141、受け継がれた魔法
町の入り口で馬を降り、アラミスたちは町に入った。ザザックとアトスとアラミスとラーニャは四人で並んで赤茶色の土の道を歩いた。この町のメインストリートのようだ。朝日が斜めに差していた。二階建ての商店が並ぶ通りだ。商店は木造で、二階にはベランダがそれぞれあった。
チョロとエコトスは姿をくらましていた。ザザックたちが派手に戦っているうちにエコトスとチョロが五味たちを救出する作戦だった。
ザザックたちを見つけた町の者が彼らの前に立ちふさがった。その大きな男は見下ろして言った。
「なんだぁ~?てめーら。見かけねえ顔だなぁ?」
アトスは言った。
「アンダスに会いたい」
「は?」
「アンダスに会わせろ」
「なに?誰だって?聞こえねな」
「死にたいか。アンダスに会わせろ」
「なんだと、こらぁ」
男は剣を抜いた。
が、その瞬間には男は死んでいた。アトスのサーベルが男の胸を貫いていたからである。
ラーニャは戦慄していた。
「戦いが始まった」
アラミスは今回に関しては殺さずを封じて戦うつもりだった。やらなければやられるという思いがあった。なにしろ、ここはドラゴニアである。敵は魔法を使うかもしれない。
アトスが男の胸から、サーベルを引く抜くとその大きな男は地面に倒れた。
すると、町の家々から男たちが武器を持って現れた。女たちは家の中に隠れている。
ラーニャはそれに関しても身震いした。
「あたしは今、男の世界にいる!」
いよいよ乱戦が始まった。
服に赤い髑髏のマークがある者たちがアラミスたちに襲い掛かって来た。アラミスはもう敵を殺す気だったから、迷いはなかった。アトスはそんなアラミスを見て嬉しかった。これでポルトスが揃えば昔通りだな、と思いながら敵をふたり斬った。アラミス、ザザック、アトス、ラーニャは背をたがいに向けて円形になり周囲から襲い掛かる敵を倒した。こうすれば、前から来る敵だけを相手にすればいいからだ。
ザザックも容赦なく敵を殺した。隣のラーニャに手を貸すこともあった。
「ラーニャ、こんなところで死ぬなよ。おまえには教えることは沢山あるんだ」
「わかってるわよ。師匠」
ラーニャはレイピアで敵の体を刺した。敵はうめき声を上げて倒れた。
ラーニャは生きているという充実感があった。生死を賭けた不思議な充実感だった。やられれば死ぬ、その思いが快楽だった。それはアラミスも久しぶりに感じていた。しかし、アラミスは師ユリトスの元へ戻ればまた殺さずを守るつもりだった。
「今だけ、お許しください。先生。陛下!」
四人は十人二十人と斬りまくった。ときどき、足を刺されたり、肩を相手の剣がかすめたりした。しかし、その痛みを忘れるほどに生きるために戦った。
すると、アラミスたちが戦っていた通りに面した木造の家の二階のベランダにアンダスが現れた。
「なにをしている?おまえら!それでもアンダスの戦士か?」
敵はアラミスたちを囲み動きを止めた。ジリジリと間合いを取る。
その頃、チョロとエコトスは木造の家々を一軒一軒エコトスの魔法で調べてついに五味たちが縛られている家を見つけた。エコトスと手を繋いでチョロは木の壁を通り抜けた。
ユリトスたちは驚いた。
「チョロ、エコトス、どういうことだ?」
「詳しいことはあとだ。縄を切るから、抜け出すぞ」
チョロとエコトスは五味たちの縄を切った。ユリトスたちは部屋の中にまとめて置かれてあった自分のサーベルを持った。そして、みんな手を繋ぎ、エコトスの魔法で木の壁を通り抜けて外へ出た。そこは裏通りだった。
ユリトスたちは裏通りを隠れながら走った。もちろんアラミスたちに加勢するためだ。
しかし、そのとき、勝負は決まりかけていた。
通りに面したベランダに立つアンダスの両腕は途中から切れていた。そのナイフを持った両腕の先はザザックたちの近くに現れ、彼らを少しずつ斬り刻んでいた。とくにザザックとアトスは血まみれになっていた。
ザザックは言った。
「ちくしょう、ヒュンダスと同じ魔法か。魔法は親子で遺伝するんだったな」
アトスはアンダスに言った。
「なぜひと思いに殺さない?ぐっ」
また、ナイフがアトスの頬を斬った。
ラーニャは近くにいて震えていた。
「これがドラゴニアの戦いか。剣だけじゃダメだ。魔法使い相手じゃ通用しない」
その場を裏通りから隠れてユリトスは見ていた。
「どうします。先生」
ポルトスは言った。
ユリトスは言った。
「あいつだ。アンダスの魔法でやられている。なんとかしてアンダスのいるベランダに行き奴を殺そう」
「殺すのですか?」
「やむをえまい」
すると、五味と九頭と加須がアラミスたちのいる通りに飛び出して行った。
ユリトスは驚いた。
「バカな?何をやってるんだ陛下たちは?」
五味たちは言った。
「やめろ、やめてくれ!」
「もういいだろう?」
「そうだ、もう充分だ」
ベランダのアンダスはそれを見下ろして言った。
「なんだ、ロガバの国王たちか。どうやって、逃げ出した?他の奴らはどうした?」
五味が言った。
「やるなら俺からやれ、ただし、俺を殺すとドラゴンの血はなくなる。三人揃わないと意味ないそうだからな」
五味はニヤリと笑った。
アンダスは言った。
「いや、おまえから殺さない。決めたぞ、最初に殺す者は・・・」
アンダスは視線を変えた。
「その娘だ」
ラーニャはこの瞬間もうダメだと思った。
アンダスは言う。
「もうわかっていると思うが、俺の魔法は腕が空間を越える。どこから俺の腕が出てくるかわからないのが怖いところだ。もしかしたら、娘の胸のすぐ前かもしれないし、背後かもしれない・・・」
突然、アンダスは黙った。眼玉をギョロつかせ、辺りを見て苦い顔をした。
「こ、これは・・・バ、バカな」
アンダスはベランダに倒れた。背中にはナイフが刺さっていた。
アンダスの背後の空中には手が出ていた。それは少女の華奢な手だった。
アンダスは倒れたまま言った。
「もしかして、この魔法は、もしかして・・・」
アンダスがベランダの柵の間から見ると、通りの隅の方にカリアとライドロが立っていた。
そのカリアの右腕は途中から空中に消えていた。
「カ、カリア、おまえか・・・」
アンダスは死にそうな声で言った。
「魔法が使えなかったんじゃないのか?」
カリアは言った。
「隠していた。父の魔法を受け継いだなんて嫌だから」
アンダスのいるベランダには子分が現れ、アンダスを部屋の中に引き入れた。魔法で傷の手当てをするのだろう。
ユリトスは通りに出て言った。
「赤い髑髏ども、この勝負はいったんお預けだ。私たちは去る」
傷ついたアトスたちは助かったと思った。ラーニャは怖くてならなかった。こんなに死を身近に感じたことはなかった。そこにはなんの快感もなかった。ただ怖いだけだった。
ユリトスたちはカリアとライドロも含め全員馬に乗った。きちんとロバも連れた。そして、カルドンの町を出た。
サボテンが所々生える赤茶色の土の道をしばらく行くと、アトスとザザックが馬から落ちた。ふたりは体中の切り傷刺し傷で苦しんでいた。もう意識が朦朧とし落馬したのだ。すぐさま、ライドロが駆け寄り、魔法で癒した。オーリも薬草を使って、アトスに回復魔法を使った。
「風よこの者の痛みを取り除け」
患部に当てた薬草とそこにかざした手の間に緑の光がほのかに現れた。
アトスは微笑んで言った。
「ありがとう、お嬢さん。少し痛みが軽減したよ」
「まだダメよ。もっとやってあげる」
オーリはアトスの体中の傷を癒した。
ある程度アトスとザザックそしてアラミス、ラーニャの傷が治ると、一行はアトリフたちが待つマナガットの町へ馬で向かった。




