200、悪党の哲学
馬上のザザックは笑って言う。
「しかし、この三人で行動するとは初めてだな」
ラーニャは言う。
「何が楽しいの?」
ザザックは笑う。
「いや、アトリフにからかわれたときは俺は恥ずかしかったが、たしかにこのトリオはおもしれーよ」
ラーニャは言う。
「あたしはあなたたちのその『面白い』のが理由で危険な行動をする精神がわからないわ」
「じゃあ、ラーニャよ。おまえはなぜ山賊だった?」
「それはあたしの父親が山賊だったからよ」
「じゃあ、なぜ、俺の弟子になった?」
「それはあなたが敵を容赦なく斬る姿がユリトスにはなくてカッコいいと思ったからよ」
ザザックは言う。
「そのカッコいいの要素に、戦いを楽しんでいるという要素があることをおまえは見抜けないのか?」
「え?」
「俺もアトリフもそれからラレンも悪党だ。政府から見れば逮捕しなければならないようなことを平気でする。なぜだと思う?」
「え?まさか、それが楽しいから?」
「そうだ。命や人生を賭けて遊ぶのはたまらんぞ」
「遊ぶ?」
「どうせ、いつかは死ぬ命だ。そいつを賭けなければ面白くないだろう?」
ラーニャは思った。
「それは悪党の哲学だ。自由の代わりに命を賭ける哲学だ」
アトスは言った。
「俺はそのような哲学は御免だ」
ザザックは言う。
「じゃあ、おまえはアトリフ五人衆は失格だな。今日からラーニャが五人衆だ」
アトスは言う。
「おまえはどうなんだ?ザザック。そのラーニャを大事にする精神はアトリフ五人衆に適しているのか?」
ザザックは笑う。
「おまえ、アトリフがなぜ、ラミナやエレキアを連れていると思う?拾ったラミナは娘みたいなものだ。だが、あいつはラミナを妹だと言っている。エレキアもそうだ。年齢的に、アトリフの愛人でもおかしくない」
「愛人はやめろ」
「ふ、じゃあ、妻でもおかしくない年齢だ。なのにあいつはエレキアを妹のようなものだと言っている。俺にもあいつらにどういう過去があるかは知らない。しかし、アトリフにとってはあいつらは家族なのさ」
「おまえはどうなんだ?ザザック。おまえもアトリフの家族か?」
「やめろよ、気持ち悪い。俺はラミナの親戚のおじさんくらいのポジションでいいとしてるんだぜ。ラレンだってそうだろう。しかし、アトス、おまえはエレキアの恋人だ。これはアトリフにとって例外的な存在だ。アトリフがおまえを五人衆に入れているのは、エレキアを思ってのことだろう。だが、これはあいつの家族愛に深入りし過ぎている。俺はそう思う。家族になるほどアトリフはおまえを受け入れてはいないはずだ。おまえもそう思わないか?」
「たしかにそうだな。俺はエレキアは愛しているが、アトリフを家族と思うほどではない」
「だろ?だから、今回、エレキアと別行動をさせて、試しているんだと思うぜ?」
「それは俺も感じているさ」
「じゃあ、ユリトスたちを連れて来れば、そのアトリフとの絆を証明できると思うか?」
「それじゃ足りないのか?」
「バカか、アトリフがユリトスやロガバ国王らを連れて来いと言ったら、それプラスお土産が必要なんだよ」
「お土産?」
「ラレンは今回勝手に別行動をした。しかし、奴は絶対にお土産を持って来るぜ。失敗するかもしれないがな。ラレンがそうすることをアトリフはわかっているんだよ。だから信頼しているんだ」
「悪党の絆だな」
「そうだ、悪党だ。おまえも悪党の仲間なんだぞ。その覚悟を見せろと、今回アトリフが言ったんだ」
「俺はユリトス先生のように甘くはない。敵は殺す」
「それは騎士道精神だ。騎士のレベルだ。悪党じゃない」
「敵を殺しても悪党ではないのか?」
「敵を殺すのは当たり前だ。今、ラレンがどうしていると思う?」
「む」
「あいつはアトリフを裏切って、アンダスやバルガンディの味方になった。そして、ロロー伯爵とか言うどうでもいい奴を誘拐して、それで、たぶん、もう一度アンダスとバルガンディを裏切ってアトリフの所に戻るだろうぜ。そこになんらかのお土産があるんだよ」
「そのロローとかいう人質を売って得たカネか?」
「バカか、そうじゃねえ。アトリフが好きなのはそういうものじゃねえ」
「じゃあなんだ?」
「さっきから言っているだろう。”面白い展開”さ」
アトスは思った。
「これはついて行けないかもしれない。俺は真面目で紳士的だ。悪党にはなれないな」
ラーニャは思った。
「カッコよすぎる」
次第にユリトスたちのいるマラパーニの町が近づいて来た。




