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21、ワイパの町

 目が覚めたゴメスは気づいた。

「おい、馬車がないぞ。どこに行った?」

子分が言った。

「誰かが盗んだんじゃないっすか?」

ゴメスは考えた。誰が・・・?

「ラレンか?ありそうなことだ。奴には礼金を三千万やった。しかし、国王たちの身代金のほうが莫大だ。奴は三千万では足りず、身代金もごっそり持って行ったのだ」

「どこへ行ったんすかね?」

「この森から行く方向と言ったら、ロンガかガンダリアだろう?どっちだと思う?」

「ガンダリアに行けば逃亡した国王の身代金も取れるし、バトシア王もいたから、奴の懸賞金一億ゴールドもバトシアから分捕れるのではないっすかね?」

「ロンガに行けばどうなると思う?」

「ロンガに行くには戦争中の国境を越える危険がありますが、カース王にゴーミとクーズの首を差し出すってのは魅力がありますね。ということはラレンの奴はカース王の所へ馬車で行ったんじゃないっすか?」

ゴメスは言った。

「よし、朝飯を食ったら、ロンガへ行くぞ!」

「おう!」


 五味たちを乗せた馬車は森の中を走り続けていた。外はもう日の出が近い。

床に寝ているユリトスは座席のポルトスとアラミスに訊いた。

「左と右、どちらから日が昇りそうか?」

ポルトスは窓の外を見て答えた。

「進行方向右からです。つまり東ですね。ということはこの馬車は北へ向かっているということですね」

「北か、ナキアの町か、その先のロンガとの国境か」

ユリトスは考え、また目を閉じた。

 そして、しばらくすると、馬車は止まった。

ユリトスとポルトスとアラミスとアリシアは目が覚めた。三人の国王は眠ったまま、むにゃむにゃと女の名前を口に出している。

 馬車のドアが開いた。

 ひとりの男が中へ入ってきた。そして、ユリトスたちの縄を切った。

ユリトスは訊いた。

「君は?」

それはまだ二十歳(はたち)程の若者だった。

「僕は、ジイ様の伝令係のハリーです。ジイ様が捕らわれたことを、ガンダリアの城に報告しました。その夜、国王陛下が脱走したことを知りました。僕は予定通り、前線へネクラ大臣らの増援の指令があったことを伝えるために向かいました。そして、朝早くハロンであなたたちの姿を見ました。そして、距離を置いてつけて来たのです。そうしたら、街道を逸れて東の森の中に入って行くのでおかしいと思いました。ついて行くと、ちょうど、あなたたちが縛られ馬車に乗せられているところに出ました。僕はそれを茂みの中から見ていました」

「そうか、それは助かった。ありがとう。で、ここはどこなのだ?」

「ワイパの町です」

「ワイパ?」

ポルトスは言った。

「それは俺たちが当初、アトスと共に国王陛下と隠れようと目指していた東の山の中の町じゃないか」

そのとき、縄を切られ目を覚ました五味は言った。

「ポルトス、じゃあ、俺たちはここのハーレムで遊べるね」

ポルトスは呆れた。

「ハーレムはありません。しかし、安全地帯ですよ」

ハリーは言った。

「では、宿を取るなどしてください。僕は伝令係の仕事がありますので前線へ向かいます」

ユリトスは言った。

「それは大事な仕事なのに、迷惑をかけた。しかし、夜通し、馬車を馳せたのに、大丈夫なのかね?」

「ナキアまでなら何とかなります。そこで、次の伝令係に大臣の指令書を手渡します」

「そうか、いや、本当にありがとう」

「じゃ、僕はこれで」

ハリーという伝令係は、馬車の後ろに繋いであった自分の馬に乗り、ワイパの町を出て行った。

ユリトスたちは馬車を降りた。町には木造の建物が並んでいた。

アラミスは言った。

「先生、ラッキーでしたね」

「うむ。私はてっきり、賞金稼ぎのラレンが山賊から我々の身代を盗んだのかと思った」

ユリトスがそう言うとポルトスも言った。

「俺もそう思いました。しかし、今後どうします?この町で呑気に世界の様子でも見ているわけにはいかないでしょう?」

ユリトスは言った。

「私の旅の目的は、あの怪事件の謎を解くことだ。三国の国王夫妻が突如消え、三人の十四歳の王子が国を継いだ。ここにその三人の王子がいることは私にとっては天啓(てんけい)であると思っている」

ポルトスは言った。

「つまり、陛下たちを国に返すのではなく、魔法使いのいるドラゴニアに連れて行くと?」

「うむ、そういうことだ。この三人はどうせ、王座についても戦争が始まれば逃げ出すような連中だ。しかし、ご病気になられる前は勇敢で賢い方たちであった。その性格の変化も何かあの事件と関係があるかもしれん。その謎を解くためにも、この三人をドラゴニアに連れて行くことは重要な意味があると考えている」

五味は言った。

「魔法使いの国へ行くのか?」

ユリトスは言った。

「そうです。もしかしたら、あなたたちのご両親に会えるかもしれない」

この「ご両親」という言葉を聞いたとき、五味、九頭、加須の三人は転生前の日本に残してきた両親のことを思った。彼らはまだ十五歳という難しい年頃だった。

五味は思った。

「両親?あいつらの育て方が悪くて俺はダメになったんじゃないか。そうだ、あの人生がダメだったのはあいつらのせいだ。俺は今は王様なんだぞ。こっちの人生のほうがいいに決まってる」

九頭も加須も同じようなことを思った。転生前の日本での人生なんてロクなもんじゃなかった。しかし、こっちの世界では国王としてハーレムで遊ぶという、日本では絶対にできないことをした。三人は同時に思った。

「「「絶対、こっちの人生のほうがいい!」」」

ユリトスたち七人は宿に入った。

五味たち三人は三人部屋に入ると、白いシーツの敷かれたベッドにダイブした。

「おお~、久しぶりの柔らかいベッドだぁ~。やっぱ、こういうのがいいよな」

「そして、隣に女の子がいたら申し分ないんだけど」

「アリシアを呼ぶか?」

「いいよ、あいつ、ブスだから」

「だよな~」

などと三人は自分たちの顔を棚に上げ、アリシアの顔について笑っていた。

 しかし、馬車の中でずっとアリシアの体に密着していた九頭はその柔らかい感触を忘れることができないでいた。また、馬車の中でずっとエロい目で彼女を見ていた加須もアリシアの顔はともかく体は申し分ないなどと考えていた。五味だけはアリシアのことを話しながらも、マリンちゃんと、マリンちゃんと自分が見間違えた山賊の娘のことを考えていた。


 その頃、山賊ゴメスたちは森の中の分かれ道にいた。

「おい」

ゴメスは言った。

「この分かれ道、左に行けば、ナキアやロンガへ通じる道だ。右へ行けば山岳地帯のワイパだ。さて、この地面、少しぬかるんだこの地面を見ろ。新しい(わだち)があるよな?娘よ、この轍はどちらに向かっている?」

娘は答えた。

「右だね」

「よし、ワイパへ行くぞ」


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