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28、ロンガ国境

ラレンから五味と九頭がラーニャたちに(さら)われたことを知らされたユリトスたちの中で、ひとり喜んだのは加須だった。

「お、俺がアリシアの体を独占する展開か?」

ゲスである。そういえば五味と九頭と加須は友達だったのだろうか?転生前では、学校一の優等生美少女美好麗子(みよしれいこ)を手に入れるために彼女の相手に相応しい優等生美男子出木杉(できすぎ)(おとし)めるという外道なことを協力してやっていた最低な三人に過ぎない。いや、そのうちに友情みたいなものが芽生えたのだろうか?そもそも友情とは何だろう?いや、これは真面目な小説のテーマみたいだから追究しないが、とりあえず、五味と九頭が攫われたことを聞いた瞬間、加須が見たのはアリシアの体だった。

「いい胸、いい尻、ふふふ」

ラレンはユリトスに訊いた。

「どうする?」

「とりあえず、情報が欲しい。今から全員でこのナキアの町中に聞き込みを行おう」

ユリトスがそう言うと、全員が立ち上がった。

ユリトスは言った。

「おっと、カスラス殿はこの宿に残ってください。アリシア、君はカスラス殿と共に部屋で待っていてくれ」

そのとき、加須は思った。

「お、アリシアちゃんとふたりきりで宿の部屋で?ムフフな予感」

ラレン、ユリトス、ポルトス、アラミスは宿を出て、夜のナキアの町に聞き込みに行った。

加須は彼らを見送ったら言った。

「じゃあ、アリシア部屋に行こうか」

「ゴーミ陛下とクーズ陛下はどうなるのかしら?」

「まあ、ユリトスさんたちがなんとかしてくれるんじゃない?それより早く部屋に行こうよ。二階だね」

ふたりは二階に上がった。部屋からはケリーの酒場が見下ろせる。町は大きいがもう夜で暗く、街灯りというものはそれほど明るくはない。加須は転生前の日本の故郷がいかに明るかったかがよくわかった。この世界に電灯はないのだ。

 そんなランプひとつの薄暗い部屋に、加須はアリシアとふたりきりになった。

「おお、いい、アリシアは薄暗いところで見るのが一番いい」

アリシアは窓辺に椅子を置いて外を眺めた。その後ろ姿を加須はジロジロ見てその体を堪能(たんのう)した。しかし、アリシアにいきなり抱き着くとか、「抱かせてくれ」とか言う勇気は加須にはなかった。アリシアはハーレムの女とは違う。一般の女だ。弱気な加須はアリシアの後ろ姿を見て、想像力を働かせるばかりだった。

 ユリトスたちが戻ってきた。

「どうも北へ向かったらしい」

「北か、ハイヤールか」

「よし、行こう」

加須とアリシアのいる部屋のドアが開けられた。ポルトスだった。

「カース国王、アリシア、出発だ」


その頃、五味と九頭を運ぶラーニャたちはナキアとハイヤールの中間地点にある集落に馬を停めた。そこの農夫から麻袋と幌馬車(ほろばしゃ)を買った。五味たちは麻袋をかぶせられて、幌馬車の荷台に積み込まれた。そして、ラーニャたちはすぐに出発した。


未明、ハイヤールにラーニャたちは着いた。彼女らは徹夜で疲れていたが、追手があると思い休めなかった。

「よし、急いで朝食を取ったらロンガへ行くぞ」

ラーニャたちは、幌馬車に見張りをひとり残し、宿の食堂で朝食を取った。ラーニャたちが戻ってくると見張りだった者にはパンと水が渡され彼はそれを朝食にした。

「行くぞ」

幌馬車と三人の馬に乗った男はハイヤールの北側にある検問所に着いた。

検問所では当然検問が行われていた。

「まてー」

幌馬車は停まった。

「ここから先は戦場である。ここを通るにはよほどの理由がなくてはならん」

そう検問の兵士が言うと、御者台に乗った男は答えた。

「私らは、ロンガ王国の貴族のお嬢様を故郷にお連れするためにここを通りたいのです」

「なにぃ~?貴族のお嬢様だと~?(ほろ)の中を(あらた)める」

兵士は幌の後ろの幕を開けた。すると中に裸の少女が横たわっていた。

「う」

兵士は童貞だった。彼は見てはいけないものを見てしまったと思いすぐに幕を閉じた。

「いいだろう。通れ」

幌馬車は進み始めた。実は童貞兵士が見た裸の少女の奥に麻袋がふたつあり、その中にはゴーミ国王と、クーズ国王が縛られて入っていたのである。

幌馬車は緩衝地帯(かんしょうちたい)へ入って行った。


その頃、ユリトスたちは途中の集落にいて、農夫から幌馬車を買った者がいることを知った。

「まずいぞ。陛下たちをロンガに連れて行く気だ」


その日の午前、日が高くなった頃、幌馬車は戦場に着いた。

戦場は小康状態(しょうこうじょうたい)になっていた。そこのガンダリア側の守備陣の間を幌馬車は悠々と通り抜けた。そこでもラーニャの裸は有効だった。

おかげでラーニャたちは難なくロンガに入ることになった。ロンガの側では、服を着たラーニャが交渉し、ニセモノのカース王に直接、土産を献上することになった。もちろん土産とはゴーミ王とクーズ王である。

 五味と九頭は縛られ目隠しをされ、猿轡(さるぐつわ)を噛まされ、麻袋に入れられていたから自分たちがどこにいるのかまったくわからなかった。

 ニセモノのカース王は現在、王都にいるとのことで、ラーニャたちはそこまで行くことになった。王都は国境から近かった。ガンダリアにとってナキアと同じような国境との距離にあった。途中の村でラーニャたちは一泊し、翌日、ロンガ王都に着いた。それまで五味と九頭は縛られたまま一滴の水も与えられず。本人たちは「あ~あ、もう死んだな」と思っていた。麻袋を取られ、目隠しと猿轡を外され、(いまし)めを解かれたとき、ふたりは地下牢にいた。

「ここはどこだ?」

そう、五味が言うと、同じ牢の暗がりから年老いた男の声が聞こえた。

「ここはロンガの王都、その城の地下牢でございますぞ、ゴーミ陛下」

五味は暗がりの中に浮かび上がったその顔を見た。

「ジイ!」


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