135、赤い髑髏(どくろ)のマーク
受付で、チョロが全員分の一泊の宿泊費を払った。
もう日は傾きかけている。
宿はドラゴン街道に面して北側に建ち、窓からは南の地平線に山脈が見えるまで広がる荒野が見える。
町は宿を入り口として街道の北側に出来ている。
町の中心には井戸があり。それがこの町の生命線なのだが、涸れることのない豊かな地下水が流れている。
その宿の食堂で五味たちは夕食を摂り始めた。
食堂にはバーカウンターがあり、ザザックがひとりで飲んでいる。
ユリトスとポルトスとアラミスはカウンター席に座って、ザザックと話した。
「なんだ、あんたら。俺と話がしたいってか」
ザザックは酔っている。
ユリトスはウイスキーを注文して、ザザックに話しかけた。
「アトリフたちはどこにいる?」
ザザックは笑ってユリトスの顔を見た。
「なぜ、それを知りたいんだね?」
「アトリフはデラン王を殺した男だ。当然、狙われるだろう」
「いいじゃないか。おまえらには関係ないことだ」
「おまえはなぜここにひとりでいる?」
「もうすぐ、わかるさ。お?もう来たか」
そのとき、宿の入り口から荒くれ者たちが入って来た。
「オラーッ、酒と飯を出せや―」
数は三十人。
五味たちは立ち上がり、食堂の隅にかたまった。その前にジイとナナシスとラーニャが剣の柄に手を置いて構えた。
「ほう、珍しく、客が多いじゃねえか。昨日はハインの軍隊が来て俺たちはさすがに来られなかったが、今日は違うよな」
リーダー格の男がそう言った。
ザザックはカウンターでウイスキーのグラスの中の氷をカランと鳴らしてカウンターの中にいるマスターに言った。
「おやじ、ひとり百万ゴールドでいいんだな?」
マスターは頷いた。
「本当に払えるな?」
ザザックは念を押した。
マスターは言った。
「町がそれだけのカネを払う」
「よし」
ザザックは立ち上がった。
「おい、ユリトス、三銃士、おまえらは見ていろ。剣というのはこう使うのだという所を見せてやる」
すると、荒くれ者たちは言った。
「はー?なんだ?てめえは?殺すぞ」
ザザックは笑った。
「殺されるのはおまえたちだ。俺はこの町からおまえらを殺す許可はすでに取ってある」
ザザックはサーベルを抜いた。瞬間、リーダー格の男の腹から血が噴き出した。と思ったらその背後にいたふたりの首から血が噴き出した。ザザックが頸動脈を斬ったのである。荒くれ者たちは、剣を抜こうとした、ザザックの早業はまるでアトリフが魔法で時を止めたみたいに、周囲が止まっているかに見えた。荒くれ者たちはまだ、店の中に入り切れてなかったため、後ろの者は店内で何が起きているのか、すぐにはわからなかった。だが、中で悲鳴が上がったので、みんな武器を手に取った。店内の荒くれ者は全員殺された。二十人だ。残りの十人が、店の中にドカドカと入って来た。ザザックはそいつらに言った。
「あと十人か。一千万ゴールド」
すると、荒くれ者のひとりが口から炎を吐いた。
ザザックは慌てて躱してテーブルに飛び乗った。
炎はテーブルの上のザザックに向けて再び吐かれた。
ザザックはそれを躱して、一気に五人斬った。
ユリトスたちも剣を抜いていたため、荒くれ者たちはそちらも警戒しなければならなかった。
ザザックは言う。
「あ、そいつらは気にしなくていいぞ。人を殺せない連中だからな」
ザザックは残りの四人を斬り、最後に炎を吐く男を残した。
その男はたじろぎながらも、口を開け、炎を・・・
と思った瞬間、サーベルが飛んできて、口の中から項に貫き、柱に刺さった。ザザックが投げたのだ。男は柱でだらんと力なく項垂れ死んでいた。
ザザックは歩み寄って、そのサーベルを引き抜き、男の死体が床に転がるのを見てから、マスターに言った。
「おやじ、締めて三千万ゴールド、みんな死んでるか確認してくれ」
マスターはブルブル震えながら、死体を一人ひとり確認して回った。
「全員死んでいます」
「じゃあ、三千万ゴールドだな。うん、ユリトス、そのうち二千万ゴールド、おまえらにくれてやる」
「なに?」
ユリトスはもう構えを解いていた。
「どういうことだ?」
ザザックは言った。
「知らねーよ。アトリフがそうしろって言ったんだ」
「アトリフが?」
ジイは言った。
「理由は何じゃ?」
「馬を買え、だとよ」
ユリトスは納得した。
「私たちが、徒歩で旅をしていることに業を煮やしたな?」
五味は訊いた。
「どういうことです?ユリトスさん?」
ユリトスは説明した。
「ドラゴンの血だよ。陛下たちに流れるドラゴンの血をアトリフは必要としているのだ。ドラゴンに願いを叶えてもらうためにな」
ザザックは笑った。
「俺は知らねーよ、アトリフが何を考えているかなんて。おやじ、銀行から俺の所に明日の朝までに一千万ゴールド持って来い。残りの二千万ゴールドはこいつらにくれてやれ」
ザザックは死体を跨いで歩き、また、カウンターの席に座って酒を飲み始めた。
「あ、そうだった」
ザザックは言った。
「ユリトス、こいつらの帽子か胸か服のどこかに赤い髑髏のマークがついているだろう?これはこの西部の賊を牛耳るアンダスという奴のマークだそうだ」
「アンダス?それはデラン王ヒュンダスの長男の名前ではないか」
「俺にはその辺の事情はまったくわからない。知りたかったらマスターにでも聞いて見るといいぜ」
五味たちは死体のたくさん転がる食堂で食事を続けるつもりはなかった。
しかし、ラーニャは違った。彼女は死体を跨いで歩き、ザザックの隣に座った。
「あ、あの・・・」
「なんだ?酒を奢って欲しいのか?カネはできたんだ。ユリトスに払ってもらえ」
「違う。あ、あんた、カッコいいよ」
「なに?」
「あたしを弟子にしてくれ!」




