188、処刑時刻に
この劇場は前金制だったので、五味たちは入場口でユリトスから活動費としてもらったカネの一部を払って入場した。
劇場は昼間だというのに男性客が多かった。もしかしたら、戦争明けで、男たちはストリップを見ることで鬱憤を晴らしているのかもしれなかった。
舞台には、頭にウサギの耳をつけ、体は紫のコートを羽織った、二十代くらいの女が三人出て来た。音楽が掛かり、その三人はまず紫色のコートを脱ぎ捨てた。脱ぎ捨てられたコートは観客席に落ちて、その下にいた男性客は失神してしまいそうなほど感動して奇声を発した。コートの下にはタイトで体のラインを強調するセクシーな服を着た体が現れた。
加須は舞台に叫んだ。
「お、いいね、おねえちゃん!」
九頭も負けじと声を張った。
「お、いいおっぱい。今度触りに行くよ!」
五味も声を出した。
「次に脱いだら、俺んとこに投げてくれよ!」
こうして、三人は時間を忘れてしまったのである。
広場にはユリトスたちが集まっていた。
ユリトスは言った。
「この町の最高の権力者は、北の外れに門を構える、ロロー伯爵だ」
チョロは言った。
「じゃあ、ナナシス、そいつに化けるんだ」
「どうやって?」
「もちろん、その屋敷に潜り込むのさ」
「どうやって?」
「変身術を駆使してできないか?ヒュンダスの城からどうやって逃げた?」
「あのときは必死で、次から次へ出会った兵士に変身して・・・」
「それをやればいいだろう?」
「いや、無理だ。仮にその伯爵の所に辿り着いたとしてその伯爵に変身するだろ?」
「ああ、いいじゃないか」
「そのあとはどうするんだよ?伯爵を縛ってどこかに隠すのか?」
「そうだな」
「俺ひとりでか?」
「無理か?」
「無理だ。伯爵がゴーミ王みたいにヒョロヒョロの貧弱な奴なら出来るけど、情報では剣の腕の立つ男だ。無理だよ」
「なんとかしろよ」
「なんとかできないって言ってるだろ?」
ジイは言った。
「ところで、陛下たちは?」
アリシアは言った。
「もう集合時間から三十分以上経ってるのに・・・」
その頃、五味たちは。
五味。
「ゴーゴー、ブリンちゃん!おっぱいブリンのブリンちゃん!」
九頭。
「パンツがチラリ、パンツがチラリ、ミニスカートの中には純白のパンツ」
加須。
「先にパンツを脱ぎましょう!」
広場のオーリは言った。
「まさか、あの三人、事件に巻き込まれたのではないかしら」
ジイは困った。
「いかん、それはいかん。まずいぞ。バルガンディよりも陛下らが大事じゃ。わしらは陛下あってこそのわしらじゃ。陛下を探そう」
またみんなは散り散りになった。
もう日はだいぶ傾いている。
ストリップ劇場ではショーが終わり人々が帰り始めた。
五味は主催者に言った。
「え?これで終わりなの?」
主催者は言った。
「今日は、あの敵将バルガンディの処刑があるから、みんなそれを見に行くんだよ。うちも、今日はこれで閉店さ。さあ、処刑を見に行こう」
五味たちは青ざめた。自分たちの任務を思い出したのだ。
五味たちが広場に行くと、後ろ手に縛られたバルガンディが死刑執行人に囲まれ、処刑台の階段を登っているところだった。
「ああ、もうダメだ。殺される」
五味は頭を抱えた。
バルガンディは処刑台の上に立った。首に縄を掛けられた。
バルガンディは、処刑台から、町を見下ろした。広場にはほとんどすべての市民が集まっている。ただし、子供を連れている者はいなかった。さすがに人が殺されるところを子供に見せようとする親はいなかった。そんな町をバルガンディは処刑台の上から一周体の向きを変えて見下ろした。そして、笑って言った。
「俺は、バルガンディ、世界一の策士だ!」
その瞬間、どこからともなく矢が飛んできて、バルガンディの首に掛かった縄が切られた。しかも、バルガンディの後ろの空中に手が現れ、ナイフでバルガンディの手を縛る縄を切った。バルガンディの手にはそのナイフが渡された。
死刑執行人たちは辺りを見渡した。
「どこだ?どこから矢が飛んでくるのだ?」
そう言っている執行人の首に矢が刺さり、彼は櫓から落ちて死んだ。矢は次々に飛んで来た。すべての矢が執行人や櫓の周りにいる兵士の首など急所に刺さり、無駄な矢はなかった。
ユリトスはその様子を見て言った。
「キメラだ。奴の矢に違いない。そして、バルガンディの縄を切ったあの空中に現れた腕、あれはまさにアンダスじゃないか」
市民は逃げ惑った。そこに赤い髑髏のマークを付けた男たちがなだれ込んできた。
ユリトスは言った。
「まずい、逃げるぞ。ジイ殿、おなごたちを連れて出発するんだ。私とポルトスとアラミスは三人の王を探して連れて行く」
ジイは答えた。
「わかった。アリシア、オーリ、ナナシス、チョロ、行くぞ」
ナナシスはぼやいた。
「助けようとした奴を助けた奴から逃げる、アホか」
ユリトスたちは群衆の中に五味たちを見つけた。
「陛下、逃げましょう」
「あ、ああ」
「いままでどこにいたのです?」
「ちょ、ちょっと劇場で聞き込んでいたんだ」
六人は町の外れまで来ると馬に乗ってドラゴン街道を西へ逃げた。
ジイたちと合流するとそのまま次の町へ向かった。
ユリトスは訊いた。
「オーリ、地図は手に入ったか?」
「そんな時間はなかったわ」
「だろうな」
十一人の五味たち一行はランプの灯りを頼りに、街道を西へ向かった。




