211、世界一の美女?
馬の背に揺られながら、加須は目の前を行くラーニャの腰を見ていた。
「いい、じつにいい。久しぶりに見ると、世界最高の括れに見える。ノーベル括れ賞をあげたいくらいだ」
九頭が横から話しかけてくる。
「やっぱり、あの括れか?」
「ああ、いいよ、あれは。抱いてみたい」
「俺もだ。どうだ、今夜あたり、寝込みを襲うのは?」
「いや、それは危険すぎる。あいつはザザックの弟子だ。串刺しにされちゃうよ」
「う~ん、そうか。それは嫌だな」
九頭はまた視線をラーニャの腰にやり、「いいな~」と呟く。
加須も見惚れて、「はぁ~」とため息をつく。
「五味は今頃、アトリフの所でどうしてるんだろうな?」
「エレキアとラミナという美女がいるじゃないか。こっちの三人は魅力はあっても基本はブスだ。エレキアとラミナは基本的に美女じゃないか。その前提が全然違うよ」
加須がそう言ったのを受け、九頭は言う。
「なあ、美女の条件ってなんだろう?」
「え?」
「俺たちは、前世で美好麗子を最高の美女と思っていたろう?」
「うん」
「でも、その『最高』って他の女子と比べての『最高』じゃないか?」
「そりゃ、そうだ」
「じゃあ、俺たちの学校から出てもっと広い世界に出れば、もっと『最高』な女がいるんじゃないか?」
「ああ、いるね」
「最終的には世界最高の女がいることになるよな?」
「ああ、なるね」
「そんな女、本当にいると思うか?」
「いるんじゃないか?見つけてないだけで」
「じゃあさ、俺たちが今、目の前にいるアリシア、ラーニャ、オーリを見て、『いいな~』と言ってるのはレベルが低くないか?」
「しょうがないだろう、その三択しか俺たちにはないんだから」
「じゃあ、例えば、カリア姫が目の前にいたらどうだ?」
「あれは世界最高の女だろう?」
「この旅で出会ってきた美女全部の中でか?」
「う~ん、誰だろう?で、なに?九頭、何が言いたいんだ?」
「ブスとか美人とかって、単なる比較の結果じゃないか、って言いたいんだよ」
「そうだよな。当たり前じゃないか?」
「だからさ、世界最高の女だと思ってそいつを愛するのは、ただ、自分の狭い世界で最高と思っているだけで、その『最高』は幻想に過ぎないんじゃないか?」
「うん、そうだね。でも、その幻想がいいんじゃないのか?」
「うん、まあ、そうか、うん」
「とにかく、久しぶりにラーニャの世界一の腰が楽しめるんだぜ。ごちゃごちゃ言うなよ」
ふたりは揃って、ラーニャの腰を見た。
「「う~ん、いい」」
その頃、五味はまだロードンのアトリフたちの宿にいた。
縛られた五味の横には同じように縛られたバルガンディがいる。
バルガンディはニヤリと笑って五味を見る。
「こいつはガンダリア王ではないか?なぜここに?」
五味は黙っている。
アトリフは言う。
「バルガンディ、おまえはドラゴンの血の伝説を信じるか?」
バルガンディは笑う。
「ふん、信じているかそうでないかはどうでもいい。私はドラゴンに願い事を期待するほど、困ってはいない。欲もない」
「欲がない?」
「私はただ、自分の能力を最大限発揮したいだけだ。そのために若干の権力が欲しいだけだ」
「今はその若干の権力すらない」
「そうだ、ハイン国王城に連れて行ってくれ、私はきっと、ハイン国の参謀になり活躍できる。そうなれば、おまえたちを取り立ててやろう」
「取り立ててくれなくともいいが、ハイン国王城には連れて行くぞ」
「本当か?いや、なぜだ?なぜ連れて行く?おまえたちの目的は何だ?」
すると、壁に凭れて立っていたザザックが肩を揺すって笑い始めた。
アトリフは言う。
「いや、おまえをハイン国に連れて行った方が面白そうじゃないか」
ザザックはもう腹を抱えて笑う。
バルガンディは呆れて何も言えなかった。
そのあいだ、五味はずっと窓際のラミナの美しい顔と、籐椅子に座ったエレキアのセクシーな大人の体をジロジロ見て楽しんでいた。
アトリフは言う。
「明日、このロードンを出発する」




