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257、ロローの夢

ロローはヨッチャンの診療所のベッドで眠って夢を見ていた。

それはロローがかつて伯爵として統治していたロローの町に帰ったという内容だった。

ロローには妻がいた。親が決めた結婚だったが、ロローはその妻に満足していた。

ロローが長旅から帰ると、妻は笑顔で迎えてくれた。

ふたりは玄関で抱擁した。召使いたちが見ている場所で、長い間抱きしめ合った。

そのあと、ふたりきりでディナーを楽しんだ。

芳醇なワイン。軟らかな肉。新鮮なサラダ。トロリとしたシチュー。香り豊かなコーヒー。

静かで給仕もいない、誰も見ていないふたりだけの食事だった。話が弾まなくとも、ふたりは満足だった。ロローは冒険談を聞かせることは好まなかった。なぜなら、妻と平和に暮らしていたほうが、妻も自分も幸せだと思ったからだ。平和の中にこそ真の騎士道がなければならないと思った。

食事が済むと、若いふたりは一緒に風呂に入った。これは結婚してから毎日寝る前にやる、夫婦の最も幸せな時間のひとつだった。互いの体を洗い合うことはその間全宇宙がこの浴室の外には存在しないと思われるほどの世界とは隔絶されたふたりだけの楽園だった。

そして、ふたりは風呂から上がると、その温かく紅潮した肌で、ベッドの中で(むつ)み合うのだった。何時間も、丹念に愛し合った。そして、お互い抱き合ったまままどろみの中へ落ちていった。


朝になると、ロローは鳥の声に目覚めた。

そこには診療所の白い天井があった。

「ああ、そうか、ここはエイルカ。僕は矢に当たって倒れたんだ。そうだ、昨日、僕はドンブラ将軍に王妃奪還の任務を任せてもらうよう言ったんだった。どうなったろう?王の許可を得るために早馬を王都に飛ばしたそうだけど、許可は下りただろうか?」

ロローはベッドから起き上がった。

腹の傷は全く痛くない。服をめくり腹を見ると薬草が貼り付けてあった。ロローはそれをめくり傷痕を見た。紫の点があるだけだった。

「どうだい?ヨッチャンの治療は?」

そう言って病室に入って来たのは、診療所医師のヨッチャンだ。

「ヨッチャンは他にもこの町の戦いで怪我した人を治療している。軍には救護班がいるけど、まあ、ヨッチャンのほうが腕は上だね」

「この診療所は僕だけが使ったのか?」

「そうさ、ここは民間人を治療する場所に指定された。でも、住民はみんなドラゴンの神殿に逃げて無事だった。成り行きであんたが運び込まれたのでヨッチャンは治療した。大丈夫だろう?」

「うん、大丈夫だ」

「外ではまだドラゴンの夫婦が交わっているよ」

「え?ドラゴンが?」

ロローは外に出た。

広場の真ん中で、人の両腕を回せるかどうかという太さの白と黒の二匹の蛇が絡まり合って微動だにしなかった。

ロローは思った。

「夕べ見たエロティックな夢と、このドラゴンは関係があるのだろうか?」


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