241、正義は自由を束縛するときがある
アトリフたちはドラゴン街道を馬に揺られ、ゆっくりと西へ進んでいた。
「アトスたちは王妃を連れて来ないな。デムルンに捕まったか?」
横に馬を並べたラミナは肩に乗ったカラスと話をしている。
「そう」
カラスとの会話が終わった。
アトリフが訊いた。
「ラミナ、西のほうではどうなっている?」
「アトスたちはエイルカから王妃を連れて馬車で東へ進んだみたい」
「ほう」
アトリフは意外といふうに口元を綻ばせた。
ラミナは言う。
「でも、デムルンの軍がいる町まで来たら、また西へ引き返しちゃったみたい」
アトリフは笑った。
「ふふふ、あっはっは。それは面白いな」
エレキアは言う。
「アトスは王妃の誘拐をやめたのかしら?」
ザザックが言う。
「正義感の塊みたいな奴が王妃を騙して来るなんてできなかったんじゃねーの?」
アトリフは笑う。
「俺はそういうイレギュラーが好きだ」
ザザックは言う。
「でも、それは俺たちに対する裏切りじゃないか?王妃を連れて王都に戻るのが奴の任務」
アトリフは言う。
「まあ、ザザックよ、そう堅く考えるな。俺たちは軍隊じゃない。自由が大事だ。まあ、それにしても、アトスが正義感から王妃を連れて来るのをやめたとしたら、問題だな。正義は自由を束縛するときがある。正義の味方ユリトスと弟子の三銃士はクソ真面目だ。ユリトスは殺さずと言って人を殺さないし、ポルトスという奴はユリトスの言いなりだし、アラミスは、よくわからんが、似たようなものだし、アトスに関しては、ユリトスそっくりだ。奴まで殺さずとか言い出したら、もう終わりだな。そうなったら、あいつはアトリフ五人衆から追放だ」
ザザックは言う。
「今すぐではなく、殺さずと言い出したら追放なのか?それまでは待つのか?」
「それは俺が決めることだ。ザザック、おまえは人事を考える地位にはいない」
「う、うむ」
「エレキア、おまえの夫が五人衆から外れたらどうする?辞表を提出するか?」
アトリフは笑っていた。
「そうね、そうなるかもしれないわね」
エレキアも笑った。
すると、ラミナの所へ北のほうからカラスが来た。カラスはラミナの腕に止まった。
「カア、カア」
しばらくカラスは何か喋っていた。それを頷いてラミナは聞いていた。
アトリフはラミナに訊いた。
「なんだ?」
「ラレンがキメラの軍勢を連れて、北街道を進んでいるらしい。私たちより、少し東」
「エイルカで合流しようと伝えておけ」
アトリフはラミナにそう言った。
ラミナはカラスにそう伝えた。
カラスは北へ飛び立った。




