14、世界一の剣豪ユリトス
ホンクは森を抜けマトニトの町に出た。
国境警備隊の小部隊が駐屯している。たった十数名の部隊だ。戦場になる可能性のほとんどないド田舎の町ゆえに、隊長は昼間からバーで酒を飲んで過ごすことが多かった。
ホンクはそのバーに入った。
「カリー隊長」
カウンター席でひとりグラスを傾けていた男は後ろを振り返った。
「なんだ、ホンクではないか?どうした?」
「今、私の小屋に、脱走したクーズ陛下とガンダリアの国王ゴーミとその一味が眠っています」
「なに?嘘じゃないだろうな?」
「本当です。で、でですね。賞金が掛かっていると思うのですが?」
「ふん、おまえ、僧侶になっても賞金稼ぎの自分を捨てきれないのか?」
「しょせんは俗物のようです」
「一味というのは何人だ?」
「国王二人を合わせて五人です」
「では隊員を五人連れて行こう」
アラミスは目を覚ました。
すると自分が手足を縛られて床に転がっているのに気づいた。
「しまった。騙された。あのミルクに睡眠薬が入っていたんだ。おい、ポルトス」
ポルトスも目を覚ました。
「む、これは?」
アラミスは床に転がったまま言った。
「騙されたんだ。人を呼びに行ったに違いない」
ポルトスは五味に声を掛けた。
「陛下、ゴーミ陛下」
五味は目覚めない。
「う~ん、マリンちゃん」
などと寝言を言っている。
ポルトスは焦った。
「まずいな」
アラミスは言った。
「ポルトス、おまえ歯は丈夫か?」
ポルトスは笑う。
「ふふん、アラミスよ。いくら丈夫な歯でもこの縄は切れないと思うぞ」
「だよな」
アラミスは少し考えた。
「そうだポルトス、俺のサーベルを口を使って抜けないか?」
「やってみる」
ポルトスは捩ってアラミスの近くに寄り、サーベルの柄を口でくわえた。
なんとかサーベルを抜くと、今度はアラミスがその刃の部分に手首の縄を当ててこすり始めた。しかし、サーベルが動いてしまい上手くいかない。
「何か他に刃物があればいいんだが・・・」
ポルトスは小屋の中を見渡した。鉄製のスコップがあった。
「あれだ!」
ポルトスはそのスコップの立てかけてある壁に芋虫のように近づいた。そして、後ろ手に縛られた手首をスコップの端にこすりつけ始めた。
ポルトスは言った。
「時間がかかりそうだぞ。こいつは」
アラミスはサーベルで縄を切ろうと頑張り続けた。
しばらくして、小屋の周りに複数の馬の足音が聞こえた。
ポルトスはまだ手首をスコップにこすりつけている。アラミスもサーベルに手首の縄を当てている。まだ縄は切れない。
小屋の戸がどんと開いた。
外から軍靴の足音がどかどかと入ってきた。
カリー隊長は言った。
「おう、たしかに少年がふたり眠っているなぁ。ひとりはバトシアの国王、もうひとりはガンダリアの国王か。それと、ふたり、目を覚ました剣士がいるじゃないか」
ポルトスもアラミスもまだ手をこすり続けている。
カリー隊長は見下すように言う。
「無駄な抵抗はやめよ。その国王ふたりはバトシア軍が預かる」
すると、外から声が聞こえた。
「た、隊長~」
「なんだ?」
カリー隊長は外へ出た。
外に残していた三人はマントを着た謎の男の足下に倒れていた。
「安心しろ、この者たちは死んではいない」
とその男は言った。
カリー隊長は言った。
「きさま~、何者だ?」
「先ほどおまえと同じバーにいてな、このことを聞いたのだ」
「名を名乗れ!」
「私の名か?ユリトスだ」
その名を聞いて、カリー隊長は尻込みした。
なぜなら、その名は世界一の剣豪の名だからだ。今いるカリーの部下と自分だけでは到底太刀打ちできないことはわかり切っていた。
ユリトスは言った。
「私と戦うか、ここを去るか」
カリー隊長は言った。
「ここを去ります」
地に倒れた部下を起こすと、カリーの隊はマトニトの町へ戻って行った。ユリトスは近くにいたホンクに言った。
「おまえはどうする?」
ホンクは言った。
「ここを去れば許してくれますか?」
ユリトスは笑った。
「ははは、ここはお前の家だろう?去るのは私たちのほうだ」
ユリトスは小屋の中に縛られている者の縄を解いた。
五味と九頭とアリシアも目を覚ました。
「さ、みんな出発だ」
五味たちはわけがわからず、小屋を出て森の中を歩き始めた。
ポルトスは言った。
「ユリトス先生。お久しぶりです」
アラミスも言った。
「まさかこのようなカタチで再会するとは」
ユリトスは前を向いて歩きながら言った。
「ポルトス、アラミス、おまえたちはまだまだだ。あんな男に騙され眠らされるとは。ところでアトスは?」
ポルトスは言った。
「死にました」
「そうか」
「ところで、先生はなぜこのような土地に?」
アラミスは訊いた。
「私はまだ、あの怪事件の謎を追っている」
「謎?」
五味が言った。
ユリトスは五味と九頭のふたりに訊いた。
「陛下おふたりはなぜ、逃亡したのです」
五味は答えた。
「じつは俺もあの怪事件の謎を解こうと」
ウソである。
ユリトスは言った。
「やはりそうですか。あれは全く怪事件です。三国の王が同時に消えてしまうなど」
五味と九頭は加須も逃げたのだと考えた。しかし、ユリトスの言うのは違う意味だった。
「あなたがたもご両親が突然消えて、王国を十四歳で継ぐとは思いもしなかったでしょう?あなたがたはロンガ王国のカース王も含め、若いのに立派な王となられた。しかし、今回、逃亡して、おふたりが共に行動しているとは私の思いもよらなかった。もしかして、カース王に会いに行かれるのではないかな?」
五味は言った。
「そのつもりです」
「ならば、私もあなたたちの旅に加わってもよろしいかな?」
アラミスとポルトスは笑顔になった。
「先生がいてくれたら百人力だ」
こうして五味たち一行は六人になった。
六人は森の中を北へ向かった。




