196、幸せとは関係ない人生
縛られたロロー伯爵は泣いていた。
「貴様ら、僕を誘拐するなんて、国家的犯罪だぞ。僕のお父様は、宰相デムルンだぞ。わかっているのか?」
ラレンは床に転がるロロー伯爵の前にしゃがみ込んだ。
「わかってるよ。伯爵。あんたのお父さんは偉大な宰相様だ。たっぷりと身代金を頂けるだろうぜ」
ロローは喚いた。
「身代金?大それた真似を!貴様ら、死刑だぞ」
ラレンは笑った。
「生きるか死ぬか、それがおもしれえのさ」
ロローは泣いた。
「バカか?生きて美味しいものを食べて、美しい女を抱いて、フカフカのベッドに眠って、そういうのが幸せじゃないのか?」
ラレンは笑って、テーブルで食事を摂る三人を見た。ひとりはアンダス、ひとりはバルガンディ、ひとりはキメラである。
「幸せだとよ。なあ、坊ちゃん、俺たちは幸せには興味がねーの。人生は面白ければいいの。わかる?」
「わかるわけがないだろ?人間は幸せになるために生きているんだぞ」
「はははん、そういうのはな、面白い人生を生きる勇気のない甘えん坊が言うセリフだ」
「僕は甘えん坊なんかじゃないぞ。立派に伯爵として自立した大人なんだ。奥さんだっているんだ」
バルガンディたちは笑った。
「ラレン、その子は良い子だな」
キメラも笑った。
「うむ、育ちがいい」
アンダスは言った。
「本当に殺さないのか?」
ラレンが言った。
「アンダスよ。人間は生きているから利用価値があるんだ。殺したら終わりだ。死体に意味を求めるのは宗教家かその信者くらいなものさ」
ロローは言った。
「ここはどこだ?どこの町だ?」
ラレンは笑った。
「町じゃねーよ。バルガンディ、教えてあげてもいいか?」
「かまわん。どうせ、そいつには報告する能力はない」
バルガンディがそう言うのでラレンは言った。
「ここはな、ロローの町のずっと北にある山の中の小屋だ。小屋の主は殺した。つまりここは俺たちの小屋だ」
ロローは青ざめた。
「小屋の主は殺した?殺人犯じゃないか?」
「小屋の主人には利用価値はなかったが、小屋には利用価値があったんだ。な、アンダス?」
アンダスはラレンの言葉に答えた。
「まあ、そういうことだ」
ラレンは言う。
「この山には他にもテントを張って、アンダスとバルガンディの子分たちが泊っているぞ」
ロローは言った。
「おまえらの目的は何だ?」
ラレンは笑った。
「だから言ってるだろう。俺の目的は面白い人生を生きること。で、アンダスの目的は何だ?」
アンダスは答えた。
「デランの支配」
「バルガンディの目的は何だ?」
「おのれの能力をいかに発揮できるか、試すこと」
「キメラは?」
「俺の目的は、最強の弓使いの称号を得ることかな?」
ラレンは訊いた。
「それで、キメラはバルガンディの元にいるのか?」
「そういうことだ。この男は天才だ。ロンガの参謀長から、いつのまにか、デランの将軍になり、今は山賊の共同の首領だ。しかも、まだ、野心が尽きないでいる」
バルガンディは言う。
「そうだ、キメラ、おまえの言う通り俺の野心はまだ尽きちゃいない。おまえにいつかドラゴニア一の弓使いの称号を与えてやろう。とりあえずハイン王国を乗っ取ってやろうか?」
四人は高らかに笑った。
「「「「はっはっはっはっは」」」」
ロローは思った。
「こいつらは頭がどうかしているんだ!幸せとか不幸とか、そういうのとは関係ない人生を生きているんだ!」
翌朝、縛られたロロー伯爵を連れたアンダスバルガンディの野盗の一団は山の中を西へ移動した。




