137、チョロ対ユリトス
「オーリ、あの赤い髑髏どう思う?」
ユリトスは馬に揺られながら言った。もう、ユリトスの相談相手はポルトスやアラミス、ジイではなくオーリに比重が移っている。
「アンダスが賊の親玉というのはよくわからないですね?本当ならば長男だから、王位継承権があるのは彼なのに」
「インダスという次男はどうだろう?この西部を支配しているそうだが」
「インダスとアンダスの二重支配でしょうか?」
「いや、アンダスはあくまで賊の親玉だ。政府ではない」
「政府とは何でしょう?」
「難しいな。私にはわからない。政府を定義づける学問は私にはないよ」
オーリは言う。
「私が思うに、市民が選んだ政府が政府であると思います」
「ほう、王が選んだ王ではなく?」
「今回の件ではインダスは支配者であるらしい。だけど、アンダスは賊の頭です。市民はアンダスを政府と認めないでしょう」
「うむ、しかし、悪い王もいるだろう。そういう王は市民が選んだ王ではあるまい」
「はい、ですが、それは強い権力に屈服した市民が受動的に認めた王ではあります」
「なるほど、悪王でもその力に市民が屈服したとき王権が認められるのだな」
「はい、私はそのように思います。暴力で支配する国などいくらでもありますから」
「暴力か・・・ラーニャはどうなってしまうのかな?」
「ユリトス様はなぜ殺さずを守るのです?」
「君は私に殺しをして欲しいかね?」
「いいえ、そんなことは望みません」
ポルトスは言った。
「アトスは何を考えているのかな?あんな美人の奥さんがアトリフの一味だから、アトリフの味方をしてるのかな?だとしたら子供みたいだぞ」
アラミスは言う。
「ポルトス、大人だから愛に生きるんじゃないか?」
「はは、アラミスもあんな美人な女性が現れたら、三銃士をやめるか?」
「やめるかもしれないな」
「この旅の途中でもか?」
「それはないと思うぞ。俺はゴーミ陛下を守り抜く」
「俺もだ。そして、いつか、またアトスを入れて三銃士を名乗りたい。今でも名乗っているけど、正確には二銃士だ」
「ははは、そうだな」
ジイが言った。
「わしを入れて三銃士はダメかの?」
ポルトスとアラミスは笑った。
ジイはしょんぼりした。
「冗談のつもりで言ったが、笑われると結構つらい」
ポルトスは言う。
「でもジイ殿は、ゴーミ陛下の側近中の側近。陛下がお生まれになったときから陛下の子守をしていたじゃないですか」
「うむ、そう言われると自信が出て来るわい。そうじゃ、ゴーミ陛下のことはここにいる誰よりも知っている」
チョロは言った。
「しかし、ユリトスさん、二千万ゴールドという大金が手に入ってよかったですね」
ユリトスは厳しい顔でチョロを見た。
「おまえはこのカネを綺麗だと思うか?」
「カネに汚いも綺麗もないでしょう?」
「私には血まみれのカネに見える。おまえの盗んだカネ以上に汚れている」
「カネは交換する道具だ。汚いも綺麗もないだろう」
「盗みも殺人も罪だ」
「なんだと、じゃあ、俺が稼いだカネで飲み食いしていたあんたは罪がないのかよ」
「ある。だから、気分が悪い」
「ぁあ?俺の稼いだカネで生きるのは気分が悪い?」
「私は犯罪者ではない」
「この世に犯罪者も善人も区別が付けられるのかよ?悪い国王にペコペコするのが善人でコソ泥が犯罪者だと言うのか?」
「ペコペコするというのは違う気がするが、やはり良い法は守らねばならん」
「法?他人が決めたものだろう?俺が決めた法なんかひとつもないぜ?結局、法を守るってのは他人にペコペコするものだと俺は思うぜ」
「コソ泥の哲学か?」
「なんだと?おい、おまえ、カネが入ったからといって、急に偉そうになりやがったな。俺のカネを利子付けて返すか?」
「いくらだ?」
「こ、この野郎、カネができたらその態度か?」
そこへ五味が割って入った。
「やめろよ、ふたりとも。チョロ、おまえなんで急にそうなるんだよ?」
「ユリトスが俺に感謝していないからさ」
ユリトスは言う。
「感謝できないのだよ。盗んだカネで得た食べ物や宿だと思うと」
五味は言う。
「ユリトスさん。それは違うと思うよ。チョロは俺たちの仲間だ。こいつがいなかったら俺たちは野垂れ死んでた。違うかい、ユリトスさん」
「陛下はチョロが正しいことをしたと思いますか?」
「む。でも正しくなくても生きるためにしなければならないこともあるんじゃないですか?」
「では、あなたは泥棒が必要だと言うのですか?」
「そ、それは・・・」
五味は言い淀んだ。それを見てチョロは言った。
「わかったよ。俺が不要だって言いたいんだな?ようするにカネができたから旅費を稼ぐ必要がなくなったから、俺はいなくていいってんだな」
「役に立たなくても構わない」
とユリトスは言った。チョロは怒った。
「俺は役立たずか?お荷物か?ああ、いいよ。俺はひとりで西へ行く。今ユリトスが持っているカネがなくなったとき、俺がいかに役に立っていたかがわかるだろうぜ。ハイヤッ」
チョロは馬を馳せて、西へ駆けて行ってしまった。
アラミスは言った。
「先生、連れ戻してきます」
「やめておきなさい」
ユリトスが言うので五味は言った。
「ユリトスさん。俺はあんたに感謝してるし尊敬もしてるし頼りにもしている。だけど、今のはおかしいと思うぞ。あれじゃ、チョロがかわいそうだ。アラミス、追いかけてくれ」
アラミスはユリトスの顔を伺った。それを見た五味は言った。
「アラミス、これは国王の命令だ」
アラミスは、「は、わかりました」と言って、馬を馳せ、チョロを追って行った。




