22、ワイパの死闘
五味たち一行は、宿の食堂で夕食を食べていた。
そこへ山賊の集団が入ってきた。食堂は混乱した。
女性たちの「キャー」という悲鳴が飛び交った。
ユリトス、ポルトス、アラミスはこの町で新しく買ったサーベルを抜いて立ち上がった。
他の客は裏口から逃げていく。その中に五味と九頭と加須の姿があった。
「俺たちに戦いは無理だ」
「そうそう、絶対無理」
「無理無理」
と三人は逃げながら怖い物見たさで、開いた窓の外から食堂の中を覗いた。マスターがカウンターの中でアリシアを守るように抱いている。
「おのれ、マスター」
と九頭と加須は思ったが、思うだけで何もしない。戦いなど、ゲームの世界でしかしたことがない三人はここで本物が見られると興奮していた。まるでテレビか映画を観ている気持ちでいた。
山賊は二十人。
ユリトス、ポルトス、アラミスの三人が相手をする。数では不利だ。しかし、ユリトスは勝つ自信があった。ユリトスは世界一の剣士であり、ポルトスとアラミスはその弟子なのである。山賊ごときに負けるはずはない、そう思っていた。
ゴメスが叫んだ。
「かかれっ!」
山賊たちはユリトスたちに襲い掛かった。
先頭の敵にユリトスは木製の椅子を投げた。
「こんなものっ」
と先頭の敵は腕でその椅子を弾き飛ばしたが、その瞬間、ユリトスのサーベルは彼の腹を貫いていた。
「ぐむっ」
ひとり死んだ。
窓から覗いている五味たちは息を呑んだ。目の前で人が殺されたのを見るのは生まれて初めてだった。
ポルトスは丸いテーブルを持ち上げて敵に突っ込んだ。四人の敵が同時に倒れた。そして、ポルトスはその四人の上にテーブルをひっくり返して踏みつけ、もっと奥にいる敵を刺した。これでふたり目の死者が出た。
アラミスは他の四人と戦っていた。椅子をぶん回す敵の動きを冷静に見極め、隙を見つけて、胸を刺した。またひとり死んだ。こうして、食堂の中での乱闘が続いた。
五味たちは気が気でなかった。ユリトスたちが優勢であったが、殺人がそこで行われていると考えると震えるものがあった。そして、敵はゴメスと五人の子分を残すのみとなった。
ゴメスと五人の子分は、ユリトスたちと向かい合って静止した。
そのとき、窓から見ていた五味が震える声を振り絞って言った。
「ユリトスさん、もうやめてくれ!」
九頭も震えながら言った。
「そうだ、殺人は良くない」
加須も震える声で言った。
「うん、もう充分だよ」
それを見たゴメスはニヤリと笑い、食堂の入り口から走り出て、五味たちのいる窓の外へ廻りこんだ。そして、五味たちを捕えようとした。
五味たちは震えて動けなかった。
ゴメスは五味に襲い掛かった。
「おまえを人質にすれば・・・」
ゴメスのこめかみにナイフが刺さっていた。ゴメスはその場に倒れ死んだ。ナイフを投げたのは、食堂の中のユリトスだった。
食堂の入り口付近にいるゴメスの子分五人は逃げ出した。ユリトス、ポルトス、アラミスは走って追いかけようとした。それを五味たちは叫んで止めた。
「やめてくれー!ユリトスさん!ポルトス!アラミス!」
「これ以上、殺さないでくれ!」
「殺人はやめてくれ!」
ユリトス、ポルトス、アラミスは立ち止まって、窓の外の五味たち三人を見た。
外では夕暮れの中を馬に乗って逃げていく五人の姿があった。
ユリトスは五味たちに言った。
「わかっているのですか?こいつらはあなたたちの身柄を狙っていたのですぞ。つまり、あなたたちの命を狙っていたのですぞ」
五味は言った。
「わかります。でも、実際、目の前で殺し合いがあると、俺、おっかなくて」
五味は失禁していた。
九頭も失禁していて、そんなことは本人気づかず言った。
「戦いなんてゲームで沢山だよ。こんなの何もワクワクするもんじゃない」
加須も失禁して言った。
「そうだよ、俺たちは殺人者の仲間ではありたくない」
ポルトスは三人に言った。
「しかし、私たちの役目はあなた方をお守りすること。当然、このような戦いは起こります」
アラミスは言った。
「陛下たちは武勇の誉れ高い王であるはずが、どうしたんですか?人が変わったのですか?」
五味たちは思った。
「「「そうだよ、人が変わったんだよ」」」
ユリトスは独り考えた。
「この方たちは・・・」
その夜、五味と九頭と加須はベッドの中で話をした。
「なあ、この世界は俺たちのいた世界と常識が違うみたいだ」
「でも、ゲームとかでこういう戦いは俺たちの日常の遊びの中にあった」
「うん、でも、リアルだと怖いな。うん、あの血しぶきは・・・」
三人は目の前で殺された山賊たちのことを思った。そして、ゴメスが目の前でこめかみにナイフが刺さって死んだ瞬間を思い出した。三人は何度も窓の外へ嘔吐した。
朝になると七人は夕べ戦いがあった食堂ではない別のレストランで食事を取った。
静かな食事だった。
ユリトスは言った。
「今日は歩いて、ナキアに向かう」
五味は言った。
「なぜです?」
「あなたたちを、ドラゴニアに連れていくためです」
「俺たちはもう、あぶない目には遭いたくない」
五味は言った。
「俺たちは王です。もとの王座に戻りたい。そして、戦争のない世界を創りたい。そして、ハーレムで一生楽しく暮らしたい」
ユリトスは言った。
「この旅は運命です。仮に王座に戻ったとして、あなたたちに国を治めることができますか?」
五味は言った。
「だから、政治は大臣に任せて、俺たちは象徴になるんだ」
「象徴?」
ユリトスはその言葉を初めて聞くような顔をした。
九頭は言った。
「そうだよ、俺たちは国民統合の象徴として、ハーレムで暮らすんだ」
加須は言った。
「ユリトスさん。俺もロンガの王宮に戻りたい。ハーレムで遊びたい。どうしたらいい?」
ユリトスは言った。
「そうだな。とにかく、なにがあってもドラゴニアには行かねばならない。あなたたちが王座に戻るかどうかはその後決めればよい」
五味は言った。
「なぜ、ドラゴニアにこだわるんですか?」
「ご両親がそこにいるかもしれないからですぞ」
「両親!そんなもの!」
五味がそう言うと、ユリトスは険しい顔をした。
「両親をそんなものと言うべきではない。とくにあなたたちの両親はどなたも素晴らしい方々だった」
五味たちはユリトスの剣幕に黙り込んだ。
ユリトスは続けた。
「だいたい、あなたたちは王座から逃げ出した身ですぞ。帰ったところでまた逃げ出すのが落ちでしょう?」
みんな黙り込んだ。
五味は言った。
「わかったよ。ドラゴニアには行くよ。でも、もう、人を殺さないでくれ」
九頭も言った。
「そうだよ。俺たちは殺人は見たくない」
加須も言った。
「お願いします」
ユリトスは少し考えて言った。
「ううむ・・・わかった。殺さないように気をつけよう」
ポルトスは言った。
「でも、先生」
「ポルトス。この方たちには何か大きなものを感じる」
「大きなもの?」
「それは何かはわからんが、旅を続けていくうちにわかるかもしれん」
七人は食事を終えると宿を出た。
そして、ワイパの町をあとにし、西のナキアに歩いて向かった。
七人が森の中を歩いていると、後ろから馬の駆けて来る音がした。
「まてー!」
振り向くとそれはゴメスの娘だった。




