166、五味の蘇生
「あれ?ここは?」
五味はベッドに寝ていた。
「五味!」
九頭が顔を覗き込んだ。
「大丈夫か?」
病室には他に人がいなかった。
「みんなは?」
「ああ、呼んでくるよ」
九頭はそう言って病室を出て行った。
五味は病室を見渡した。
柱は木の柱で壁は漆喰、床は板だった。窓は小さく、椅子がひとつあり円い小さなテーブルがあるという、ヨーロッパの家の小部屋のような雰囲気だった。
九頭がみんなを連れて来た。
加須が言った。
「五味、死んだかと思ったぞ」
アリシアが言った。
「あー、よかった」
オーリは言った。
「魔法って凄いわねえ、あの傷なら普通死んでるわよ」
ジイは泣いていた。
「わしは、わしは、これで先代国王に会わせる顔が保てたわい」
チョロは五味に訊いた。
「痛くねえのか?胸?」
「胸?」
五味は起き上がろうとした。しかし、胸に痛みが走りまた横になった。
「う、なんで胸が痛いんだ?」
アリシアは訊いた。
「え?覚えてないの?」
「俺、なんかしたのか?」
そういう五味に九頭が説明する。
「カリア姫がインダスを殺そうとしたときにインダスをかばってその身代わりに胸にナイフを刺されたんじゃないか。本当に覚えてないのか?」
「え?そうか、そういえば、なんとなく・・・」
五味は気づいた。
「そうだ、カリアを呼んでくれ」
ジイがカリアを呼びに行った。カリアは王城にいるらしい。
しばらくして、病室にユリトス、ポルトス、ライドロ、そしてカリアが入った。カリアはユリトスの陰で暗い顔をしていた。
五味はそんなカリアに言った。
「カリア!大丈夫か?あのあと、インダスに何かされなかったか?」
カリアは何も答えなかった。
加須は説明した。
「あのあと、インダスはアラミスが殺したよ」
「え?アラミスが?」
「ああ、アラミスはだから、王族を殺したから復讐から逃れるために西へ独りで行っちまった」
「そうだったのか・・・カリアが殺人者にならなかったのは良かったけどな」
五味がそう言うと、カリアはますます縮こまった。
五味は聞いた。
「あ、インダスが死んだということは戦争はどうなったんだ?ウンダスの勝ちか?」
ユリトスが答えた。
「そうだ、ウンダスの勝ちだ。ただ、西にはインダス軍の残党とアンダスがいる」
「え?アラミスは西に逃げたんだろ?」
「ああ」
「やばいじゃん」
ユリトスは冷静だ。
「あいつは私の弟子だ。大丈夫。死ぬようなことはあるまい。今頃は国境を越えてハイン国に行ってるかもしれん」
「ハイン国か・・・そう言えば、俺たちデラン王国に入って長いよな。ん?長いと言えば、俺はどのくらい眠ってたんだ?」
オーリは答えた。
「三日よ」
「三日?そんなにか・・・」
「そのあいだ私とライドロがかわりばんこで回復魔法をかけ続けたのよ」
「あ、ありがとう。ライドロもありがとう」
ライドロは頭を掻いた。
「いや、良かったよ。ゴーミ王が元気で、あ、まだ胸が痛いの?」
「ああ、寝てるといいんだけど、さっき起き上がろうとしたら痛かった」
オーリが言った。
「じゃあ、湿布を取り換えてあげる」
「え?ありがとう」
オーリは五味のパジャマのボタンを外して胸の湿布を換えた。
「オーリ、もうちょっと下のほうも見てくれないか?気になる箇所があるんだ」
「え?」
「もうちょっと下、腹のほう」
「この辺?」
「いや、もうちょっと下」
オーリは下腹部を抑えた。
「もっと下かな」
オーリはそれより下は陰部に当たると思い布団を剥いで見ると、パジャマの股間部分が山のようにもっこりしていたので、「あ、この王様最低だった」と思い布団を戻した。
五味は言った。
「揉んでくれると気持ちいいんだけど」
「自分でしなさい」
もうオーリは看病をやめようと思った。
五味は言った。
「ちょっとカリアとふたりきりで話がしたいんだけどいいかな?」
オーリは言った。
「ダメよ、あの人にはライドロという婚約者がいるの。ケガに付け込んでスケベなことを考えるんじゃないわよ」
五味は真面目に言った。
「いや、スケベなことじゃないよ。ふざけたことでもない」
ユリトスは言った。
「カリア、ふたりきりで話しなさい。みんな、出よう」
カリアと五味以外の者は出て行った。
カリアは先ほどから縮こまっている。
「カリア、やっぱり、おかしいよ」
「なにが?」
「俺を刺した罪の意識があるだろう?」
「ええ、私はインダスを殺そうとした。それで結局あなたに大けがをさせてしまった」
「でもね、やられた俺が言うんだから確かだけど、カリア、君は無罪だよ」
「え?」
「やられた俺が罪を咎めないんだから無罪だ」
「でも・・・」
「法律が何と言おうが、神様が何と言おうが、俺が許す、無罪だ」
「でも・・・」
「とにかく俺は君に幸せになって欲しくてああいう行為に出たのだと思う。咄嗟だったから自分でもよくわからないんだけど、結婚を控えた君に殺人者になって欲しくなかったんだと思うよ。もし、あのことで罪を感じて、暗い顔してこれから生きて行かれたら、せっかくの俺の行為が無駄になっちゃう。もしそれでも罪に思うのならば、結婚して幸せになることが俺への罪滅ぼしだと思ってくれよ」
カリアは泣き始めた。
「ありがとう、う、う、」
「泣くなよ。だから、笑ってくれなきゃ俺が困るんだって」
カリアは泣きながら笑顔を見せた。
「本当に、ありがとう、ね」
「おう」
五味も笑った。
「みんなに入って来ていいって言ってよ」
カリアは泣きながら笑って頷いた。
アリシアたちは入って来るなり五味を責めた。
「やっぱりなんかしたわね?陛下、女の子を泣かせるなんて最低よ」
「いや、俺は何もしてないよ」
「じゃあ、なんでカリア姫がこんなに泣いてるのよ。あ、お尻触ったわね、そうでしょ?」
「してないって」
「最低ね、スケベな王様はこれだから困る。ハーレムと外では常識が違うのよ、常識が」
「だから違うって」
などと言ってみんなで笑った。楽しい病室だとカリアは思った。




