136、ラーニャはザザックの弟子になる
「何を言ってるんだ、ラーニャ!」
五味は叫んだ。
ラーニャは言った。
「あたしは元々山賊の娘だ。そして、一応、剣士だ。ユリトスさんは凄いとは思うけど、殺さずを守るユリトスさんにはもどかしさを感じていた。今、目の前で悪い奴らを徹底的に殺したザザックを見てあたしは正直震えたよ。カッコいいって思っちまった。思っちまったら動くのがあたしだ」
ザザックは笑って言った。
「ユリトスさんの一行には俺の弟子になりたがる傾向があるのかな?そこにいるクーズ王も以前、俺の弟子になったが、逃げ出した。ラーニャとか言ったな?面白い、弟子にしてやろう」
「本当か?」
ラーニャは晴れた顔で言った。
「弟子にしてやるが、ついて来いよ。命を守ってやるとかそういうのはなしだ。自分の身は自分で守ってもらう」
ラーニャはそういう考え方になおさら魅力を感じた。
「いいよ、でも弟子だ。剣を教えてくれ」
「ああ、いいだろう。教えてやるよ。人の殺し方をな」
その夜はラーニャはアリシアとオーリと最後の夜を過ごした。
アリシアはベッドの中で言った。
「ねえ、ラーニャ。本当にザザックの弟子になるの?」
「うん、さっきの戦いを見て、あたしの中の山賊の血が疼いたのよ。これだって」
オーリは言った。
「剣で人を殺すことに?」
「人を殺すことにではないわね」
「じゃあ、なんなのよ」
「戦うことに、ってとこかな」
「戦うのと殺すのは同じじゃないの?」
「全然違うわよ」
ラーニャは言った。
「赤ん坊を水に沈めるのは殺すとは言うけど戦うとは言わないじゃない?」
「ええ」
「戦うってのは命を賭けるってことなの。ただの殺人ではないわ」
「でも、結果として殺すんでしょ?」
「ただの殺人と、戦いを一緒にしてもらっては困るわ。戦いは結果として誰も殺さないことだってあるのよ」
「例えばどんな?」
アリシアが訊いた。ラーニャはすぐに答えた。
「目的の物を手に入れた時とかね。殺す必要がなければ殺さないわ。アトリフたちだってそうだと思うよ」
「でも今日なんかわずかの間に三十人も殺したのよ。あれがカッコいいっておかしいわよ」
「そうね。おかしいわ。でもね、私の中の山賊の血は正直に疼いたわ」
翌朝、早く、ラーニャはザザックと馬を並べて西へ向かって駆けて行った。
見送った五味たちは別れを惜しんだ。
「いい括れだったのに」
五味たちは宿の食堂で朝食を摂った。
夕べの死体は片付けられてあったが、壁や柱に血の痕がついていた。
ユリトスは二千万ゴールドを受け取った。
「アトリフの言う通り、我々が今必要としているものは馬だ。現在、連れているのは三頭、ジイ殿、ポルトス、そして私の馬だ。ラーニャはザザックの用意した馬で去って行った。残りはゴーミ王、クーズ王、カース王、アリシア、オーリ、ナナシス、チョロ、カリア姫、ライドロそしてアラミス。十頭だ。今、手元に二千万ゴールドある。馬はこのカネで用意できる。チョロ、おまえは馬に乗れるか?」
「バカにすんない。乗れるよ」
「カリア姫、ライドロは?」
「乗れます」
「僕も乗れます」
「では乗れないのは、三人の王と、アリシアの四人か、うむ、これで旅が楽になるな」
朝食後、ユリトスは馬屋に行って十頭の馬と二頭のロバを買った。一千万ゴールド程かかった。二頭のロバにはテントなどの装備や食料を積んだ。
「さあ、出発だ」
一行は西へ向かってハガンの町を出発した。




