27、ケリーの酒場
「で、どうやって、ロンガ国境の戦場を越えるかだが」
そうラレンは切り出した。もう彼はユリトスたちと同じテーブルに着いている。宿の外から、ケリーの酒場からやって来た商売女たちのラレンの名を呼ぶ声がする。
ラレンはそれを黙らせるために窓の外に体を乗り出した。
「おい、わかったから騒ぐなよ。あとで相手してやるからさ。これで酒でも飲んで待っていろ」
そう言って、カネの入ったきんちゃく袋を窓の外へ投げた。
女たちは「きゃー」と言ってそれを拾い奪い合いつつケリーの酒場へ帰っていった。
静かになるとラレンは加須に言った。
「おい、少年、あんた、ロンガの王様だろう?」
加須はビビりながら答えた。
「そ、そうだ」
「そうビビるなよ。で、あんた、ロンガから逃亡してきたんだろ?」
「そ、そうだ」
「どうやって、戦場の国境を越えた?」
「ボルメス川を下った」
ラレンは笑った。
「だろうな。それが一番確実だ」
そういえば五味たちがガンダリアからバトシアに逃れたのもボルメス川だった。ボルメス川はドラゴニアからロンガ、ガンダリア、そしてバトシアを流れ海に注いでいる大河である。
ラレンは続けた。
「しかし、あの川は流れが速い。遡上は無理だ」
「ではどうする?」
ユリトスが訊くとラレンはニヤリと笑った。
「ロンガ国王カース陛下がここにいる。それを使わない手はないだろう?」
「と言うと?」
「こちらで、ロンガ国王軍を作って逆に攻めるんだ」
「え?」
一同は驚いた。
「どうやって?」
訊いたのはアラミスだった。
「ガンダリア軍をロンガ軍に化けさせる。兵隊ってのは戦場で誰がどちらの味方かわかるように、兵士の姿を統一してるんだろ?」
「まあ、そうだが・・・」
ポルトスは黙った。
ラレンは言った。
「まあ、明日、とりあえず、戦場に一番近い町、ハイヤールまで行こう。そこでまた作戦を考えるんだ」
ユリトスは頷いた。
「うむ、そうしよう」
「じゃ、俺はまた女たちと酒を飲んでくる。明日の朝、また会おう」
ラレンは立ち上がり、宿の食堂を出て行こうとした。
それを呼び止めたのは加須だった。
「ラレン!」
ラレンは立ち止まり振り返った。
「なんだい?」
「俺は死なないだろうな?」
「みんないつかは死ぬさ」
ラレンはニヤリとしてまた行こうとした。
それを呼び止めたのは、九頭だった。
「酒場で女と酒を飲むってのは、××や△△をするのか?」
「それだけじゃねえよ」
ラレンは笑った。
「○○も◇◇もするぜ」
「俺たちも連れて行け」
と言ったのは五味だった。
ラレンは笑って言った。
「ははは、俺たちとは何人だ?三銃士や世界一の剣豪を含むのか?まさか、その女の子も含むのじゃないだろうな?」
もちろんアリシアのことだ。
「俺とクーズとカースだ」
と五味は言った。
加須は言った。
「ゴーミ、俺はいいよ。なんかそういう気分じゃない」
五味は加須に言った。
「バカだな。チャンスじゃないか。俺たちはいつまたハーレムに戻れるかわからないんだぞ」
九頭も言った。
「そうだよ、カース王、俺なんかバトシアははるか遠い南の国だ。もう自分のハーレムが遠い異国だ。おまえなんかこれから自分のハーレムを奪い返す可能性があるんだぞ。強気になれよ。王ならば豪遊しなくちゃ」
アリシアは五味と九頭の破廉恥さに呆れるとともに、王としての豪快さを感じて、王族ファンとしては感動していた。
「さすが、王様だ。言うことが違う」
「俺は不安なんだよ」
加須が言った。
「俺のニセモノがいるんだぜ?俺が行ったら絶対すぐに殺されるだろう?」
五味は持論を吐いた。
「死ぬのが怖いから女を抱く。生存本能じゃないか?違うか?」
「正論だな」
九頭は頷いた。
ラレンも笑って言った。
「ゴーミ王、わかっているじゃないか。明日がわからないから男はとりあえず女を抱くんだ。よし、俺の奢りだ。ゴーミ王、クーズ王、カース王、来い。いやー、俺も国王三人に女を奢る男になったか~、かっかっか、愉快愉快」
「俺は行かないぞ」
加須は座ったままパンをかじった。
五味と九頭はもう加須は放っておいて、ラレンについて女を抱きに行くことにした。
ラレンについて、五味と九頭は宿の向かいにあるケリーの酒場に入った。
すると中から若い女の声でこう言うのが聞こえた。
「あら~?ラレン、なんであたしがあげた王様ふたりを連れてここに来たんだい?」
それは山賊の親分ゴメスの娘、ラーニャだった。
五味と九頭は思った。
「「おおっ、腰の括れ!」」
このふたりは、加須もそうかもしれないが、こんなふうにしか女を見ないところが最低だと言えるだろう。まあ、十五歳の男などそんなものかもしれないが・・・。
ラレンは言った。
「おお、これはこれは、ゴメスの娘じゃないか?どうしたんだい?」
「あたしだけじゃないよ。ここにはラーニャ五人衆がついてるんだ」
ゴメスの子分の生き残り五人が、ラーニャを守るように立ち上がって、ラレンを睨んだ。
「おお、怖い怖い。五人衆か。アトリフ五人衆を真似たのかな?」
ラレンは笑って言った。
「で、どうしようと言うのかな?そうだよな、この王たちは、おまえのお父さんを殺したんだよな」
ラーニャは言った。
「親父が殺されたことは恨んじゃいない」
「じゃあ、どうするんだい?」
ラレンが言うと、ラーニャも笑って言った。
「こうするんだ。おい、五人衆、この王ふたりを縛り上げろ」
五人の屈強な男はロープで簡単に五味と九頭を縛り上げてしまった。
「行くぞっ」
ラーニャは五味と九頭を担いだ五人衆を連れて店から出て夜の中へ出て行った。外には馬がいて、ラレンが外へ出ると、馬に乗ったラーニャたちは、五味と九頭を乗せて蹄の音を響かせて闇の中へ消えて行った。
ラレンは苦い顔をした。
「やっべぇ。ユリトスたちに報告しないと」




