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240、ドンブラ将軍の恋バナ

ラレンとキメラは百名の弓矢部隊を率いて、北の森の中の道を南西に走り、ドラゴン街道に沿った北の森の街道に出た。その道は五味たちが通った道だ。

馬上のラレンは言った。

「この道を西に向かえばエイルカという町に出る。そこでドラゴン街道と合流する」

馬を並べたキメラは言った。

「なぜ、おまえはそれだけの知識があるのだ?おまえもロガバの人間だろう?」

ラレンはニヤリと笑うだけで答えなかった。

彼らの上空にはカラスが一羽飛んでいる。


そのラレンたちを追いかけるドンブラ将軍率いる千名の軍勢はまだ、北の森の街道には出ていなかった。住民にラレンたちの行方を聞きながら追いかけた。そのため少し遅れた。そして、それが理由でロローはドンブラ将軍に追いつくことができた。

「ドンブラ将軍!」

「おお、これは、デムルン宰相のご子息のロロー殿ではないだすか。どうしてこんなところにいるだす?」

「僕はラレンたちから受けた屈辱を晴らすために奴らを追いかけているんです」

「おお、騎士だすな」

「どうです?ラレンたちは西へ向かっているのですか?」

「そのようだす。もうすぐ北街道に出るだす。そうなれば、そこで聞き込んで奴らが西へ向かっているならば、もう、わいらは一直線にエイルカを目指せばいいだす」

「エイルカですか」

「わいの所に今朝報告が来ただす。王妃はエイルカにいる可能性が高い。そこが勝負どころだす」

「え?王妃様がエイルカに?そこにラレンたちが行ったらどうなるのでしょう?」

「それがわからんだす。奴らは正直、何がしたいだかわからないだす。読めないだす。デランの反政府組織がここまで逃げてきて、結局は、西の土地に安住の地を求めているのではないか、そう思うだす。しかし、それは常識的に考えた場合だす。奴らは常識が通用しないから困るだす」

ドンブラ将軍とロローは馬を並べて歩いた。

「ロロー殿」

「はい」

「ここらで読者的にわいのエピソードが欲しい所と思うだすが・・・」

「ど、読者って・・・」

「あんたを聞き役にして、恋バナでもぶとうと思うだすがいいだすか?」

「こ、恋バナですか?恋の話ですよね?」

「そうだす」

ロローはそれを聞いて何になるのだろうかと思ったが、ドンブラはロローの戸惑いも構わず話し始めた。

「わいはこんな顔をしてるだす。体も美しいとはとても言えない。だから、昔から友達にはからかわれてきただす。いや、いじめられてきただす」

「はあ」

「しかし、わいは負けなかっただす。どんな環境でも挫けたらいけないと、勉強に武芸に励んだだす」

「はあ」

「そんなわいにも恋の季節がやってきただす。あれはわいが二十歳の頃のことだす」

ロローは、「関心がないな」と思いながら聞いていた。

「わいは独りで馬に乗って遠乗りをしていただす。森の中を馬で馳せていただす。すると、どこからともなく、女性の悲鳴が聞こえただす」

ロローは、「この人は物語が好きなのかな」と思って聞いていた。

「わいがその悲鳴の所へ行くと、女性がクマに襲われそうになっていただす」

「クマですか?それは恐ろしいですね」

「わいは馬で近づこうとしただすが、馬が怖がって動かないだす。しかたない、わいは馬を降りて、クマに近寄っただす。クマはわいに気づいただす。わいはサーベルを抜いて、構えただす。クマが襲ってきただす。わいは恐れることなく。いや、本当は怖かっただすが、ここで震えていては勝てないと思い、冷静に呼吸を整え、クマの喉元へ一撃を加えただす。クマは激しく血を噴出しただす。いや、その前にクマはわいに一撃を加えただす。その傷が今も顔に残っているだす」

ドンブラ将軍は左のこめかみから、頬にかけての傷を見せた。

「まあ、勝負はわいの勝ちだす。クマは死んだだす。そして、わいが助けた女性は大貴族の娘だっただす。それがものすごい別嬪さんだっただす。その別嬪さんはわいに感謝し、こう言っただす。『わたくしをお嫁にしていただけないでしょうか?』。子供の頃からブサイクでいじめられていたわいが、恋愛など縁のないと思っていたわいが、女性のほうからプロポーズされただす。しかも、相手は誰もがうらやむような大貴族の令嬢で超のつくほどの別嬪さんだす」

ドンブラはニヤリと笑って、ロローの眼を見た。

「これがわいの恋バナだす。こうしてわいは将軍になるような出世街道をまっしぐらで歩き続けただす」

ドンブラは誇らしげに言った。

「ロロー君、君もがんばれば素敵な結婚ができるだすよ。あ、君は宰相の息子さんだから結婚には困らないかもしれないだすが、結婚と恋愛は違うだす。結婚は社会システムの中にあるだす。恋愛は外にあるだす。外にあるものが自由だす。恋愛をしてこそ人生だす」

「あの、僕は結婚してるのですが・・・」

「な、なに、ああ、そうだしたな。うむ。しかし、恋愛はしただすか、親の決めた相手ではないだすか?」

「親の決めた相手です。いけませんか?」

「いけなくはないが・・・う~む」

「たしかに僕は恋愛をしていない。お坊ちゃんです。ですが、今、僕は僕の意志で旅をしています。ラレンとキメラに加えられた屈辱を晴らすために旅をしています。これは社会システムの中ですか?」

「おおっ!外だすな。そうだす。それが人生だす」


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