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210、戦いのあとのロードン

さて、場所はロードンの町の広場に戻る。

すでに、キメラの軍は退却してそこにいなかった。広場はドンブラ軍が制圧していた。

そこには死んだカリア姫を死んだと認めず、回復魔法をかけるオーリとライドロの姿があった。

壊れた神殿の側には縛られた五味がアトリフに掴まれていた。そこにはラミナとエレキアもいる。

ユリトスたちの注意は死んだカリア姫に向いていた。

アトリフは五味を担ぎ上げた。

「うわっ、何をするんだ?」

「おまえを連れて行く。人質だ」

「なんのための?」

「カードだ」

「カード?」

「手札はいろいろ揃っていた方が面白い。おまえが手元にいたほうが旅が面白くなる」

「そんな理由で俺を誘拐するのか?」

「そうだよ」

そのとき、五味を担いでいるアトリフをようやくジイとユリトスが見つけた。

ジイは言った。

「こらー、何をしているか?」

アトリフは振り返って笑った。

「じじい、ゴーミ王はいただいて行く。心配するな、縛る以外の虐待はしないし、飯もまともなものを食べさせてやる。俺たちはハイン国王都へ向かう。おまえらもそうだろう?ゴーミ王はただ別行動をすると思っていればいい」

ジイは言った。

「納得できるはずがなかろう」

アトリフは言った。

「俺はゴーミ王を殺すことはしない。だが、体に傷をつけることは迷いなくできる。おまえらが俺の邪魔をするならば、ゴーミ王の顔に一生消えないナイフの傷が一本ずつ増えていくと思え」

ジイたちは動けなくなった。

アトリフはエレキアとラミナを連れて、広場から北の街中へ消えて行った。


いっぽう、オーリとライドロはまだ死んだカリア姫に回復魔法をかけていた。

ライドロは泣きながらカリアの胸に手を当てていた。

「死ぬな、死ぬな」

オーリは手を止めた。

「やっぱり、ダメだわ。もう死んでいる。ライドロ、やめましょう」

「嫌だ、絶対にあきらめるもんか。カリアは僕の人生だ」

「気持ちはわかるわ。でも、死んだ者は生き返らない」

ライドロはカリアの胸に置いた手を放した。その両手は地に膝をついているその膝に置かれた。

「なぜだ」

ライドロは泣いた。

「なぜ、僕たちの恋にはこんなに邪魔ものが多いんだ。カリア!カリア!」

そこへ馬に乗ったひとりの人物がやって来た。

ライドロはその人物を見上げた。彼は目を丸くした。

「カリア!」

それはカリア姫に変身したナナシスだった。

ナナシスは言う。

「俺は死ぬ前のカリア姫の姿をしている。この人は本当に美しい。俺はこの彼女の姿をしばらくはそのままにしておこうと思う。そうすればこの世からカリア姫の姿が消えたことにはならない」

ライドロは言った。

「何を言ってるんだ?君はカリアだろう?ここに死んでいるのが別人で、生きている君がカリアだろう?」

「残念ながら、本物のカリア姫は死にました。俺はニセモノです」

そこへドンブラが来た。

「カリア姫は死んだだすな?しかし、ここにいるもうひとりのカリア姫は何者だす?」

ナナシスは自己紹介した。

「変身師、ナナシスです」

「では、ナナシス殿、ともにハイン国王都の王城へ、わいと来て欲しいだす」

「え?」

「カリア姫と結婚したがっていたカルガン王子が、カリア姫が旅の途中で死んだと言って、納得するとは思えないだす。せめてカリア姫の似姿を一度お見せして、お気持ちを鎮めたいだす。ナナシス殿、旅の途中かもしれず恐縮だすが、この役目引き受けてくれるだすか?もし、その役目を引き受けてくだされば、お仲間のハイン王都までの旅を我が軍が護衛するだす。どうだす?いい条件だと思わないだすか?」

馬上のナナシスはユリトスの顔を見た。

ユリトスは頷いた。

このハイン国には国境の戦いのどさくさに紛れて入った。ここで軍に守られて行くことになると正式に客人として旅ができる、そうユリトスは思った。ただ、心配はアトリフに攫われた五味だったが、まあ、ドラゴンの血を必要とするアトリフが五味を殺すことはないと考えた。

戦は、ドンブラ軍が、キメラたちを北へ追い立てて終了した。

町は荒廃していた。

死者が多く出た。

ドンブラは死者の遺体を集め、その家族に死体を検めさせて、翌日、埋葬することにした。したがって、夜の広場には死体が並んだ状態になった。カリア姫の遺体だけは、ハイン国皇太子妃になるはずだった者の遺体として棺に納められ、デラン国に帰されることになった。ライドロもそれについて行くことになった。

ユリトスたちは宿に戻った。彼らの宿は無事にあった。

カリア姫の姿になったナナシスはすでにドンブラの軍にビップ待遇で遇されることになった。

翌日は、戦死者の合同葬儀が行われ、そのあと、ユリトスたちはドンブラの軍に守られてハイン国王都へ向けて出発した。

じつはラーニャは迷っていた。五味のいるアトリフの元へ行こうか、このままユリトスたちと共に行こうか。しかし、アリシアやオーリたちがもうラーニャは一緒に行くものと信じ込んでいたので、それを裏切るわけにはいかずユリトスの一行に加わった。

アンダスに人質として囚われていた宰相デムルンの息子ロロー伯爵は姿を消していた。


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