203、ロードンの町に戻れ
馬上のアラミスは言った。
「しかし、アトスが誘拐をやるとは」
ユリトスは言った。
「しょせんはアトリフ五人衆。賞金稼ぎの連中だ」
ポルトスは言う。
「三銃士から誘拐犯が出たのは辛い。しかも、アトスはリーダーだった」
アラミスは言う。
「アトスは俺たちと共にゴーミ陛下を護衛して王城から逃げたとき、追手を引き留めて、俺たちをボルメス川に飛び込ませた。あの時までは俺たちの知るアトスだった。でも、単独行動をしてロンガに乗り込み、いつのまにか、アトリフ五人衆になっていた。いったい何があったんだろう?恋というのはそこまで人を変えてしまうものだろうか?」
ユリトスは言う。
「よし、それを今度アトスに会ったら訊いてみようか」
ポルトスは言う。
「アトスがそのようなことを話すでしょうか?」
アラミスはクスッと笑う。
「アトスは先生に似て、いや、先生以上に堅いところがありますからね」
三人は笑った。
いっぽう、ロードンのアトリフたちの泊まる宿の部屋には五味が縛られて床に転がされていた。宿に入るときは、未明の暗い時間帯で誰も起きていない時間に、宿の正面玄関から堂々と入った。麻袋に詰めた五味をザザックが肩に担いで入り、アトスが受付の者の目を引きつけていて、仮に五味が動いて宿の者が不審に思っても、「ああ、ペットの犬ですよ」と誤魔化そうと思っていたが、五味はぐったりと動かなかった。
そして、現在、つまりその日の昼、麻袋から出された五味は猿轡は外され、縛られたまま床に転がっている。
五味は目を覚ました。
「ここは?」
アトリフはソファに座って、ワインを飲んでいた。
「おまえはよく眠るな?ゴーミ王」
「アトリフ!」
窓際には肩にカラスを止まらせたラミナがいた。
「ラミナ!」
籐椅子があり、ザザック、エレキア、アトスが座ってやはりワインを飲んでいた。
「おまえら、なんのために、俺を攫ったんだ?」
アトリフは言った。
「それはアトスに訊いてみろ。俺はただ、この町にユリトスたちを連れて来いと言ったんだ。それがアトスはおまえひとりを誘拐してきた。どういうことか?」
アトスは言った。
「そのほうが面白いんじゃないかと思ったまでだ」
ザザックは笑った。
「くっくっく。アトスもわかってきたな。それにしても国王、おまえ、ラーニャの色仕掛けにまんまとハマったな?あいつに惚れてるのか?」
五味は言った。
「わ、悪いか?」
ザザックは笑みを湛えながらも意外な表情をした。
「お、認めてるのか?」
「よくわかんねーよ」
五味は外を見た。ラミナの背後に晴れた空と山脈が見える。
アトリフは訊く。
「ゴーミ王よ、ここは湖の町ロードンだ。他のふたりの王もここへ来ると思うか?」
「え?」
「あのふたりは、おまえを助けにここへ来るか?」
「ああ、何を言っている。あいつらは友達だ。必ず来る」
「あいつらが来ると、なんの戦力になる?」
「戦力にならなくても来る。それが王だ」
アトリフたちは全員、感心して「ほぉ~っ」と言って目を見交わした。
アトリフは言う。
「このロードンの町でおまえたちはドラゴンと話をしたそうだな?」
「ああ、した」
「そのとき、王が三人揃っていたのか?」
「ああ、揃っていた」
「それで願い事を叶えてはもらわなかったのか?」
「え?」
「なんだ?お願いをしなかったのか?」
「ここのドラゴンが願い事を叶えてくれるドラゴンなのか?」
「いや、それは俺たちが聞きたい。俺はここにドラゴンがいることは知っていた。しかし、ドラゴンの血を引く者が集まり願い事を叶えてくれるかどうかまでは、知らなかった。おまえたちは、願い事を試さなかったのか?」
「そうか、忘れてた」
「バカか。おまえたちは何のために旅をしているんだ?ユリトスの言うように本当にロガバ三国の国王夫妻の失踪の謎を解くだけではあるまい」
五味は考えた。
「俺たちは元の世界、転生前の世界に戻るということが願いなのだろうか?他に願いはあるだろうか?」
「どうした?答えろ。おまえたちの旅の目的は何だ?」
五味は言った。
「わからない」
アトリフたちは目を丸くした。
「わからない?」
アトリフの相好が崩れた。
「はははははは、わからないか。わからなくて、旅をしているのか?それは面白い。気に入ったぞ、小僧」
「べつに気に入られても嬉しくねーよ」
「じゃあ、話を戻すが、クーズ王とカース王はこのロードンに必ず来るのだな?」
「必ず来る」
「よし、そのとき、お願い事を試してみよう」
もういっぽう、マラパーニの町に残った九頭と加須たちは宿の部屋で話し合っていた。
九頭は言う。
「俺たちも行くべきだと思う」
ジイは言う。
「それはいけません。行けば奴らの思うつぼですぞ」
加須は言う。
「その、思うつぼってなんだよ?あいつらの目的は話の展開を面白くしたいだけなんだろ?じゃあ、行ってみようじゃないか」
ジイは言う。
「だから、あなた方が行ってなんの戦力になるのです?」
九頭は言う。
「戦力になるならないじゃなくて、俺たちは五味が攫われたのに大人しくここで待っているべきかってことだ。ラーニャはどう思う?俺たちもロードンに行くべきだと思わないか?」
ラーニャは言った。
「ゴーミ王はあたしが行って嫌な顔しないかしら?」
九頭は笑った。
「するわけないだろ、惚れてんだから」
ラーニャの顔は真っ赤になった。オーリとアリシアも顔が熱くなった。
九頭は言う。
「ジイさん、行こうぜ。だいたい、ジイさんも本来俺たちの護衛じゃなく、ゴーミ王の護衛が目的で旅をしてるんじゃないのか?」
この問いにはジイも弱かった。それは考えていたところだったからだ。
オーリは言う。
「でも、私たちはここにいたほうがいいわ。ユリトス様たちが、ゴーミ陛下とカリア姫、ライドロを連れてここへ戻って来るのを待つのがベストよ」
アリシアは言う。
「でも、いくら、あの三人が剣の腕が立つと言っても、三人を連れて戻ることは難しいんじゃないかしら。ゴーミ陛下ひとりならなんとかなるかもしれないけど、カリア姫とライドロは軍隊に守られて来るのよ、そんなときはここにいるチョロとナナシスのほうが役に立つわよ」
チョロは言う。
「いや、お姫様を盗むなんて俺はコソ泥だから・・・」
アリシアは言う。
「でも、ユリトス様より、誘拐は得意そうじゃない?」
チョロは腕を組んで考えた。
「まあ、そう言われるとそうなんだけど・・・」
ナナシスは言う。
「また、カリア姫に変身するなんて俺は嫌だぜ」
九頭は言う。
「みんな、ようするに俺が言いたいことは、俺たちはここで待っているだけで何もしないことに満足できるかっていうことだ」
加須は言う。
「じゃあ、待っているだけで満足できる人、挙手!」
誰も手を挙げず、互いの目を見交わした。
九頭は言った。
「じゃあ、決定だ。今からでも、ロードンに向かって出発しよう」
こうして、九頭たちは馬に乗りマラパーニの町を出発し、ロードンに向かった。




