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273、ヨッチャンはアトリフを診る

夜、アトリフの病床にエイルカから名医が来た。

「こんばんは。ヨッチャンだ」

医者はアトリフの部屋に入った。

アトリフはベッドで(うめ)いていた。

「よし、ヨッチャンが診てやろう」

ザザックは言った。

「なんだ、名医ってあんたのことか?」

ヨッチャンは言った。

「名医と言ったらこの辺ではヨッチャン以外にいないだろう?さあ、診せなさい。む?」

アトリフはベッドの上で布団を掛けていて、腕を出していた。呻きながら両腕を動かす。

「クリスティーナ、おまえは、おまえはー!」

ヨッチャンはエレキアに訊いた。

「クリスティーナとは誰です?」

エレキアは答えた。

「私たちはロガバ三国の南バトシアから来ました。昔、バトシアに悪いドラゴンがやってきて、このアトリフの婚約者を攫っていきました。その婚約者の名前がクリスティーナです」

ヨッチャンは言った。

「なるほど、婚約者か。むむむ、わかったぞ、この人の病名」

「なんです?」

「恋の病だ」

ラレンはツッコんだ。

「そんなの素人でもわかるわ!」

ヨッチャンは言う。

「ただの恋の病じゃない。ドラゴンに攫われた恋人を遠路はるばるここまで来られた精神力がある人間がこんな状態になるのはおかしい」

エレキアもラレンもザザックもそしてラミナもヨッチャンを高く評価した。

ヨッチャンは言った。

「こうなるには何かきっかけがあったでしょう?」

ラレンは言った。

「ドラゴンが、犀のドラゴンがアトリフの心を錯乱させてしまったんだ」

ヨッチャンはアトリフを見た。

「つまり魔法でこうなったわけか?それならば魔法で治すのが一番だ。いや、その前に」

ヨッチャンは脈を取った。そして、アトリフの額に手を置いた。

「凄い熱と汗だ。みんな、汗を拭くタオルと、冷たい水を用意してくれ」

エレキアはタオルを用意し、ラミナはバケツに水を汲んできた。

ザザックは、「こいつ、本当に医者なんだな」と思った。

エレキアとラミナが協力してアトリフの体を乾いたタオルで拭いた。ヨッチャンは、鞄から大きな木の葉を取り出し、バケツの水に浸けた。

「これは外用精神薬、この葉っぱを額に載せてヨッチャンが癒やしの魔法をかける」

そう言って、ヨッチャンは葉っぱをアトリフの額に載せた。そして、自ら両手をかざし、目を閉じた。ラレンたちは目を見張った。ヨッチャンの両手から、青い炎のような光が出た。ヨッチャンは顔に汗をかいている。アトリフの呻きは静まった。

ザザックは、「すげえ」とヨッチャンを驚きの眼で見た。

ヨッチャンはしばらく青い炎のような光をアトリフに当てていたが、それをやめて、手を引っ込めた。

ヨッチャンは言った。

「しばらく、ヨッチャンが通って、この作業を続ける。みなさんはこの葉っぱを定期的に冷たい水で濡らして、このアトリフの額に置きなさい。ヨッチャンはまた、明日の朝、来る。ところで・・・」

ヨッチャンはエレキアの顔を見た。

「もう少し訊きたいのだけど、アトリフはクリスティーナをまだ愛しているのだね?」

エレキアは言った。

「はい、愛しています」

ヨッチャンは言った。

「遠距離恋愛は信じる心が大事だ。アトリフが攻撃を受けたのは、その信じる心を揺さぶられたのだ。ヨッチャンはそう診た。信じる心を取り戻せば、アトリフは正気に戻る。ヨッチャンの魔法と湿布はその補助に過ぎない。アトリフに信じる心を取り戻させるようなあなたたちの声かけの方が、回復を早める薬になる。じゃあ、また明日」

ヨッチャンは鞄を持って出て行った。

ザザックは言った。

「なんだよ。まともな医者じゃないかよ。もっとふざけた奴かと思ったのに」

ラレンは言った。

「ここはエレキアとラミナの声かけが大事だな。俺はアトリフとはいえ病人の看病をする柄じゃない。ザザック、おまえはどうだ?」

「ラレンよ、同感だ。俺たちはバーにでも行こうか」

ラミナは言った。

「無責任ね」

「いや、まてよ」

ラレンは思いついた。

「おい、ザザック、北へ行ってみないか?」

「北?」

「あいつらを追いかけるんだよ」

「あいつらって、まさか・・・」

「ユリトスどもと、犀のドラゴンを追うんだ」

「危険じゃないか?」

「危険だ。だから面白い。アトリフにいい土産を持ってきてやろうぜ」

ザザックは笑った。

「ははは、おまえらしいな。乗ったぜ」

ラレンは病床のアトリフを見下ろして言った。

「おい、アトリフ、俺があの犀野郎の首を持って来てやらぁ。いや、犀の首はデカすぎる。角の先でも持って来るぜ」

アトリフの口角は少し上がったように見えた。

翌朝、ラレンとザザックは馬に乗ってメファニテから北へ向かった。


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