269、決闘のメファニテへ
翌朝、五味たちが起きると、九頭がいないことがわかり、混乱した。
アラミスが言った。
「こっちにあの犀のものと思われる足跡がある。メファニテのほうへ向かっているようだ」
ユリトスは言った。
「メファニテか。また戻るのか。だがやむを得まい。ポルトス、食事の準備は出来たか?」
「できました」
「よし、みんな朝食を食べたらすぐに出発だ。メファニテに戻るぞ」
一方メファニテでは、アトリフたちが朝食を摂っていた。
高級宿であるためセンスのある朝食だった。美味だった。
食堂での食事が終わり、アトリフたちが部屋へ戻ろうとすると、宿の主がアトリフを呼び止めた。
「お客様」
「なんだ?」
「あなた様は、もしかして、十五年前にこの町をドラゴンから救ってくださったアトリフ様ですか?」
「救ったかは知らないが、この町でドラゴンを一頭倒したことは覚えている」
「おお、やはりそうでしたか?あのときはありがとうございました」
「礼を言われるほどのことはしていない。ただ、一頭ドラゴンを殺しただけだ」
「しかし、メファニテの者はみんなあなたに感謝しております」
「勝手にしてくれ」
アトリフたちは階段を上り部屋に戻った。
ラミナが部屋に入ると、カラスが窓辺に止まってこちらを見ていた。
「なに?」
ラミナは訊いた。
カラスは「ギャアギャア」と言った。
ラミナは驚いた。部屋を出て、アトリフの部屋に飛び込んだ。
「たいへん、アトリフ、この町に北からドラゴンが向かっているわ」
「どんなドラゴンだ?」
「犀みたいなドラゴンだって」
「犀・・・?それは昔、俺がこの町で倒したドラゴンだ」
「え?でも、カラスはそいつがこの町に向かってるって」
「そうか、なるほど、それは奴の息子か何かだ。俺に復讐しようと思ってここに来るのだな。いいだろう、その勝負、受けて立つぞ。そいつが来るまでこの町で待とう」
九頭は歩きながらドラゴンに言った。
「アトリフと勝負するなんて無謀だ。あいつは時間を止める魔法を使えるんだぞ」
「普通に考えてごらんよ。ドラゴンと人間が戦って勝つのはどっちだい?」
「いや、あのアトリフは普通じゃないんだよ」
「向こうが時を止める魔法を使えても、僕の魔法には勝てないよ」
「君の魔法とはなんなんだ?」
「こうやって脳内で君と話が出来る、そういうことさ」
「じゃあ、アトリフとも脳内で話して仲良くするというのか?」
「仲良くするんじゃない。殺すんだ。僕は相手の意識の底に働きかけることができる。アトリフがいかに時間を止めたからって、先に意識の底への攻撃を加えれば、必ず僕が勝つ」
「でも・・・」
「ほら、メファニテの町が見えてきたよ」
九頭が進行方向を見ると、牧草地の向こうに町が見えた。その白い屋根に東から朝日が差して煌めいている。牧畜の町、メファニテだ。




