280、西へ行く者、メファニテに戻る者
朝、九頭が起きると、隣に眠っていたはずの五味がいなかった。テントを出ると、ユリトスとポルトスとアラミスとアトスが、木の下でしゃがみ込んでいる。
そこにはザザックと加須がいた。ザザックも加須も眠っていた。
加須は目を覚ました。
「あれ?ここは?」
ユリトスは言った。
「カース王、あなたはテントではなくこんな所で夜を明かしたのですぞ」
「え?」
加須が横を見るとザザックが眠っていた。
「うおっ、ザザック、なんでこんな所に?」
アトスは言った。
「これは犀のドラゴンに話を聞いた方が良さそうだな」
九頭は言った。
「大変だ!ゴーミがいない」
ユリトスは言った。
「そうか、やはりここに来たのはザザックだけではなかったようだな」
「ラレン・・・」
九頭は言った。
「五味はラレンに攫われたのか?」
ポルトスは言った。
「しかし、なぜ、ラレンはゴーミ王を攫い、ザザックは、おそらくカース王を攫おうとして、失敗し、ここに寝ているんだ?もちろん犀のドラゴンが絡んでいるのだろうが?」
犀のドラゴンはゆっくりと起き上がり、ユリトスたちの所に近づいた。他のテントからも全員起き出してきた。
九頭は訊いた。
「サイ、何があったんだ?」
犀のドラゴンは言った。
「夜中に立ち小便に出たゴーミ王とカース王がラレンとザザックに攫われそうになった。僕は眠ったままそれに気づいて彼らの精神に攻撃した。正確には彼らの過去に攻撃を加えた。しかし、ザザックには効果はあったが、ラレンには効果がなかった」
「どういうこと?」
九頭は訊いた。犀のドラゴンは答えた。
「彼の辞書には過去という文字はないそうだ」
「過去という文字がない?」
「それでラレンはゴーミ王だけを攫って、メファニテへ戻ったよ。あそこにはカルガン皇太子が来た頃だよ」
するとレヨンが言った。
「カルガン皇太子が?それは私の息子です」
「会いに行くかい?」
と犀のドラゴンは訊いた。
レヨンはラクルスの顔を見た。
ラクルスは言う。
「仮に本当にあのカルガン王子が私の息子だとしよう。それを彼に伝えたところで、何か変わることがあるだろうか?彼は皇太子だ。自分はレヨンとダルガンの息子だと信じているに違いない。私がどんなに説明しても彼は私の息子である可能性が高いことを信じないだろう。彼の人生に私の存在などなかったのだから」
ポーランが言った。
「じゃあ、どうする?」
ラクルスは言った。
「レヨン、私とこのまま逃げよう。カルガンは私たちの息子ではない。ダルガンの息子だ」
レヨンは悲しそうな顔をした。
「しかし、あんな子でも、私の息子です」
ラクルスは言った。
「じゃあ、レヨン、君は戻るのか?ダルガンの元へ」
「嫌です。それだけは」
「じゃあどうするんだ?」
「私はラクルスと新しい人生を生きたい」
「じゃあ、私たちはこのまま西へ向かうとしよう。レヨン、それでいいね?」
「はい」
レヨンが頷くとポーランも言った。
「私も親友として、このふたりについて行きます」
ユリトスは言う。
「では、私たちは・・・ドラゴン、どうしたらいい?」
「僕はゴーミ王を連れ返しにメファニテに行くよ。君たちもそのつもりなんだろ?」
チョロが言った。
「でも、これは罠だろう?特にサイ、あんたが行くのは奴らの思うつぼじゃないか?アトリフはあんたに仕返しするつもりだよ」
「わかっている。それでも行く」
オーリは言った。
「でも、ちょっと待って。ゴーミ王は攫われたけど、アトリフたちは彼をどうしようとしているのかしら?拷問したり殺したりするかしら?彼らもゴーミ王がいなければ困るはず」
九頭は言った。
「じゃあ、ゴーミを見捨てて行くのか?オーリ」
「見捨てるというか、私たちは無視して西へ行けば、アトリフたちもゴーミ王を連れて追ってくると思うの」
すると、犀のドラゴンは唸った。
「オーリさん。それは希望的観測だ。カルガン皇太子がドンブラ将軍とメファニテに来ている。もし、彼らにゴーミ王が捕らわれたらと考えないのかい?」
オーリは言う。
「ゴーミ王が捕らわれる可能性はどれほどあるのでしょうか?」
「そんなことより、見捨てられたゴーミ王はなんと思うかね?」
「見捨てるのではありません」
「ゴーミ王からしたらどう見えるのだろうね?」
犀のドラゴンの言葉にラーニャは言った。
「そうよ、オーリ、ゴーミ王はきっと私たちが助けに来てくれると信じているわ」
オーリはハッとした。彼女は自分中心に考えていて、仲間の「気持ち」まで考えていなかった。反省した。
「わかったわ、メファニテに戻りましょう」
ユリトスは言った。
「ラクルスたちはやはり西へ行くのですね?」
ラクルスは答えた。
「はい、私とレヨンとポーランで西へ行きます」
すると、ナナシスは言った。
「俺はポーラン師匠のもとで修行したい。本当の自分を見つけたい」
ユリトスは言った。
「わかった。おまえはポーランと共にレヨン妃たちを守って西へ行け。ロロー伯爵あなたはどうする?」
「僕はラレンを殺すことを目的に旅をしている。やっぱりそれは変えられない。こちら側の思想の変遷で、許したり許さなかったりというのはおかしい。あいつを殺したら、あるいはあいつに詫びさせられたら、僕は王都に戻って、奥さんと共に貴族としての暮らしに戻るよ」
ユリトスは頷いた。
「オーリ、アリシア、ラーニャはメファニテに行くのでいいか?」
三人は頷いた。
「ジイはもちろんメファニテに戻るのだろう?」
「もちろんじゃ。わしはゴーミ陛下を守るためにこの旅をしているのじゃ」」
「チョロ、おまえはどうする?」
チョロはニヤリと笑って言った。
「もちろんメファニテに戻るよ。一仕事できそうだ」
ユリトスは渋い顔をしたが言った。
「よし、軽く朝食を摂ったら、出発しよう」
一同は乾パンを食べ、水を飲んだ。
馬に乗った。
ラクルス、レヨン、ポーラン、ナナシスの四人は西へ旅立った。
残りの者は、メファニテに向かって元来た道を戻り始めた。犀のドラゴンも続いた。
森の中に残されたのは眠るザザックと彼の馬だけだった。




