287、ユリトスたちの死刑
アリシアの歌で眠りについたカルガン王子は朝目覚めると、名案が浮かんだ。
朝食時にドンブラに話しかけた。ふたりはこの遠征ではともに食卓に着いていた。
「おい、ドンブラ」
「なんだす?殿下」
「いいことを思いついたぞ」
「なんだすか?」
「あのユリトスとか言う奴らをひとりずつ公開処刑していくんだ」
「そうするとどうなるだす?」
「奴らの仲間で母上を攫った奴らに言うんだ。母上を連れてこないと、おまえらの仲間は全員死ぬぞ、と脅すんだ」
「そんなんで仲間が来るだすかね?」
「来るさ」
その日の午前、ユリトスたちはメファニテの町の広場で鎖に繋がれた。詳しく描写すると、木の板に四肢を広げた状態で、手首足首を鎖で固定されるのだ。こうなると、いかにユリトスが剣豪でも反抗はできなかった。
全部で九枚の板にユリトス、九頭、加須、ジイ、アトス、ポルトス、アラミス、オーリ、ラーニャが括り付けられた。アリシアは歌がうまいために、カルガンに気に入られ、除外された。チョロはなぜかいなかった。
五味とロローは話し合った。
「どうしよう?」
「うーむ」
五味は言う。
「ラレン、なんか策はないか?全員助けることができたら十億だぞ」
ラレンは腕を組んで考えた。
「う~ん。こういうときは・・・なにか大きな力を利用する。天変地異、軍事、政治、・・・魔法?アトリフの魔法。時間を止めその間に全員救出・・・」
五味は笑顔になった。
「それだ!」
ラレンは言う。
「しかし、アトリフは憔悴しきってベッドにいるぜ。無理だろう」
五味は言う。
「でもさ、アトリフがその気になればできるんじゃないか?」
そんなことを言っているうちに、空からポツリ、ポツリと雨が降ってきた。
四肢を板に括り付けられたユリトスは空を見た。
「この雨が味方をしてくれないだろうか?」
隣に括り付けられたアトスは訊いた。
「先生、それはどういう意味ですか?」
「最後まで希望は捨ててはいけない。この雨も何かに利用できないか、そう考えるべきだ。それから、私たちは猿轡をかまされていない。喋ることはできる。言葉を使って策略を使うことはできるはずだ」
「つまりカルガンを騙すんですね?」
「うむ、取引もできる。口を使うんだ。そういえばアリシアはこの死刑から除外されている。歌が上手いからだ。これも利用できないか?あるいはアトリフの所にいるゴーミ王、デムルン宰相の息子ロロー、まだ、カードは残されている」
雨は強くなった。
九頭と加須は泣き始めた。
「ああ、俺たちはこんなところで終わっちまうのか?嫌だよ~、死にたくないよ~」
「ああ、ここで死んだら、神様は生まれ変わらせてくれるだろうか?この記憶を持ったまま」
ラーニャは横で喚くふたりに言った。
「男が何を言ってるの。このピンチを乗り切る案を考えなさいよ」
九頭は言った。
「だって、無理だよ。せめてこうやって鎖に繋がれる前にユリトスさんたちが剣で暴れてくれればよかったんだよ」
加須も言った。
「そうだよ、今までの経験上、そういった混乱の中にこそ活路はあるのに、こうやって縛られちゃ、どうにもならないよ」
オーリは言った。
「そういえば、チョロは何をしているのかしら?」
九頭は言った。
「どうせ、泥棒だろう?あいつはそういう奴だよ」
加須は言った。
「アリシアは助けてくれないかなぁ?助けてくれたら、たっぷりエッチなことしてあげるのに」
ラーニャは言った。
「あんたバカなの?こんなときにエッチとか言うんじゃないわよ、バカ」
九頭は言う。
「五味、どこにいるんだよ~」
オーリは言う。
「クーズ王やカース王はときどき、ゴーミ王を五味って呼ぶわね?あと、九頭とか加須とか」
九頭はオーリの鋭い洞察もこの期に及んではどうでもよかった。
「俺たち三人は親友なんだよ~」
加須も言った。
「ああ、俺たちの絆は前世からあるんだ。五味よ、助けてくれよ~」
ラーニャは言う。
「さすが三国王ね。前世からの絆。この三人にはぜひ三国の王座に戻って欲しいわ」
ジイが言う。
「クーズ王、カース王、しっかりしてくだされ。ゴーミ陛下は必ず助けてくださる」
雨は土砂降りになってきた。
広場に面したホテルの窓辺でカルガン王子はドンブラに言った。
「もう、レヨン王妃が現れなければひとりずつ処刑していくことは広報したな?」
「はい、しただす」
「ならば、さっそく、ひとりめを殺そうか?」
「え?もうだすか?」
「うむ、こちらが本気であることを見せねばなるまい。それに人が死ぬのを見るのは楽しいじゃないか」
ドンブラは驚いて思った。
「この残酷さ、やはりダルガン王の息子だすな」
カルガンはウキウキした顔で言った。
「さて、誰から殺そうかな~。いきなりリーダーのユリトスって奴かな~。どうしようかな~。あのじいさんにしようかな~。それともあの娘にしようかな~。太ってる方か、痩せてる方か。う~ん、迷うな~」
散々考えたあげくカルガンは決めた。
「よし、脇役っぽい奴から殺していこう。まずは爺からだ。死刑執行人、槍で心臓を串刺しにしろ。両手両足を広げてあるからそれが一番やりやすいだろう?」
死刑執行人は土砂降りの中を槍を持ってジイの前に立った。
すると、異変が起きた。
突然ユリトスの姿が消えたのだ。
鎖で板に縛られていたユリトスが、一瞬にして消えてしまった。
ホテルから見ていた五味もこれには驚いた。
「え?どうなっちゃったんだ?」
隣にいたロローも驚いていた。
そして、ロローはまた新たな驚きに出会った。隣にいた五味も消えたのだ。一瞬にして影も形もなくなった。
それからは早かった。
九頭が消え、加須が消えた。ラーニャが消え、オーリが消えた。ジイも消えた。アトス、ポルトス、アラミスも消えた。
そして、最後にロローも消えた。
隣にいたラレンは驚いた。
「なんだ?何があったんだ?」
カルガンとドンブラも驚いた。
横にいたアリシアも消えたのだ。
「これはいったいどうしたんだ?」
「何があっただすか?」
土砂降りの広場に残されたのは鎖のついた板だけだった。




