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202、いくつかの選択肢

夜のランプの灯る宿の玄関前で、ぼんやりとしてラーニャが立っていると、宿の中から九頭が出て来た。

「あれ?ラーニャ?」

ラーニャは九頭を見た。九頭の顔に喜色が広がった。

「ラーニャ!ラーニャじゃないか!おまえ、戻って来たのか。ええ、おい、ザザックの弟子はやめたのか?」

ラーニャはただ、九頭の顔を見ていた。

すると宿の中から、オーリとアリシアが出て来た。

「クーズ王、何を騒いでるの?え?ラーニャ?ラーニャ!」

アリシアがそう言うとオーリも歓びで顔がほころんだ。

「ラーニャ、どうしてたの?ザザックの修行とかはどうだったの?終わったの?」

九頭は言った。

「いいよ、いいよ、積もる話はまた後だ、宿に入ろう。おお、カース!」

加須が騒ぎを聞きつけ出て来たところだった。九頭は言った。

「おい、ラーニャが帰って来たぜ」

加須はラーニャの腰の括れを見た。

「おお、ラーニャ、良かった。戻ってきてくれたんだ。おかえり!」

ラーニャは力なく言った。

「ただいま・・・」

オーリは言った。

「どうしたの?疲れてるの?」

ラーニャは疲れた顔で言った。

「ゴーミ王がアトスとザザックに攫われてロードンに連れて行かれたわ」

「え?それは本当?」

オーリが訊くと、ラーニャは涙ぐんで答えた。

「あたしは、色気でゴーミ王の誘拐を手伝ったの」

九頭と加須は笑った。

「バカな奴だな、ゴーミ」

「いくら、ラーニャが好きだからって・・・まったくエロい奴だ」

アリシアはふたりの王を(たしな)めた。

「なに呑気なこと言ってるの?ゴーミ王がアトスとザザックに攫われたのよ」

九頭は笑う。

「心配ないって。アトリフは俺たち三人を生きたまま西へ連れて行きたいんだよ。だから、ゴーミを殺すことはないさ」

「でも、あんたたち、誘拐されるってどういうことかわかる?きっと手足を縛られ身動きできなくされて閉じ込められるのよ」

九頭は頭を掻いた。

「う~ん、たしかにそれは辛いな。でも、俺たち何をするかわからないアンダスに囚われていたからな、それに比べたらアトリフなんて・・・」

「バカじゃないの?攫われていいわけないでしょう?助けに行かなきゃ」

加須は言う。

「それが罠かもしれないだろう?いまさら、なんのためにアトリフがゴーミひとりを攫うんだ。俺たちをロードンに誘い出すために違いないだろう?あきらかに何かある」

ラーニャは言った。

「とにかく、中で話すわ。ユリトスたちとも」

五人は宿の中に入った。

階段を登りながら、ラーニャはユリトスにどんな顔で会えばいいか考えていた。

「ザザックの弟子として?それともゴーミ王らの仲間として?」

同じく階段を登りながら、加須は目の前のラーニャの腰の括れを見てニヤニヤしていた。

「いい。・・・至近距離のこいつは最高だ」

二階の一番奥にあるユリトスたちの部屋のドアをオーリはノックした。

「オーリです」

ドアは開けられた。

開けたのはアラミスだった。

「どうしたんだ?」

アラミスはオーリの後ろにラーニャがいるのを見てびっくりした。

「え?ラーニャ?なんで、君が?」

九頭が言う。

「ラーニャがアトスとザザックのふたりと組んでゴーミを攫ったんだ」

「なんだって?」

部屋の中からユリトスの声が言った。

「まあ入りなさい」

五人はユリトスの部屋に入った。そのときも宿の玄関から入ったときからずっと九頭と加須はラーニャの腰の括れを意識していた。

中にはユリトスとポルトスが籐椅子に腰かけていた。椅子は四人部屋だったので四つあった。中央に円いテーブルがあった。

ユリトスはラーニャに椅子を促した。

ラーニャはちょこんと座った。アラミスも椅子に座った。

ユリトスは言った。

「カース王、ジイたちも呼んできてくれ」

加須はユリトスの指示に、「俺は王様なんだけどな」などとぶつぶつ言いながら部屋を出て、隣の部屋のドアをノックした。ジイたち三人が出て来て、隣のユリトスたちの部屋に移った。

ユリトスは言った。

「ラーニャ、今回の件について説明してくれ」

「あたしはザザックの弟子だ。それを辞めるつもりはない。でも、それと同時にここにいるみんなの仲間でもあると思っている」

「それで?」

「今、アトリフはロードンの町にいる。ラレンはアンダスとバルガンディの元にいる」

「ええ?」

九頭たちが驚いた。

「続けなさい」

ユリトスが言う。

ラーニャは続ける。

「それと、東のデラン王国からはカリア姫がこちらに向かっている。それを待っているのはロローの町にいるハイン国の将軍ドンブラだ。ちなみにラレンはハイン国宰相の息子ロロー伯爵を捕らえて連れている。その合流地点がロードンになるとアトリフは言っている。だから、そこにロガバ三国の王とユリトスたちが集まれば役者がそろうと、アトリフは言うんだ」

「役者がそろう?」

「アトリフはとにかく面白い展開になるのを楽しんでいるみたいなんだ」

ラーニャがそう言うと、ポルトスは言う。

「それじゃあ、俺たちがゴーミ陛下を助けにロードンに帰れば奴の期待通りってわけか」

ジイは言う。

「だが、陛下を放っておくわけにはいくまい」

アラミスはユリトスに訊く。

「どうします?助けに行きますか?無視しますか?」

ジイは言う。

「無視するわけにはいかんじゃろう」

ユリトスは言った。

「オーリはどうしたらいいと考える?」

オーリは答える。

「こういうときは二者択一で考えるのではなく、第三、第四の道も考えるべきだと考えます」

ユリトスは言う。

「じゃあ、第一の道は何かね?」

オーリは言う。

「全員でロードンに戻って、ゴーミ陛下を助ける」

「ふむ、第二の道は?」

「アトリフを無視してこの町で待ち続ける」

ジイは遮る。

「いや、ちょっとそれは・・・」

ユリトスは言う。

「第三の道は?」

オーリは答える。

「国王ふたりをこの町に残して、この中で選ばれた者だけが、ロードンへ戻る」

「第四の道はあるかね?」

「私たちは戻るのですが、ロードンを素通りして、ロローまで戻り、カリア姫を迎える」

「第五は?」

「このまま、ゴーミ陛下もカリア姫も捨てて西へ旅立つ」

「第六は?」

「そこまではまだ考えていません」

ユリトスはまとめる。

「私はオーリの案で第三の案がいいように思う。つまり、この中で何名かはロードンに戻りゴーミ王と、カリア姫を救い出して戻って来る。残りの者は、この宿でクーズ王とカース王を護衛する。どうだろう?」

ポルトスは言った。

「いいと思います」

「そうなると、残りは人選だが・・・」

部屋は静かになった。

ユリトスは言った。

「やはり、ここは私とポルトスとアラミスで行こう。ジイたち残りは王と女子をこの町で守ってくれ」

すると、ラーニャが言った。

「あたしも連れて行ってくれ」

ユリトスは即答した。

「ダメだ。おまえは磨いた剣技でふたりの王と仲間を守れ」

「なぜだ?」

「おまえが行くと、アトリフが喜ぶ。面白過ぎるとな」

翌朝、ユリトスとポルトスとアラミスはマラパーニの町を馬に乗って東へ出発した。


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