242、救出、脱出、作戦を考えろ!
アトスはエイルカに着いたらレヨン王妃をラクルスに会わせようと思っていた。
しかし、エイルカにはすでに多くのデムルン軍がいた。町の入り口でも検問があった。
アトスは馬から馬車の御者台に飛び移り、チョロから手綱を奪った。そして、検問を突破した。しかし、町の中にはもっと大勢の兵士がいた。兵士たちは馬車を止めようとした。その騒ぎは町中に広がり、ユリトスたちの耳にも届いた。ユリトスたちはその現場へ走った。馬車の御者台にはアトスとチョロが乗っている。馬車の窓の中には王妃レヨンの姿があった。
馬車はまた、東の出口へ向かった。しかし、兵士たちは多く多勢に無勢だった。アトスとチョロは捕らえられてしまい、レヨン王妃は「保護」された。アトスとチョロは警察署の牢に閉じ込められた。レヨン王妃は宿に軟禁された。
アトスとチョロは牢の中で話し合った。
「どうする?」
「誰かが助けに来てくれることを願うか?ユリトス先生は裏切り者の俺たちを助けに来てくれると思うか?」
チョロは答えた。
「思う。ゴーミ王たちは仲間を見捨てるようなことはしない」
アトスはチョロの確信に満ちた顔を見て涙ぐんだ。
「ゴーミ王は俺の主君だ。あの方をお守りするのが本来の俺の務めだ。あのとき、ゴーミ王と王都から逃走しようとしたとき、追っ手に襲われ、俺だけが残り、ポルトスとアラミスは陛下と三人でボルメス川に飛び込んだ。あの別れがその後の俺たちの在り方を決定してしまったな。そうか、ゴーミ陛下はやはり立派な方なのだな?」
「立派ではないけど、いざというときには、なんかすごい奴らだ。クーズ王、カース王も」
「俺も陛下たちと旅をしたかった」
そう言ったアトスが思い出したのは他でもないエレキアだ。五味たちと別れなければ、エレキアと出会う運命にはならなかったはずだ。こんなときでもアトスの心は揺れた。友情や忠誠心か、それとも恋愛か。アトスはかつて恋愛を取ったはずだった。だから、アトリフ五人衆に入ったのだ。しかし、自分はエレキアの夫に過ぎない。アトスは薄々感じていたのだが、エレキアとアトリフにはもしかしたらアトスとエレキアより深い絆があるようだった。それが何かはわからなかったが、アトリフたちの旅の目的はそこにあるような気がした。
ユリトスたちはまた宿の部屋に戻って相談した。
「どうやって、レヨン王妃を助ける?アトスとチョロはどうやって助ける?」
加須がそう言うので、五味は言った。
「ナナシス、アラミス、俺たちは名声王レイドーの町プキラで牢に閉じ込められたときどうやって逃げた?」
ナナシスは答えた。
「俺が看守に変身してその指紋で牢の鍵を開けて逃げたな」
「そうだよ、だから、今回もナナシスかポーランが看守に変身して助けに行けばいい」
ポーランは言う。
「しかし、そう簡単にいきますかね?鍵の仕組みが違ったらどうなります?」
「それを調べるんだよ。変身してさ」
ポーランは言った。
「よし、そちらは私がやってみよう。で、王妃様はどうする?」
オーリが言う。
「王妃様は殺される心配はないでしょう。まずはアトスとチョロを助けることを優先しましょう」
九頭が言う。
「だから、それを優先した後でどうするかって言うんだろ?」
アラミスが言う。
「そっちもポーランとナナシスが変身して忍び込むのが一番じゃないか?」
ポルトスは頷く。
「うむ。剣よりもスパイ能力がモノを言うことが多いな」
加須が言う。
「そうだ、アリシアの歌声も役に立つぞ」
九頭は言う。
「え?どんな役に?」
「アリシアの歌声は兵士たちの注意を引き付けるにはうってつけじゃないか」
加須は笑顔でアリシアの顔を見る。
オーリも言う。
「そうね、それは重要な役割ね」
「できるかしら?あたしに」
そういうアリシアに一同は、「君ならできる」ということを口々に言った。
九頭は言う。
「でもさ、仮にアトスやチョロ、王妃様を救出できて、そのあとはどうするんだ?検問をどうやって、すり抜ける?」
オーリは言う。
「もう、それは個々の能力をフル活用ね。アリシアの歌声も含めて、変身も、もちろん剣技も」
ユリトスは言った。
「夜中、アトスとチョロと王妃を救出したらそのまま西の検問所まで行こう。そのときは、アリシアとオーリと三国王だけで検問所に行く。アリシアが歌を歌いながら一行は検問所を通る。この五人なら検問所は通れるはずだ。通れないのは王妃だけだ。だから、残りの者は王妃を検問所を通すために力を合わせる。その方法だが、アリシアは検問所を通り抜けても、歌を歌い続ける。兵士が聞きほれている間に、剣士の我々が、闇の中で兵士をひとりひとり口を封じ縛り上げていく。その間にチョロが素早く検問所を抜けて逃走するのもありかもしれない。とにかく兵士の注意を引き付け、守りの兵士の数を減らしていく。そして、ある程度兵士が減ったら、ナナシスとポーランが王妃に変身して町の別の所に現れる。陽動だ。そして、王妃本人を連れた私と三銃士とジイとラーニャで強行突破だ」
このユリトスの案にみんなで意見を出し合い、修正したりして作戦が決まった。決行は夜更けだ。
一同は食事をして夜を待った。
しかし、彼らには不運があった。
夕方、デムルン宰相がエイルカに到着したのである。
軍勢は多く検問は強化された。
デムルンはさっそく、宿の部屋に軟禁されているレヨン王妃に会いに行った。
部屋の前には兵士が立っていた。デムルンがドアの前に立つと、兵士は敬礼し、ドアを開けた。
「こんばんは、王妃様」
デムルンはそう言って、部屋の中に入った。部屋はスイートルームで広かった。
寝室とリビング、トイレ、浴室があった。
しかし、そのどこにも王妃の姿はなかった。
デムルンは叫んだ。
「いない!いないぞ!王妃がいない!どういうことだ?」
本当に王妃はその部屋にいなかったのである。




