにぃ?陛下がロンガ王国に捕らわれただとぉ~?報告では剣士ユリトスにその安全を任せていると聞いたが、しくじったのか?」
ハリーは困った。
「ユリトス様をここにお呼びしましょうか?」
「ううむ、ここは責任を追及したいところだが、陛下救出が最優先だ。連れて来い!」
ユリトスたちはドットス司令官の前に連れてこられた。
「ユリトス殿、あなたという人がいながら・・・まあ、責めている時ではない。で、策があると聞いたが?」
ラレンが答えた。
「ここに敵のカース王そっくりの少年がいます。こいつに立派な服と鎧を着けて、相手の最前線に出るのです。そして、相手を混乱させるのです」
ドットス司令官は加須の顔を覗き込んだ。
「う~む、こんなに瓜二つがこの世に存在するとは。しかし、成功するかな?」
「とにかく、司令官閣下にはこの者にカース王に相応しい服と鎧と馬を用意してくださればあとは俺たちでなんとかしますよ」
「うむ、物は試しだ、やってみよう」
こうして、加須を立派に飾り立て、王に相応しい馬に乗せ、ユリトス、ポルトス、アラミス、アリシア、そしてラレンは彼に仕える下僕の恰好をして、緩衝地帯に出た。
遠くにロンガの前線が見える。
馬の上からそれを見た加須はビビりまくっていて、失禁をしないようにそこばかり気にしていた。
一方、相手の前線では、緩衝地帯を、悠々と馬で来る貴人とその僕たちを見て、あれは何だ、と騒いでいた。
前線に近づくと、ラレンは大きな声で言った。
「みなの者、聞け!今、おまえたちの主君、カース王がお忍びの旅から戻られた。聞けばおまえたちはニセモノのカース王の命令で、愚かな戦争をしているという。しかし、本物のカース王はそんな愚かなおまえたちを寛大なお心で許して下さるそうだ。ありがたいと思え」
ロンガ軍はざわざわとしていた。
「え?あれが本物のカース王?」
「そういえば、顔がそっくりだ」
「いや、顔だけじゃない。体つきもそっくりだ」
そんなふうにしている兵士たちの前についに加須を乗せた馬を率いるラレンたちが到着した。
ラレンは大きな声で言う。
「みなの者通せ!カース王に無礼は許さんぞ!」
ある兵士が言った。
「そんな、バカなことがあるものか。カース王は今、お城におられるはずだ」
ラレンは言う。
「ではここにいるこのお方は誰なのだと言うのだ?」
そこへ、敵の中から、老兵が現れた。
「わしは、陛下が幼少の頃からお世話してきたソウトスという者だ。この馬上の者が本物かどうか、確かめてやろう」
「どうやって?」
ラレンが言うと、ソウトスという老兵は答えた。
「もし、この者がカース陛下だとしたら、お尻に大きなホクロがあるはずだ。それがあればこの方がカース王であると認めても良い」
加須は馬から降りた。そして、鎧を脱ぎ、尻を見せた。
ホクロはあった。
「うむ、間違いない。本物のカース王だ。ということは、今、城にいるカース王はニセモノということか!」
ラレンは言った。
「わかったか。わかったならば今から軍勢を率いて、城へ向かうぞ」
ソウトス老兵は頷いて馬に乗った。
「みなの者、この戦線には最低限の兵士を残し、我々はこの本物のカース陛下を頂いて、ニセモノを成敗しに行くぞ!」
「おー!」
ユリトスたちにも馬が与えられた。ユリトスの馬には馬に乗れないアリシアも乗った。
ユリトスは不安だった。
「上手く行き過ぎる」
加須も上手く行き過ぎる状況に恐怖していた。しかし、「もしかしたら、ハーレムでまた遊べるかも」などというゲスな気持ちもあって、そのことを考えることで恐怖を紛らわせようとした。
一方、こちらはロンガの王城。
カース王は、本物のカース王がガンダリアとの国境から軍勢を率いてやって来るという報を聞いてブルブル震えていた。
「それは何かの間違いだ。おのれニセモノめ、本物の王の力を見せつけてくれるぞ。全軍出陣だ!」
そして、両軍勢は、ロンガ王都の南に広がる荒れ地で相まみえた。
老兵のソウトスは大音声で言った。
「おい、ニセモノ国王よ。大人しく降参しろ!」
ニセモノのカース王も大音声で言った。
「そっちが本物で俺がニセモノだと言う証拠でもあるのか?」
「ある!」
「それはなんだ?」
「陛下の左の尻には大きなホクロがある。おまえにはそれがないだろう?」
「ある!」
「では証拠を見せろ!」
ニセモノのカース王は鎧を脱ぎ捨て、馬上に立ち上がり、尻を見せた。その左の尻には大きなホクロがあった。
「見ろ。俺は本物だ!」
老兵ソウトスは笑った。
「すまんすまん、陛下の尻のホクロは本当は右にあるのだった」
「な、なにぃ?」
馬上のニセモノのカース王の左の尻のホクロは消え、右側に新たに現れた。
老兵ソウトスは言った。
「いまさら遅いわ!この魔法使いめ!みなの者、そいつを捕えろ!」
馬上のニセモノは馬首を返し、ロンガの王都に向かって逃げ出した。
老兵ソウトスは叫んだ。
「逃がすな!追え!」
ロンガ軍の騎士たちは馬を走らせニセモノのカース王を追った。ポルトスとアラミスも馬を走らせた。アリシアを乗せたユリトスも後から追った。ラレンは本物のカース国王と共にゆっくりとロンガの王都へ馬を進めた。




