132、ナナシスが来るのを待ちながら
ユリトス一行は、夜道をデラン王都に向けて歩いた。未明に王都に着いた。
王都では国王が殺されたと大騒ぎになっていた。
ユリトスたちは前日泊った宿に入った。都中が大騒ぎだった。アトリフを探して兵士たちが家宅捜索した。五味たちの部屋にも兵士が来た。しかし、兵士はライドロやカリアがいるのに気づかなかった。おそらく写真のないこの世界では有名でも顔は案外知られないのかもしれなかった。そう考えるとどうやってアトリフたちを見つけるのかも怪しいものだと思われた。
しかし、明け方には、アトリフは西方に去ったという情報が入り町は落ち着きを取り戻した。
五味たちの問題は、ナナシスをどうやって見つけるかということと、ライドロとカリアをどうするかということだった。
ナナシスを見つけるための案はすぐに出た。例の大通りの角のカフェのテラスで飲み物を飲んでいればナナシスが気づくに違いないという「待ち」の作戦だった。そして、カリアとライドロは、どこか西の外国で良い場所が見つかるまで五味たちと共に旅をすることが決まった。
午前中、宿にいるオーリはライドロに訊いた。
「ねえ、ライドロ」
「なんです?」
「あなた、回復魔法を使えるのですって?」
「はい、使えます」
「それって、どんなふうにやるの?」
「え?患部に手をかざして気持ちを込めるんですけど」
「気持ちを込める?どんなふうに?」
「風に祈るんです」
「風?」
「そうです。風です」
「なぜ風なの?」
「それは僕に訊かれても困るな。親から教わったものだから。でも、風以外のものに祈っても傷は治らないよ」
「風?ふ~ん。私にもできるかしら?」
「南方人に?そういう遺伝子を持っていれば簡単にできるんじゃないかな?」
「私ね、こういう本を持っているの」
オーリは鞄から一冊の分厚い本を取り出した。
「これはね、魔法について書かれた本よ」
「ふ~ん」
「これによるとね。薬草を患部に当てて祈れば誰でも回復の魔法を使えると書いてあるの。でも、私にはわからなかったからあなたに聞いたの。そう、風に祈るのね。私は神に祈るのかあるいはドラゴンに祈るのか、あるいは呪文があるのかなどと考えていたわ。よし、やってみるわ。誰か傷のある人はいないかしら」
その部屋にはオーリとライドロとカリアしかいなかったので、オーリは他の部屋に行った。
廊下で加須に会った。
「あ、カース王」
「なんだい?」
「どこか悪いところはない?」
「顔かな?」
「バカ」
オーリは加須と共に五味と九頭がいる部屋に入った。
「ゴーミ王、クーズ王、どこか悪いところはない?私が魔法で治してあげるわ」
五味は答えた。
「包茎かな?」
「あ、俺も」
所詮、五味と九頭だった。オーリは訊く相手を間違えたと思い、ユリトスたちの部屋に行った。
そこにはジイがいた。
「ジイ様。どこか体で具合の悪いところはありませんか?」
「わしは元気ピンピンじゃ。あ、強いて言うならば足かな?」
「足ですか」
「うむ、歩くことが多いじゃろ?だから足が少し疲れている」
「では、私が薬草と魔法で治して見せますね」
「え?魔法?オーリさんは魔法が使えたのか?」
「今、勉強中なんです」
「ほう」
「足を出してください」
ジイはズボンの裾をまくった。
「どこが疲れているのですか?」
「ふくらはぎかな」
オーリはそこに薬草を当てて、手をかざした。そして目を閉じた。
「風よ、この者のふくらはぎの疲れを癒したまえ」
すると、オーリの当てた手が緑色に僅かに光った。
五味たちはそれを見て、「おーっ」と驚きの声を上げた。
ジイは笑顔になった。
「おお、疲れが取れた。すごい!」
オーリは言った。
「このライドロはこれを薬草なしでやれるそうです。でも薬草を使えば誰でも回復の魔法は使えると魔法の本には書いてあります」
五味は訊いた。
「え?じゃあ、俺やクーズやカースでも魔法が使えるということ?」
「ええ、そうよ。風に祈るのよ」
五味はジイの足から薬草を取り、自分の股間に当てて念じた。
「風よ、我が包茎を治したまえ、えい!」
五味は自分のパンツを覗いた。
「あ、包茎が治ってる!すげえ、見ろよ、九頭」
九頭は覗いて言った。
「バーカ、勃起して皮が張っただけじゃねーか」
加須は言った。
「じゃあ、俺が自分の顔を治してみるよ」
顔に薬草をのせて加須は手をかざし、風に祈った。
「風よ、我が顔を治したまえ、やっ!」
加須は薬草を取って、五味たちの方を見た。
「どうだ?治ったか?」
五味と九頭は騒いだ。
「すげえ、治った、治った。カースの顔が治ったぞ、男前だ」
九頭も言った。
「じゃあ、俺の低い身長も治せるかな」
もうオーリはこの三人のバカらしさについて行けず、部屋を出た。
そこへ宿の外からチョロが帰ってきた。
「いひひ、今日の午前の収穫は十万ゴールド」
オーリは自分の仲間が恥ずかしくなった。
五味は言った。
「よし、みんな、昼飯に行こうぜ。もちろん、角のカフェだ。ユリトスさんたちがいる」
オーリは言った。
「でも、何人かは残らないとダメよ。ここにはライドロとカリアがいるんだから」
ジイがアラミスと残ることになった。
五味、九頭、加須、オーリ、チョロは外へ出た。乾いた空気は爽やかだった。晴れた空は深く青い。太陽はギラギラと照っていたが、気温は暑くもなかった。
角のカフェのテラス席にはユリトスとポルトスとラーニャとアリシアとモロスが座って飲み物を飲んでいた。
五味は言った。
「ナナシスは見つかりましたか?」
アリシアは答えた。
「ダメよ。たぶん私たちのほうからじゃ、見つけられないわよ。あの人変身して他の姿になっているんじゃないかしら。そう五人で話していた所よ」
五味たちはアリシアたちの隣の空いたテーブル席に腰かけた。各テーブルには日よけの緑色のパラソルが立っている。銀色の丸テーブルの中央から円い柱が立っていてその上にパラソルは開いている。テラスと通りには境界線がありそこには鉢植えの低い緑の植物が並べられてある。その外側を通行人が通る。その中のどれがナナシスか見当もつかない。
一同はそれぞれに昼食を注文した。
五味が通りとの境界にある鉢植えのすぐ内側でコーヒーを飲んでいると、鉢植えの向こう側に二十代くらいの美人が立ち、おっぱいをポロリと、五味だけに見えるように見せた。
五味は、いきなりのストリップがおかしくてブーッと鼻からコーヒーを出してしまった。
「お、おまえ、ナナシスだろう?」
他のみんなは食事と食後の飲み物から口を離して、五味の方を見た。そこには美人が立っていた。
美人は色っぽい声で言った。
「そうだ、俺だ、ナナシスだ」




