249、糞尿のタンクの中で
エイルカではまだ、デムルン宰相による王妃捜索が続いていた。
王妃を見つけることのできないデムルンは宿の部屋で昼食を食べながらイライラしていた。
「なぜ消えたのだ?どうやって、王妃はあの部屋から抜け出したのだ?あそこは二階だった。窓から飛び降りるには高すぎる。それに窓から出た形跡はない。あの窓から、出ないとなれば、あの部屋から出る方法・・・まさか!」
デムルンは兵士を呼んだ。
「この町は下水道は整備されているか?」
「は?」
「なにが『は?』だ。質問に答えろ。この町は下水道は完備されているか?」
「すぐに調べてきます」
兵士は出て行った。
デムルンはステーキを切りながら考えた。
「王妃とは最も位の高い女性だ。その女性が最も行かないであろう場所。それが下水道だ。ふふふ、私も頭がいい。もし下水道があるならば今頃は王妃は必死で汚水の泥の中を歩いているだろう」
そこへ先ほどの兵士が戻ってきた。
「デムルン閣下、申し上げます。この町に下水道は完備されておりません」
「なに?」
デムルンは考えた。
「ということは、それと知らず便器の中に飛び込んだ王妃は汲み取りのための地下にあるタンクの中か!」
デムルンは立ち上がった。
そして、食事中にも関わらず、宿の部屋を出た。そして、王妃が消えたスイートルームに入った。その部屋のトイレの便器を覗き込んだ。
「おーい、王妃様。そこにいらっしゃるのでしょう?お返事をください。そろそろお腹のすいた頃ではございませんか?」
デムルンは便器から顔を離した。
「汲み取りの蓋を開けてタンクの中を覗いてみよう。おい、誰か宿の者を呼んでタンクの蓋に案内させろ!」
すると宿の者がすぐに来て、デムルン宰相を外にある、汚水のタンクの汲み取りのための蓋のあるところに案内した。四人の兵士がついて行った。
デムルンは蓋を自ら開けた。強烈な臭いがデムルンの鼻を襲った。
「この中に王妃はいる。間違いない。ほとぼりの冷めるのを待っているか、ただ出られず困っているかだ」
デムルンはタンクの中に逆さまに首を突っ込んだ。
「おーい、王妃様、いらっしゃるのでしょう?返事をしてください。よく見えないな」
デムルンは首を突っ込んだまま言った。
「おい誰か、ランプを持って来い」
兵士はランプに火をつけデムルンに渡した。
デムルンは片手で、体を支え、もう片方の手でランプを持って臭いタンクの中を照らした。デムルンはタンクの中を隈なく探した。そのときだ。体を支えていた左手がズルッと滑ってしまった。デムルン宰相は頭から真っ逆さまにタンクの中に落ちた。
ズボリ。
宰相は中にある糞尿の海に逆さまに突っ込み、頭から腰まで糞尿の中に埋まり、糞尿の泥の中では身動きもできなくなった。
タンクの外にいた四人の兵士たちは困った。宰相を救おうにも中は臭くて汚い。誰も入りたくない。
「誰か助けに行け」
「おまえが行けよ」
「嫌だよ、汚い」
「じゃあ、ジャンケンで決めようぜ」
「「「「ジャンケンポイ」」」」
「「「「あいこでしょ」」」」
「「「「あいこでしょ」」」」
こうしているうちに、糞尿の溜まったタンクの中で逆さまに上半身を糞尿に突っ込んだハイン王国宰相デムルンは窒息して死んだ。




