165、五味の夢
五味は夢を見ていた。
これは夢であると自覚のある夢だった。
父親が出て来た。
父親は幼い自分に言った。
「人にはそれぞれ能力に違いがある。能力のある人と、ない人がいる。お父さんはない人だった。だから、誰でもできるような工場労働者をしている。いいか、大きな夢を持つんじゃないぞ、大きな夢を持つといつか自分の限界にぶつかって大きな挫折感を覚える。夢は小さい方がいい。小さな工場で働き、ささやかな家庭を築く、それもまた夢なのだよ」
これは前世で幼い頃実際に父が五味に語った言葉だった。
この言葉を信じて生きた。
しかし、納得ができなかった。なぜ、生まれつき人の能力には差があるのか?自分は大きな夢を見てはいけないのか?
同じ学校の同じ学年に出木杉という男子がいた。彼は性格がよく、容姿もよく、頭もよく、運動もできた。何でもできる男だった。女の子にもモテた。
それに引き換え自分は性格が悪く、容姿も悪く、頭も悪く、運動もできなかった。どこを取っても出木杉に勝てる要素はなかった。出木杉には明るい未来があったが自分にはなかった。いや、ないと思い込んでいた。
なんとかして出木杉を落としたかった。彼が美好麗子という完璧な美女と結ばれたら完全に自分の敗北だと思った。だから、中学生で九頭と加須と出会ってから意気投合し、出木杉の明るい人生の妨害ばかりしていた。挙句の果てに、自分の進路を顧みず、出木杉の高校受験を妨害したため、高校にも行けず就職もできず、無職の十五歳になった。そして、神社の裏で藁人形に釘を打ちつけていると巫女の老婆が現れ、自殺すれば転生して素晴らしい人生を生きることができると言った。五味は実際に自殺したら国王として生まれ変わった。そして、大冒険が始まった。
しかし、あの人生、中学を卒業して自殺したあの人生は何だったのだろうか?
なんのための人生だったのか?
負けたのか?
あの人生は負けだったのか?
あんな親を持って生まれた時点で負けだったのか?
人生が勝負だとしたら、生まれた環境でもう勝敗は決まるのだろうか?
国王に生まれ変わったけど五味は逃げた。
国王という重責に耐えられず王座から逃げ出した。
だとしたら生まれた環境で勝敗が決まるのではない。
自分次第ではないだろうか?
人生の勝敗とは社会的地位の高さ低さではない。
国王でも負けの人生はあるし、低所得者でも勝ちの人生はあるだろう。
五味は思った。
「うちのお父さんは、工場労働者だから負けの匂いがするのではない。自分自身の負けを認めているから負けなんだ。負けている限り幸せとは言えない。勝ち負けとは人と比較するべきものじゃない。じゃあ、俺は・・・」
五味は目を覚ました。




