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229、テントの中の会話

ポーランとレヨン王妃を伴ったユリトス一行は、夜通し馬に乗り、次の町を通り抜け、その次の町まで行き、そこから追っ手から逃れるために北へ折れた。

オーリが地図を見て考えた措置だった。

「ドラゴン街道の北にはそれと並行して森の中を走る道があるわ。そちらを行きましょう」

そして、北の林道を走り、午後も日が傾くと、ようやく森の中でテントを張った。

ユリトスとポルトスとアラミスが同じテント、五味と九頭と加須とジイが同じテント、ナナシスとロローとポーランが同じテント、アリシアとラーニャとオーリとレヨン王妃が同じテントで眠った。

五味たちはエロトークがしたかった。この逃亡劇を始めた最初から、もう熟年の王妃の魅力で、五味と九頭と加須は大人の女性の魅力を語りたかった。しかし、彼らのテントにはジイが入った。

五味は言う。

「ジイ、俺たちは若者同士話したいことがあるんだ。ユリトスさんたちのテントに行けよ」

ジイは言う。

「何を言うのです。わしは陛下たちをお守りする義務があるのですぞ」

「だったら、アラミスたちにもあるじゃないか」

「こうして三国の王を同じテントにしているのもユリトス殿のはからいですぞ」

「でもなぁ、じゃあ、正直に言うよ。ジイには俺たちとエッチな話ができるのか?」

「な、何を言っているのです?陛下たちはそのような下品な話をしておられるのですか?」

そういうジイに九頭が言った。

「今晩は、レヨン王妃についてだよ」

加須が言う。

「あの熟女の魅力についてさ。あ、あの歳ならジイさんでも守備範囲じゃないか?」

「な、何を言うのです、カース王、わしには妻も子も孫もいるのですぞ」

「じゃあ、レヨン王妃を美しいと思わないかい?」

「う、美しいと思います」

「どこが?」

「え?それはですな、あの上品な物腰が・・・」

九頭が言う。

「物腰?」

五味が言う。

(くび)れのこと?」

「物腰とはそういう意味ではございません」

加須は言う。

「じゃあ、どういう意味?ヒップのカタチのこと?」

「違います。物腰とは言葉や振る舞いでございます」

九頭は言う。

「まだ、そんなに話はしてないじゃん」

「いいえ、もう表情から身のこなしからわかるのです。ただ・・・」

五味は言う。

「ただ?」

ジイは言う。

「不幸な表情をしてらっしゃる」

九頭は訊く。

「不幸な表情?」

「はい、やはり国王に暴力を振るわれていたのでしょう。なにか人生への諦めの表情というか・・・」

五味が訊いた。

「諦めの表情?そんなものがジイにはわかるの?」

「わかりますとも。長年生きていれば表情で幸が多いか少ないかはわかります」

加須が訊く。

「どうやって?」

「洞察力でございます」

「洞察力?」

五味は訊く。

「ジイはどうやってその洞察力を身に着けたの?」

「経験と読書です」

「読書?」

「文学や哲学、神学、そのような本を読んでいれば人が幸せかどうかくらいは顔を見ればわかるようになります」

九頭が訊いた。

「じゃあ、レヨン王妃は絶望しているの?」

「いえ、希望があるようですな。やはり、ポーランが助け出したことは彼女に希望を与えていますよ」

「希望?」

「不倫相手のラクルスという召喚師ですよ」

「先代のロガバ三国の国王夫妻を召喚した人?」

五味が訊くとジイは言った。

「まだそれはわかりませんが、王妃の不倫相手は確実にそのラクルスです」

九頭は言う。

「不倫か・・・どういう体位でやったんだろうな?」

加須は言う。

「馬乗りかなあ?」

五味は言う。

「ラクルスは王妃を自分の体の上に召喚したのかなぁ?召喚即やっちゃう」

ジイは言う。

「な、何をあなたたちは言うのです!バカなことを言うもんじゃないですぞ。そのような破廉恥な」

五味は言う。

「だって、不倫だろ?確実にやってるじゃん?」

九頭は言う。

「やってるということはなんらかの体位でやってるよな?」

加須は言う。

「馬乗りだよ、きっと。乗馬上手かったもの」

「下品な想像はおやめなさい。さあ、寝ましょう」

「誰と?」

「四人で寝るのです」

「男四人かよ。気持ち悪いな」


いっぽう、女子組のテントでは四人が横になって毛布をかぶっていた。

ラーニャが訊いた。

「王妃様、ラクルスという人を愛していたのに、国王と結婚することになったのはなぜですか?」

レヨン王妃は答えた。

「国王には権力があります。私の意志など関係ないのです。あの男が欲しいと言った物はこの国の中の物ならばみんなあの男の物なのです」

アリシアは言った。

(ひど)いわね」

オーリが訊いた。

「ラクルスという人は召喚師だそうですが、遠く離れてからあなたを召喚しなかったのですか?」

レヨン王妃は答えた。

「彼の召喚魔法は、同じ町の中くらいの範囲にいる者しか召喚できないのです。無論、西へ旅立ったのは、その魔法力を上げるためだったとも思いますが」


いっぽう、ユリトスたちのテントでは。

ユリトスが呟いた。

「召喚師はたくさんいるとしたら、その中に国王夫妻を召喚した者を見つけなければならないな」

ポルトスは言う。

「ドラゴンが召喚したという可能性は?」

ユリトスは言う。

「捨てがたいな」

アラミスは言う。

「これから西へ行くほど、ドラゴンがたくさんいるのでしょうか?」

「うむ」

ユリトスは頷いた。

「バトシアのクリスティーナ姫を攫ったドラゴンもいるかもしれんな」

アラミスは言った。

「悪いドラゴンですか。クリスティーナ姫は無事でしょうか?」

「わからん」


いっぽう、ナナシスたちのテントでは。

ナナシスは師匠のポーランに訊いた。

「師匠は何人に変身できるのですか?」

「数えたことはないからわからんが、記憶にある者ならば誰にでも変身できる」

「俺は目の前にいる人にしか変身できません」

「想像力を鍛えればそんなものはすぐに克服できるぞ」

「しかし、俺が知りたいのはそんなことよりも、本当の自分の見つけ方です」

「だから、言ったろう。自分に似せるのではなく、無になるのだと。行為に集中するのだと」

「無になり、行為に集中ですか・・・」

ふたりの話を聞きながら、ロローは寝たまま考えていた。

「僕はラレンとキメラに復讐するために来たはずなのに、いったいここで何をしているのだろう?」

テントの中は静かになった。


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