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289、息子を召喚

しかし、そんなことのあった後、食事を終えた頃、ラクルスは場の空気を破るように言った。

「みんな、少し言いにくいんだが、これはレヨンとも相談したことなんだが、カルガン王子を召喚してもいいか?」

「ええ?」

一同は驚いた。

ロローは言った。

「カルガン王子って、あのハイン国の皇太子の?」

「そうだ。レヨンとも話し合ったんだが、あれは私たちの子である可能性が高い」

ジイは言った。

「しかし、もうあの若者は二十歳くらいの大人ですぞ。いまさら、あなた方が親だと言って彼が納得しますかね?」

ラクルスは言う。

「しかし、一度でいい、親子で過ごしてみたいのです」

レヨンは言う。

「私は王妃としてあの子を育てました。私はあの子の親ではあります。しかし、このラクルスは我が子を育てたことはありません。一度でいいからあの子にお父さんと呼ばせてあげたい」

ジイは言う。

「カルガン王子が、いきなり自分は不倫の子であると言われどういう反応をするでしょうか?」

ラクルスは言う。

「だから、ここへ、召喚するのです。あの子は権力の座についていなければ何もできません。ここには部下がありません。ひとりです。ひとりでは何もできないでしょう」

ロローは言う。

「しかし、あいつはみんなを殺そうとした奴だぜ。あんな残酷な死刑を考える奴だ」

アリシアは言う。

「ええ、あのとき、死刑を見るのを彼は楽しんでいました」

ラクルスは言う。

「それはダルガンが育てたからです。私が育てればそんな人間にはならなかった」

ジイは言う。

「しかし、実際、あの子を育てたのはダルガンです。ということはダルガンの子ですぞ」

ラクルスは言う。

「しかし、私の血が流れている可能性が高い。太っているが顔も私に似ている」

五味は言う。

「じゃあさ、一度だけ、召喚してみたら?それで、あいつが乱暴振るったりしたら送り返しちゃえばいいんだ」

「送致、ですか?」

ラクルスは言う。

ユリトスは言う。

「ゴーミ王がそう言うならば、そうしてみてもいいのではないかな?みんな異論のある者は?」

みんな言った。

「異議なし!」

ラクルスは言った。

「では、さっそく、召喚します」

ラクルスは片膝を床に置き、両手も床に置いて目を閉じた。

「や」

そう言った、瞬間、目の前につむじ風が起きた。

その中に太った我が儘の坊ちゃんが現れた。

「う、なんだ、ここは?私に何が起こったのだ?」

カルガンは混乱していた。

レヨンが言った。

「カルガン殿下」

「お、母上?いったいここは?」

ラクルスが言った。

「カルガン、あなたは私の息子である可能性が高い」

「は?何を申すか?私はダルガンのひとり息子、カルガンだぞ」

「いいえ、あなたはこのラクルスの息子」

「あ、そうかどこかで聞いたと思ったら、犀のドラゴンが見せた幻覚をそのまま演じてるのだな?」

ラクルスは言う。

「幻覚ではない。真実です」

「真実などどうでもよい。ここに母上がいるならば私は王都へ連れ戻さねばならない」

そういうカルガン王子に母であるレヨンが言った。

「あなたはあの父親に満足しているの?」

カルガン王子は笑って答えた。

「ははは、父親に満足している息子などいますか?」

ラクルスは言った。

「それはダルガンのような男を父親に持つからそんなふうに思うのです」

カルガン王子は言った。

「いや、完璧な人間などこの世にいない。完璧な父親もこの世にいないのだ。父親を完璧だと思っている息子がいたらそいつは馬鹿者だ」

五味も九頭も加須もこのカルガンの考えには共感した。

ラクルスは言った。

「では、私を完璧だと思わなくてもいいから、一度お父さんと呼んでくれないか?」

「は?なぜ、赤の他人をお父さんと呼ばねばならないのだ?私の父はダルガンひとりだ」

「しかし、私はあなたの実の父親だ」

すると、カルガンは剣を抜いた。

「うるさい!おまえが私に何をしてくれた。育ててくれたか?仮に私と血がつながっているとして、おまえが私に何をしてくれた。ダルガン王は残酷だが、それでも私を愛してくれたぞ」

ラクルスは両腕を広げてカルガンに近づいた。

「私にはあなたを愛する機会がなかったのだよ」

「うるさい!」

カルガンはサーベルでラクルスの腕を切った。腕から血が出て、ラクルスは(うずくま)った。

カルガンは言った。

「それに王子である私がどこの馬の骨ともわからぬ、身分の低い男を父親だと喜んで呼ぶと思うか?」

ラクルスは傷口を押さえて言った。

「身分が低いと父親ではないのか?」

「私の父上はハイン国王、私は将来のハイン国王、おまえの息子などになって人生が面白いと思うか?さあ、母上、私と帰りましょう。いや、その前にここはどこだ?」

ラクルスは言った。

「わかりました。あなたの気持ちは。送致いたしましょう」

「送致?」

カルガンは首を(ひね)った。

ラクルスは両手をカルガンに向けて上げた。血が流れる腕を上げるには、痛みが伴ったが堪えて言った。

「送致!」

するとカルガンの周りにつむじ風が起こり、カルガンは消えた。

レヨンは言った。

「あの子をメファニテへ送り返したの?」

ラクルスはまた腕を押さえて、(うずくま)って言った。

「いや、西の森の中だ。私たちが西へ行けばまた出会うだろう」

「なぜ、そのようなことを?」

「あの子に考える時間を与えたんだ。権力者は森の中でひとりになったとき、どんな権力を発揮するか?ひとりでは権力など無力だろう?それにあの子をメファニテに返せば追っ手をよこすことになるだろう。それも避けた」

その頃、たしかに、カルガンは森の中の道にひとり雨に濡れていた。

「ここはどこだ?部下はいないか?誰か、私を助けろ!褒美は必ず与える。聞こえぬか、誰もおらぬのか?」

森の中で雨に濡れながら、カルガンは剣を振り回していた。


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