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207、ドラゴン・ロードン

ドラゴン神殿にユリトスたちが到着すると、アトリフは言った。

「ユリトス、おまえたちと共にいる、クーズ王とカース王、ふたりをこちらへよこせ」

「よこさなければどうする?」

「ゴーミ王の命はない」

「アトリフ、おまえはもうちょっと頭のいい男だと思っていたが、バカなのか?」

「そうだ、バカだ。俺はバカが好きだ。こんな駆け引きは成立しないことはわかっている」

「じゃあ、なぜするんだ?」

「そのほうが面白いからだよ」

「面白い?」

「おまえも面白いと思わないか?この神殿にドラゴンの血が揃い、ドラゴンが現れるところを見たいと思わないか?」

「おまえはここのドラゴンが願いを叶えてくれるドラゴンだと思っているのか?」

「それはやってみなければわからないだろう?」

そこへ神官の女が三人現れた。

アトリフは訊いた。

「なんだ、おまえらは?」

「この神殿の神官です。ドラゴンは私たちが呼びかければ現れます。一か月に一度この町の運命を占ってもらうためです。今日は恐らくドラゴンは出ないでしょう」

「なに?ドラゴンは出ない?じゃあ、いつ出るんだ?」

「一か月後」

「一か月後?それまで待てと言うのか?」

「はい」

「他に例外的に呼び出すときはないのか?」

「それはこの町に大きな(わざわい)が降りかかったときです」

アトリフはニヤリと笑った。

「その禍、もうすぐ降りかかるぞ。たぶん、今夜中にだ」

「え?」

そのとき、町の北の方から火の手が上がった。

「たいへんだぁー。領主の館に山賊が火を点けた。奴らはこっちにやって来るぞー」

アトリフは笑った。

「ほらな。来ただろう?」

神官はアトリフを怖れた。

アトリフは言った。

「神官のお三方(さんかた)、ドラゴンを呼び出したほうがいいんじゃないか?この町の守護神なんだろう?」

町人が叫んだ。

「軍隊と山賊が町の北の方で戦っている。山賊の優勢だ。火の手が南下してるぞ」

アトリフは笑った。

「これが町の災厄でなくてなんだというのだ?さあ、ドラゴンを呼び出せ」

「では、あなた方は神殿から出てください。ここには私たち三人しか儀式のときは入ってはいけません」

「わかったよ」

アトリフを縛られた五味を引っ張り、エレキアとラミナを連れてエンタシスの柱に囲まれた神殿から出た。

ユリトスたちは黙ってその様子を見ていた。

もう町人は広場にほとんどいない。

神官三人は祈り始めた。

もう日は沈み、日の代わりに、町を焼く火が天を染めた。

「ロードンの湖に住む我らが守護神ドラゴンよ。今、まさに町が危機を迎えています。我らロードンの子らを助けるため姿を現したまえ」

すると、湖の水面が波打ち始めた。まるで嵐の海のようだった。

そして、ついにドラゴンは現れた。

ドラゴンは頭から徐々に水面に顔を出した。頭が持ち上げられ、その首だけで神殿の柱より高かった。

ドラゴンは言った。

「どうしました?」

アトリフはその女の声に驚いた。

アトリフは神官を差し置いて、ドラゴンに話しかけた。

「ここにロガバの王が、ドラゴンの血を引く者が三人集まっている。おまえは願いを叶えてくれるドラゴンか?」

ドラゴンは柱の間から中にいる五味と、広場にいる九頭、加須を見て言った。

「なるほど、ドラゴンの血を引く者ですね。しかし、残念ながら私は彼らと血のつながるドラゴンではない」

「血のつながるドラゴン?それが願いを叶えてくれるのか?」

「昔、そのオスのドラゴンは人間の女に恋をしました。女もそのドラゴンに恋をしました。そしてふたりは結ばれ、あいだに子ができました。それが、ロガバ半島に下った王の祖先です。その父親のドラゴンは自分の子が人間としては魔法力が強すぎたことを悲しみ、その子から魔法力を奪ってしまいました。だから、ロガバの人間はドラゴニア大陸にいながら魔法ができない種族となったのです」

アトリフは訊いた。

「ロガバの人間は南方人ではないのか?」

ドラゴンは頷いた。

「ロガバの人間はドラゴニアに起源を持つ北方人です。ですから、修行次第で魔法が使えるのです」

これにはユリトスたちも驚いた。自分たちが修行次第で魔法が使える北方人である。信じられなかった。五味たちももちろん驚いた。自分たちが、転生した者とはいえ、ドラゴンの子孫でありその祖先は魔法力が強すぎたためその力を奪われた存在である、五味たちは本当に武者震いがした。

「「「俺たちはもしかしたら大魔法使いかもしれない!」」」

アトリフは訊いた。

「ようするにおまえは願いを叶えてくれないのだな?」

「私はこのロードンの守護神。ロードンを守ることはします。しかし、それ以外の者の願いは叶えません。おまえたちが探しているロガバの祖先のドラゴンは遥か西の彼方にいます」

アトリフは訊く。

「そのドラゴンは、三人の願いは叶えるが、他の者の願いは叶えないのか?」

「さあ、私はそのドラゴンではないので・・・」

そのとき、町の北の方から走ってきた男が広場で倒れた。

ユリトスはその男に駆け寄った。

「北では何が起きているのだ?」

「赤い髑髏の奴らが町を荒らしている。もうすぐこっちに来る。特に恐ろしいのは闇の中から矢が飛んでくることだ。弓使いの軍団だ」

「キメラの軍団か?キメラ自身だけでなくその部下たちも弓矢の名手だというわけだな」

そのとき、ドラゴンはまた湖に潜ってしまった。

そこへ、南から一報が入った。

「ドンブラ将軍の軍隊が到着したぞー。この町は助かるぞー」


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