238、アトスの心変わり
深夜、強行突破するためにユリトスたちはベッドから出た。
そのとき、オーリから報告があった。
「王妃様がいない!」
「なに?」
「まさか」
「でも」
五味たちは口々に何か言おうとした。
しかし、それを一番に口にしたのはユリトスだった。
「アトスたちが我々を欺き、王妃を攫ったのだ」
「どうします?」
ポルトスは訊いた。
ユリトスが言った。
「あいつらの目的が賞金ならば東へ向かったのだろう。しかし、まさか、アトスがそのような真似を・・・」
「どうします?先生」
アラミスが訊いた。
ユリトスは答えた。
「とにかく朝まで眠ろう。場合によっては、東へ向かうことになる」
ユリトスは肩を落として言った。
「アトス、そこまで、落ちたか」
そのアトスは御者台で、自問自答していた。
「俺は王妃を騙し誘拐し、賞金のために国王に届けようとしている。これは善か?正義か?賞金稼ぎに善も正義もない。騙すことは悪だし、誘拐も悪だ。だが、人を殺すのではない。しかも、この王妃を連れ戻す行為は、外国とは言え、国王の命令なのだ。つまりこれは正義だ。・・・国王の命令は正義。本当か?だが、正義のために騙しや誘拐が許されるのか?目的が正義であり、手段が悪であればその行為は正義か悪か?いや、正義とは場合によっては人を殺すことも正義とされる。それならば王妃を連れ去ることは正義だ。目的が正義であれば。・・・いや、俺たちの目的は国王のために何かを為すのではない。賞金稼ぎだ。これは正義なのか?」
進行方向東の空が明るくなってきた。
騎士たちとすれ違うことが多くなった。おそらく、エイルカの町の検問所を強化するためだろう。アトスはそう考えた。
「王妃はなぜ、西へ向かっていたのだろう?ラクルスと会いたがっていた。ラクルスも王妃を召喚したがっていた。やはりふたりは・・・。もしそうだとしたら、俺はとんでもない悪をしようとしているのではないか?」
などと考えているうちに、日は昇った。すると、町に着いた。そこには多くの兵士がいた。
そこにはデムルンの軍隊が泊っていたのだ。
徒歩の兵士が言った。
「とまれ~、こんな朝早くどこへ行く?馬車の中を検めさせてもらうがいいか?」
アトスは言う。
「検めるのに、いいか?と訊くのはよく意味がわからん。それは断ってもいいということか?」
「なに?」
アトスはチョロから手綱を奪い、馬車の向きを廻れ右した。
「こら、どこへ行く?」
アトスは答えた。
「西だ!」
馬車は駆け出した。
チョロは言う。
「おい、どうした?アトス。なにがあった?」
「俺はやはりこのような悪行は御免だ」
「え?そんなことをしたら、アトリフに・・・」
「しかられるとでも言うのか?」
「いや、まあ、そうか・・・」
「チョロ、おまえも大人なら自分で考え自分の意志に従え。おまえはなぜユリトス先生の仲間になっていた?」
「そ、それは・・・」
「じゃあ、これはアトリフ五人衆の俺の命令だ。この馬車を、王妃をユリトス先生のところまで届けろ」
「え?じゃあ、アトス、あんたは?」
「俺は追っ手を食い止める」
アトスは御者台から飛び降りた。
森の中の道を東からは騎士が三騎やってくる。
アトスは腕を広げて立ちはだかった。そして、最初に来た騎士に挑んだ。騎士は馬上からサーベルをアトスに振るった。アトスはそのサーベルを躱し、騎士の足にサーベルを刺した。
他の二騎の騎士は通り過ぎて王妃を乗せた馬車を追う。アトスは馬から足を痛がる騎士を引きずり下ろし、その馬に乗った。そして、二騎の騎士を追いかけて、馬を馳せた。
前を行く二騎の騎士は、馬車の両側を走った。
チョロはもう怖くておしっこをちびっていた。
「まてー」
アトスの声に気づいた一騎の騎士が振り向いたのでアトスは名乗りを上げた。
「俺はガンダリア王国三銃士アトス!死んでいただく」
アトスは相手の騎士とサーベルを交え、腹を突き相手を落馬させた。
アトスはそれを見て言った。
「死んでいただくとは言ったものの、殺すのは良くない。だが、戦いは生きるか死ぬかだ。おまえが生き延びることを願う」
アトスは言い捨て、馬車を追った。
一騎の騎士がチョロを攻撃していた。
チョロは必死で馬車を走らせていた。
「やめて、やめて、俺を殺さないで、ふえ~ん」
そこにアトスが追いついた。
チョロを攻撃していた騎士はアトスを見た。
が、その瞬間。
「御免」
アトスのサーベルが騎士の腹を突いていた。
騎士は落馬した。
アトスはそのまま馬に乗り、チョロの操る馬車と共に西へ走り去った。




