174、アリシアとオーリの会話
夕方、ユリトスたちとバルガンディの部隊は森の中の町コランに着いた。
そこは確かに、デランの軍隊が制圧し、国境を守っていた。国境は門があり、その向こうはハイン王国の軍隊が守りについていた。
バルガンディが直接、ハイン軍の国境警備隊長に説明した。
「これから、この町にアンダスの兵力が襲いに来ると予想される。それゆえ、我がデラン軍はこの町に軍隊を集結させる。これは決して貴国らを脅かすものではない。アンダスの兵力を壊滅させたら、デラン軍はこの町から離れ、再び平和な国境の町としてコランは林業に励む町になるだろう」
ハイン軍の警備隊長は了承した。しかし、表向きは了承したとはいえ、隣国の軍隊が、この国境に集結することに警備隊長は怖れを感じ、これは上に報告せねばなるまいと伝令を西に飛ばした。
コランは国境の町であり林業の町であるとすでに述べたが、森の中の町とはいえ、比較的大きな町だった。宿もいくつもあった。さすがに林業の町とあり、木造建築の美しい町だった。
その木造建築の宿のひとつにユリトスたちは入った。二階建ての瀟洒な宿で柱などの建材が、黒々とした、大きな一本の木をそのまま使ってあった。まるで森の中に生えてきた建物といった感じだった。
二階のふたり部屋に入るとアリシアは窓を開けた。
「わー、ねえ、オーリ、深い森の向こうに湖が見えるわ。綺麗よ」
オーリも窓の外を見た。
国境の向こうの西の方に小さな湖が見えた。西日がその湖面を照らし、きらきらと輝いていた。その向こうに見える木々が茂る山にも西日は当たり、樹々が燃えるように見えた。
西日というのは、人を感傷的にするものだろうか、アリシアは窓辺に頬杖をついて、じっと外を見ていた。
「ねえ、オーリ、いつか、陛下たちとあんな湖を見ながら食事をしたわね」
「ああ、カインの町のこと?」
「もう、町の名前も覚えていないわ。次から次へといろんなことが起きるのだもの」
「そうね。陛下たち無事だといいけど」
「アンダスに囚われているのでしょう?」
「たぶんね」
「あいつら、あたしたちを捕らえたこともあったわね」
「カルドンの町ね。思い出すだけで嫌にあるわ。もう縛られることなんてごめんだわ」
オーリは窓の下にしゃがんだ。
オーリの横に立つアリシアは窓の外を見て言う。
「ねえ、オーリ、陛下たちのことどう思う?」
「そうね、昔、まだ、あの方たちと会う前。噂では、とくに私はロンガにいたから、カース王の誉れ高い人格や頭脳、武勇などを聞いていて、ずっと憧れていたわ」
「あたしもそう、あたしはバトシアに住んでいたからクーズ王のことをよく知っていたわ。あの方もそう、高い人格で頭もよくて、勇気や責任感があって完璧な人だと思っていた。でも、なに?あたしがトイレでおしっこをしていたら、その便器の中から出てくるのよ。しかもガンダリアのゴーミ王と一緒に。最低でしょ?」
オーリは笑った。
「最低ね」
「あたしはすぐにシャワーを貸して、着替えるようにお父さんの服を上げたわ」
「そうか、そこからアリシアの冒険が始まったのね」
「ねえ、オーリ、あなた正直、あの三人、どう思う?」
「最低だけど、でも、ときには身を挺して人を守る勇気を持っている。もしかしたら、偉大な人達かもって思うわ」
「うん、あたしもそう思う。でも、あたしが訊いてるのは、そういうことじゃないの」
「え?」
「オーリ、あの三人、男としてどう思う?」
「え?」
オーリは顎を膝に載せてくすっと笑った。
「まだ男じゃないわね」
「オーリは真面目ね。あたしはね、恋愛対象としてどうなのって訊いてるの」
オーリはアリシアの顔を見て意地悪な顔をした。
「アリシア、あの中の誰かに惚れてるの?」
アリシアは頬を染めて言った。
「ち、違うわよ」
「じゃあ、なんでそんな質問するのよ」
「べつにいいじゃない。あたしたちまだ十代よ。恋愛くらいしたいわよ」
「そうね。でも、あの三人しか十代の男の子が近くにいないっていうのは選択肢が少ないわね」
オーリが笑うと、アリシアも笑った。
すると、ドアがノックされた。外からジイの声が聞こえた。
「おふたりとも、夕食を食べましょう」




