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150、牢の中での三人の会話

「あ~あ、また牢の中だな」

五味は壁に凭れて呟いた。石の壁に囲まれた四角の部屋の一方が鉄格子になっている。

九頭は言う。

「これで何回目だ?」

「さあ、記憶にございません」

「俺たちって、いつも縛られて攫われて閉じ込められるよな」

「そんで、誰かが助けに来てくれる」

「来るかな?」

「来るさ」

「チョロは逮捕されなかったからユリトスさんたちに報告したはずだ。俺たちが逮捕されてユリトスさんたちが黙っているわけがない」

加須は言う。

「なあ、どうせ俺たちはこのまましばらくは、牢の中にいるんだ。今のうちに俺たちの旅の目的について話し合って見ないか?」

五味は言う。

「目的ね。それを今この状況で話し合うのか?」

加須は言う。

「他にすることがないだろう?」

九頭は言う。

「脱獄のことを考えろよ」

加須は言う。

「無理だろ」

五味は言う。

「じゃあいいよ。加須の言う通り旅の目的について話し合っておこうぜ。俺たち転生した、五味と九頭と加須としての目的だ」

九頭も壁に背を凭れて言う。

「やっぱり、前世に帰るのか?いや、五味風に言うと、前世という来世に行くのか?ま、言い方は変えても同じことだけどな」

加須は鉄格子に背を凭れて言う。

「俺たちは前世の記憶がある。こっちで王として生きているけど、本当は日本人だ。意識は前世のままだ。俺は帰るべきだと思う」

九頭は言う。

「帰ってどうすんだよ。あっちじゃ無職で十五歳だぜ。そろそろ十六歳かな」

加須は言う。

「そうだよ、俺たちはあっちじゃ未来があるんだ」

九頭は苦笑する。

「ねーだろ。あの人生はゴミみたいな人生じゃないか。成績も悪いし、あの人生に未来はあるか?」

加須は九頭を見て言う。

「こっちよりは未来があるだろう」

「は?こっちは国王だぞ。ハーレムで遊んで暮らせる人生が待っているんだぞ」

九頭がそう言うと、五味が言った。

「九頭よ、本当にハーレムで遊ぶ人生が最高だと思うか?」

「え?五味、ハーレムが嫌いか?」

「いや、大好きだ。でもな、なんて言うかな、それは自分で掴んだ人生じゃない」

「お?堅いことを言うのか?」

「堅いことを言うよ。俺はあの日本で十五歳無職からどれだけ這い上がれるか試してみたい気がするんだ」

五味がそう言うと加須も言う。

「ああ、俺もそう思う。だいたい、王の重責から逃げ出したんだからな俺たちは。ハーレムで遊ぶのはいいけど国王の職務は正直めんどくさい」

「じゃあ、なんだよ?日本でどこか工場かなんかに就職して、労働者として生きるのか?こっちじゃ王だぞ、俺たちは」

九頭がそう言うと、加須は言った。

「なあ、九頭、おまえの親父さんの職業は何だ?」

「え?工員だけど。自動車部品のプレス工場だ」

五味は九頭のその言葉に反応した。

「俺の親父と同じ職業だな」

加須も言う。

「俺の親父も自動車部品のプレス工場で働いてる」

九頭は言う。

「え?もしかして、同じ工場だったりするのか?」

「なんて、会社なんだ?」

五味が言うと、九頭と加須は同時に答えた。

「「(らく)大工業(だいこうぎょう)」」

九頭は驚いた。

「え?加須の親父と同じ会社だったのか?」

加須も驚いた。

「まあ、地方の田舎だからそういう可能性もあるよな。しかし、今までそれに気づかなかったのは不思議なくらいだ」

五味も言う。

「じつは俺の親父も楽大工業の工員だ」

「え?マジか?」

「三人の父親が同じ工場で働いていたのか?」

五味は言う。

「うちの親父は会社の話は家で一切しないんだよ。だから、おまえらの親父と同じ職場だなんて知らなかった」

九頭も言う。

「俺も知らなかった。親父は職場の話は一切しない」

加須は言う。

「俺の親父も無口でね。暗い性格と言ったほうがいいかもしれない」

五味は言う。

「俺の親父も暗い奴だ。だから、俺は親父みたいにはなりたくない。あ、べつに工場労働者を否定するつもりはない。だけど、親父を見ていると、なんか人生を諦めて仕方なく働いているような気がしてならないんだ」

加須は言う。

「じゃあ、五味はどんな人生を生きたいんだ?」

「夢のある人生だ。少なくとも楽大工業の工員じゃない」

九頭も言う。

「俺も楽大工業は嫌だ。親父の人生をなぞりたくはない」

加須は言う。

「じゃ、どんな人生がいいんだ?どんな仕事をしたいんだ?」

「まだ、考えちゃいないよ」

九頭がそう言うと、五味は言う。

「俺はもし、前世に戻れたら、勉強をしようと思う」

「勉強?おまえが?」

「親や先生からやらされた勉強じゃなく自分でやりたいことをやる勉強だ。出来れば大学に行きたい」

九頭は笑った。

「おまえが大学?無理だろう?」

「無理じゃないだろう?この世界で旅をして生きていられてるんだ。こんな命がけの旅に比べれば大学なんて屁みたいなもんだ」

九頭も加須も腕を組んで黙って考えた。

「大学か・・・」

加須は五味に訊く。

「大学で何を学びたいんだ?」

「それはまだ考えちゃいないが、大学にはきっと俺たちの知らない世界があると思うんだ」

九頭は言う。

「しかし、中学の成績を考えて見ろよ。おまえ、大学に行けるほどの成績だったか?」

「中学の成績では行けないだろう。でも、それは真面目に勉強をしなかったからだ。出木杉を落とすことばかり考えていたからな。人を落とすより自分を上げることを今なら考えられる」

五味がそう言うと、ふたりとも過去を振り返って後悔した。

「あ~、そういえば、俺たちの中学時代はほとんど出木杉を落とすことばかり考えていたよな」

「無駄だったな~」

五味は言う。

「俺はもう、自分を上げるために努力するつもりだ。もっとも、全部元の世界に戻れたらの話だけどな」

加須は言った。

「そうだよ。俺たち死んだんだよな」

九頭は言った。

「もし、ドラゴンが俺たちの願いを叶えてくれるとしたら、前世に戻りたいって言うのか?」

五味は言った。

「俺はそれがいいと思う」

加須も頷いた。

「うん、俺も」

九頭は言った。

「ハーレムとはおさらばか?」

五味と加須は言った。

「それはちょっと未練があるな」

そのとき看守が来て言った。

「メシだ。食べろ」

格子には窓みたいに開く部分があって、そこからお盆に載せられたかつ丼が三つ入れられた。

「おお、かつ丼?このヨーロッパみたいな世界なのにかつ丼か、これは懐かしい」

看守は言った。

「おまえたちはビップ対応されるだろう」

五味は看守の顔を見た。そして、「あ!」と驚いた。

看守はラレンだった。


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