179、エコトスの故郷コランサイド
アトリフたちは、エコトスの故郷であるコランサイドという村に入った。
まだ夜中であったが、村人たちは家から出て、心配そうに火の手が上がるコランの町のほうを見ていた。
村人たちが見ていると、その燃える町の方向から、アトリフたちが馬に乗ってやって来た。
アトリフは村人たちに大きな声で言った。
「俺はアトリフ!おまえたちの村の守護戦士、エコトスを連れて来たぞ!」
エコトスはアトリフの突然の言動に戸惑った。村人たちは馬上のエコトスを見た。それは冷たい視線だった。
エコトスは馬を飛び降り、村人たちの前で土下座した。
「すまなかった。みんな!俺は恋人のマリーを売った男だ。いや、男の風上にも置けない人間だ。でも、修行をして帰ってきた。許してくれとは言わない。しかし、戻ってきたからには、俺はあのドラゴンを倒して見せる。だから・・・俺を・・・、」
エコトスは泣いていた。
村人の男が言った。それはマリーの父親だった。
「エコトス、私はおまえを許さない。だが、聞け。この村はおまえがマリーをドラゴンに売ったおかげで平和になった。しかし、あのとき、おまえを裏切った、おまえの親友は、数年後に自殺したぞ」
「え?」
「相当、おまえを裏切ったことを悔いていたのだろうな。おまえを裏切ったためにマリーも死んだのだからな」
「あいつが・・・」
「だが、マリーは帰ってこないのだよ」
「あれから、十五年以上経った。ドラゴンは目覚めたか?また、この村を襲いに来たか?」
「まだ襲われてはいない。別の村を襲ったとの情報はない。目覚めたかどうかもわからない」
「じゃあ、俺をこの村に守護戦士として置いてくれないか?」
エコトスはまた額を土につけた。
「たのむっ!俺はあのドラゴンに復讐したいんだ。マリーの仇、そして、俺の忌まわしい過去を清算したいんだ。たのむっ!」
マリーの父親は言った。
「何をしてもマリーは帰ってこない」
ザザックは言った。
「おい、あんた、エコトスが土下座してんだ、冷たすぎやしねえか?」
アトリフは制した。
「やめろ、ザザック、これはエコトスの問題だ」
マリーの父親は言った。
「なんだ?エコトス、ヤクザを連れて帰って来たのか?」
エコトスは額を地面につけたまま言った。
「この人たちは俺の仲間だ。でも、俺はあのドラゴンを独りで倒す。そのためにこの十五年修行してきたんだ。だから、この村に置いてくれ!」
マリーの父親は言った。
「ダメだ。帰れ」
すると、マリーの母親が言った。
「あなた、置いてあげたら?」
「ダメだ。見ろ、あの火を。こいつがいると、村に禍がやって来る」
アトリフは言う。
「マリーの親父殿、あの火はエコトスとは関係ない。戦が始まってしまったのだ。もし、俺たちをこの村に置いてくれたなら、俺たちがこの村を死守しよう」
「な、なに?おまえたちは七人しかいないじゃないか?」
「じゃあ、こうしよう。あなたたちはこの村からどこか森の中に一時避難する。俺たちはこの村に残り、あなたたちの財産を死守する。むろんドラゴンはエコトスが倒す。戦いが終わればあなたたちは戻ってきたらいい」
「七人だけで何ができるというのだ?」
「いや、七人だけではない。あそこにほら、・・・」
アトリフが向いたほうに、ユリトスたちが来ていた。
マリーの父親は言った。
「あなたたちは?」
ユリトスは言った。
「私たちはロガバから来た旅の者です」
「あなたたちもこの村を守ってくれるのか?」
「え?」
ユリトスはアトリフの顔を見た。
アトリフは笑って言った。
「この村を戦禍から守ると提案した。おまえらも手を貸せ」
ユリトスはアトリフを見て言った。
「バカな、こんな少人数であの軍隊から守れると思うか?」
「バルガンディの軍隊がここまで来られると思うか?おそらく、俺の勘では、国境は越えられまい。あんたの勘ではどうだ?」
ユリトスは頷いた。
「うむ、同じだ。ハインの軍隊のほうが訓練が行き届いている。それに数も多い」
アトリフは笑った。
「ならば手を貸せ」
「なんのために?」
「なんのためにだって?正義の味方だろ?おまえらは」
ユリトスは言った。
「我々は旅の者だ。救世主ではない」
「じゃあ、この村を見捨てるのか?」
ユリトスはマリーの両親や他の村人を見た。そして言った。
「村人も共に戦うのであれば、戦ってもよい」
ポルトスは驚いた。
「先生、殺さずは?」
「戦争ではやむをえまい」
ユリトスはアトリフを見て言った。
「女子供は避難させるべきだ」
アトリフは言った。
「村人よ、女子供はしばらく森の中にでも避難したほうがよいそうだぞ」
マリーの父親は言った。
「女子供は避難させよう。しかし、エコトス、おまえを許しはせんぞ」
エコトスは額を地面についたまま、動かなかった。




