2、三人の死
三人は地元の神社の裏の森の中で出木杉の藁人形に釘を打ちつけていたが、むなしくなった。
「あ~あ、やめた、やめた。こんなことをやってたって俺たちにいいことなんかねーよな。いまさら気づいたけど、出来杉を落としたって、俺たちが上がるわけでもねーよな」
五味がそう言うと、後ろから老婆の声が聞こえた。
「おまえたち、若いのが何をしている?藁人形?今どきの若いもんが何をしているか?」
それは巫女の恰好をした老婆だった。
「なんだ、ばあさん」
五味は言った。
「俺たちはどうせ、頭は悪いし、運動もできないし、なにをやってもダメなんだ。もう生きてる意味はねーよ」
「そうじゃの」
「え?そこ認めちゃうの?説教するかと思ったのに」
老婆は言う。
「今からおまえたちは自分たちの出身中学の屋上から飛び降りて死ぬがいい」
「へ?」
「そうすれば、おまえたちは転生し、新しく素晴らしい人生を生きることになるだろう」
「 マジか?マジで言ってんの?ばあさん」
「マジじゃ」
五味と九頭と加須は四階建ての中学校の屋上の柵の外側に立っていた。
空は青く澄み渡っている。こういうとき、高い所からの地元の風景を見ることは気持ちのいいものだ。
しかし、三人は自殺をしに来たのである。
下を見ると昇降口前のコンクリートの地面がある。
「ここから、飛び降りるのかよ?」
「マジか?」
「死ぬぞ」
「あたりまえだ、転生するには死ななきゃならんだろう?」
五味は言った。
「よし、ふたりとも、飛べ。俺は後から追う」
九頭は言った。
「なに言ってんだよ。五味から行けよ」
「は?なんで俺から?」
加須は言った。
「ふたり同時に飛べばいいだろ?」
ふたりは言った。
「おまえも飛ぶんだよ」
三人は譲り合い揉み合った。
そのうち、加須が足を滑らせた。
しかし、九頭の右足を掴んだ。
掴まれた九頭も落ちそうになり、五味の左腕を掴んだ。
五味も落ちそうになり、ぎりぎり右手で柵を掴んだ。
こうして三人は鎖みたいに屋上からぶら下がった。
五味は九頭の頭を足で踏みつけた。
「放せ、九頭、落ちるだろ!」
九頭は放さない。
「放してたまるか。おい、加須、おまえは放せ」
加須も必死だ。
「放したら死ぬだろ!」
五味は言う。
「死ぬために来たんだろ!」
加須は叫ぶ。
「やっぱ、いやだ、死にたくない」
九頭も言う。
「俺もだ。死にたくない。だから、加須、放せ」
五味は言う。
「いや、九頭、おまえが放せ。俺だけでも助かる方が三人死ぬよりいい」
加須は下から言う。
「五味、最低だぞ」
五味は言う。
「いや、最低かもしれないけど、もう右手が限界・・・」
誰かが噂をすると噂された者はくしゃみをするという。
このとき、神社の前を箒で掃いていた巫女のばあさんが空を見て呟いた。
「あの三人はもう死んだかの?」
五味の右手一本に三人の全体重が掛かっていた。
五味は鼻がむずむずした。
「な、なんだ?こんな時に・・・ハ、ハ、ハ、ハクション!」
右手は離れた。
「「「わぁああああああああ」」」
ベチャッ。
三人は死んだ。