20、山賊ゴメス
馬車からポルトスとアラミスがダッと降りると、それまでスケベな妄想の中にいた三人の王と旅行気分でウトウトしていたアリシアは一気に目が覚めた。
馬車の周りは二十人の山賊に囲まれた。山賊どもは、抜刀し、馬から降りた。ひとりだけ降りない男がいた。リーダーらしいその男は言った。
「ラレン、ご苦労だったな」
ラレンは言った。
「ゴメス、賞金を頂こう」
ゴメスという山賊のリーダーは金貨の入った袋をラレンに向かって投げた。土に落ちたそれはずっしりと重そうな音がした。ラレンはそれを拾って中身を確認した。
「三千万ゴールド、仕事結果にしては安い気がするが、世界一の賞金稼ぎアトリフ五人衆のひとりにとってはこんな仕事は小遣い稼ぎだ。たしかに貰ったぜ」
そう言って、ラレンは馬に乗り、森の中へ消えた。
ユリトスは言った。
「我々を捕えるのに三千万ゴールドとは、山賊、太っ腹だな」
馬上のゴメスは笑った。
「ふっふっふ、三千万など安い金だ。おまえは世界一の剣士ユリトスだろう?そして、その馬車の中にいるのは、バトシアの王、そして、ガンダリアの王だろう?おまえらは動く身代金のようなものだ」
馬車の中の加須は思った。
「あれ?ロンガの王である俺の名前が出ない。どういうことだろう?」
ユリトスはこの戦いに勝つ自信がなかった。彼は徹夜で馬車の御者台にいたのだ。つまり夜通し一睡もしていない。ポルトス、アラミスもほぼ眠っていない。この三人が通常の状態ならば、二十人の山賊など軽く倒せるのだが、今回は条件が悪い。
ユリトスはゴメスに訊いた。
「山賊よ、よく我々が馬車で移動していることがわかったな。どうやって知った?」
ゴメスは言った。
「ラレンと他の子分がハロンの町にいたのよ。そこで早朝に飯を食うお前らを見て、ラレンが誘拐を思いつき、もうひとりの子分を俺のもとへ連絡させたのだ」
「なるほどな」
ユリトスはなるべく話を長くして、作戦を考えていた。が、ゴメスは言った。
「おっと、あまり長く話はしないぞ。世界一の剣士のことだ、百戦錬磨のその頭でつまらんことを考えているのだろう。そうはさせんぞ。おい、おまえら、やれ!」
馬車の周りで戦いが始まった。
馬車の中では三人の王が震えて外を見ていた。
アリシアは言った。
「王様たちも戦わないのですか?」
三人は声を揃えて言った。
「「「だって、怖いも~ん」」」
アリシアは呆れてしまった。自分の憧れていた王族とはこんなものなのか?幻滅した。
五味は馬車の外を見た。ユリトスの背中が見えた。その向こうには山賊が五人以上サーベルを振るっていた。そして、五味は体が固まった。なんと、その山賊たちの背後の森の中にマリンちゃんがいるではないか!固まった体はすぐに柔らかくなり精気が漲って、馬車を飛び出した。
「マリンちゃ~ん!」
ユリトスの横を走り山賊たちの白刃をくぐり抜け、五味はマリンちゃんのもとへ走った。しかし、途中でゴメスに捕まり、首根っこを掴まれ持ち上げられた。
「おおっと、これはこれはガンダリア国王様ではないか」
五味は恐怖で叫んだ。
「ゆ、許して、助けてください。マリンちゃん、たすけて!」
ゴメスは笑った。
「うちの娘を誰かと勘違いしているようだな」
「うちの娘?」
五味は森の中のマリンちゃんを見た。馬に乗ったマリンちゃん・・・ではなかった。マリンちゃんよりずっとブスだ。
「なんだ、ブスか」
「おい」
ゴメスは五味を持ち上げ言った。
「俺の娘をブスと言ったな?」
「言ってませーん」
五味は震えていた。ゴメスはその五味の首元にサーベルの先を当てた。
「おい、ユリトスども、剣を捨てろ。さもないと、このガキを殺すぞ」
ユリトスは考えた。しかし、妙案は浮かばなかった。
「万事休すか・・・」
ユリトスはサーベルを捨てた。それを見たポルトスとアラミスも剣を捨てた。
ゴメスは言った。
「こいつらを全員縛って、馬車に入れて置け。今夜はここで一晩明かす。夜が明けたら、こいつらを馬車ごと、売りに行くぞ。どこで一番高く売れるかな?ガンダリアか?それともロンガか?カース王はいくらで買ってくれるかな。ぐふふふふ」
ユリトスたちは全員縛られ馬車に入れられた。前後の席に三人ずつ座らされ、床にユリトスが転がされた。
アラミスはこんな非常時にもかかわらず師匠が床に寝て弟子の自分が席に腰かけているのを申し訳なく思い言った。
「先生、すみません」
ユリトスは言った。
「殺されないだけ、幸運かもしれないぞ。生きる希望を捨てるな。とにかくこの状態で眠っておこう。そうすれば体力が出て、光明が差すかもしれんぞ」
ポルトスとアラミスはさすが先生だと思った。このピンチに「眠っておけ」とは。
九頭は縛られているのに、またアリシアの隣で彼女に密着していることに興奮し、加須はアリシアの正面に座り、彼女の胸などを見ていた。五味は馬車の外を見ていたが、もう夜で、山賊のリーダー、ゴメスの娘の姿を見たかったが、暗くて見えなかった。
夜中、馬車の床で眠っていたユリトスは眼が覚めた。馬車が動き出したのだ。
「おかしい、山賊たちは起きた気配はない。では、なぜ、馬車が動く?」
ポルトスが言った。
「先生・・・」
ユリトスは言った。
「静かに、黙っていよう」
馬車は暗い夜の森の中を静かに進んで行った。




