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279、老神官とザザックの妹

「で、ザザック君。君はそのあと剣の腕をあげ、多くの人を殺したね?」

それは犀のドラゴンがザザックの脳内に直接語りかける言葉だった。

「ああ、殺した。人生は、死ぬか、殺して生きるかだ」

「それは君の師匠の教えかい?」

「そうだ。それと俺の経験から出た真実だ」

「でも、君は老人の神官を殺さなかった。彼の優しさは受け入れたはずだ」

「へっ、何を言ってやがる」

「そこは誤魔化すべきじゃないよ。君の両親はどうだったか、まだ見ていないが、その老神官は君を愛してくれた。違うかい?」

「あいつはそういう慈善を行う立場にあるからそうしたんだ。良いことをすれば株が上がるからな」

「素直じゃないね。君は彼に助けられたときのパンの味を覚えているかい?」

「貧相なパンと薄味のスープのことか?」

「薄味だったことまで覚えているんだね。相当な記憶だ」

「くだらねえことをいちいち思い出させるな!過去なんか捨てたんだよ、俺は!」

「本当かい?妹の記憶も捨てたのかい?」

「ああ、捨てたよ」

「じゃあ、君は女の子を殺せるかい?」

「く、この野郎、人の弱みにつけ込みやがるな。それでどうしたいんだ?俺に善良な市民にでもなれってのか?俺はアトリフ五人衆の剣士ザザックだ」

「君にはここで眠っていて欲しいんだ」

「なに?」

「そうだ、お父さん、お母さん、そして、妹、家族で幸せに暮らしていた幼年時代を見せてあげよう」

「残念だったな。俺の両親は最低な親だ。いつも俺たちをほったらかして、毎晩酒を飲んでいた奴らだ。おまえの思うように同居していたからといって、幸せな家庭じゃなかったぜ。ただ、食い物は食わせてくれたし、服も寝床もあった。それだけだ」

「本当にそれだけかね?」

「俺の家族は妹だけだ」

「そうか、じゃあ、妹との幸せな時間を過ごさせてあげるよ」


ザザックはいつのまにか、野原にいた。

自分を呼ぶ声がする。

見ると、野原に花を編んだ冠をかぶり、もうひとつ冠を持った妹がいた。

「兄ちゃん、お花の冠作ったよ。これ兄ちゃんの分だよ」

妹はまだ幼い姿だった。ザザックはもう大人の姿をしているようだった。

「おまえ、まだ、歳を取らないのか?」

「兄ちゃん。遊ぼうよ。冠かぶってよ」

「あ、ああ」

ザザックは野原の中を歩いて妹に近づいた。

「兄ちゃん。もうどこにも行かないでよ」

「ああ、あれ?俺はどこに行こうとしていたのだろう?」

「はい、兄ちゃん、冠だよ」

ザザックは頭を下げて妹から冠を頭に載せてもらった。

「兄ちゃんとあたしで王様と王妃様ね」

「ああ、それはすごいな」

ザザックは泣いていた。

「さあ、兄ちゃん、行こうよ。野原の真ん中まで」

妹はザザックの手を引き、ザザックもされるがままに野原の広いところへ向かって走り出した。


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