172、キメラの矢
見張りの兵士は、なかなか戻ってこない三国王を怪しんだ。しかし、童貞の彼は、王たちはハーレムで遊びを極めたプロ、男同士三人でお楽しみになられているのか?いや、プロフェッショナルだなぁ、などと思って待った。しかし、東の空が白んできても戻ってこない国王たちが次第に心配になってきた。というよりどんな理由があれ見張りを怠った自分が罰せられることを怖れた。彼は他の見張りに言って、一緒に林の中に入っていった。しかし、どこを探しても、三国王はいなかった。
見張りは部隊長のバルガンディに報告した。バルガンディは激怒した。
「なぜ、見張りを怠った?」
「いえ、陛下たちが、その、じ、自慰をするというので、見るなと仰せられたので・・・」
バルガンディは怒った。
「それで見張らなかったのか?」
「はい」
「バカ者!」
バルガンディは命令した。
「探せ!伝令係はデラン西部の残党狩り軍をかき集めて、コランに集結させろ」
この騒ぎに、テントからユリトスが出て来た。
「バルガンディ殿、どうかしたのか?」
「陛下たちが攫われた」
「誰に?」
「わからん。あー、くそ、我々がついていながら、これは恥だ」
バルガンディは頭を抱えて嘆いていたが、ユリトスに言った。
「我々はコランの町まで行きましょう。そこに陣を張るのです。コランならば我が軍の制圧下にあります」
「山賊ですか?アンダスですか?」
バルガンディたちが騒いでいると、林の中から黒い服を着た男たちが現れ剣を振りかざし襲い掛かって来た。ユリトスは抜刀した。
「ポルトス、ジイ、ナナシス、テントから出ろ!敵だ!」
黒い服の男たちの胸や肩には赤い髑髏のマークがついていた。
バルガンディは言った。
「キメラ、矢を番えろ!アンダスを見つけ射殺せ!」
キメラは馬に乗り、林の中を探した。
バルガンディの兵士は抜刀し白兵戦になった。キメラの馬の下ではバルガンディ含め四人の兵士がキメラを守った。キメラはアンダスを探した。アンダスにとっての弱点は遠くからの弓矢だ。キメラはアンダスを探した。いなかった。
「どこだ?どこにいる?この森という隠れ場所が多い所を戦場に選んだのはアンダスの勝ちだ。このように木が多いと隠れているアンダスを矢で狙うことは難しい」
白兵戦はバルガンディの部隊が勝利を納めつつあった。しかし、キメラは手に脂汗をかいていた。
「いない、奴がいない。バカな、なんのための攻撃だ。目標は弓の名手であるこの俺ではないのか?」
キメラは林から自分の胸元に視線をうつした。驚いた。ナイフを持った腕が、胸元に浮いていた。
「やばい」
キメラは即座に後ろに体勢を倒して落馬した。落馬して言った。
「あそこだー!右手杉木立の裏!」
キメラが指さした方向をバルガンディたちが見た。そこには赤いモヒカンのアンダスが立っていた。
バルガンディは号令した。
「奴を殺せ、十人で倒せ!」
十人の兵士がアンダスに斬りかかって行った。さすがのアンダスも自分の魔法は一対一には強いが、十人相手の近接戦では負けると思い、逃げ出した。
「みんな、退却だ!」
アンダスはそう言って森の中に消えた。赤い髑髏の男たちも全員、森の中へ消えた。残ったのは屍が九つだった。そのうちバルガンディ部隊の兵士は三人死んでいた。
落馬したキメラは立ち上がった。
「危なかった。殺される所だった」
バルガンディはキメラに言った。
「無事か?」
「落ちたとき腰を痛めた。まあ、軽傷だ」
「そうか」
「しかし、森の中で奴と戦うのは俺には無理だ。木々の間に隠れたあいつはそこから空間を越えてこちらの胸元にナイフを突き立てて来る。防ぎきれん」
「では早くコランの町に行こう。そこに軍勢を集めるぞ」
テントの中で動かなかったアリシアとオーリ、チョロは無事だった。
ジイは言った。
「陛下たちは?」
ユリトスは歯噛みして言った。
「攫われた」
ポルトスは言った。
「殺されるでしょうか?」
「いや、奴も、王の血は欲しいに違いない。とにかく、バルガンディの言うようにコランまで行こう。こんな林の中にいつまでもいてはならない」
一行は朝食抜きで出発した。




