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131、アトリフ対ヒュンダス

アトリフはエコトスを睨んだ。

「命令と違うではないか」

「すみません。アトリフ。申し訳ない」

ウンダス王子は言う。

「おい、貴様がアトリフか?」

「そうだ」

「カリア姫はどこだ?それからライドロも」

「先にデランの王都へ引き返した」

「なに?途中で会わなかったぞ」

「俺はこの森に精通している。人間の作った道はもちろん、獣道まで熟知している。デランへの最短ルートを教えてやった」

「なに?そこを通ってデランへ帰ったのだな?」

「そうだ」

「なるほど、しかし、父上の命令にはカリアを取り返すことと、おまえを殺すことが含まれている。まずはおまえを殺そう」

「いいのか?俺が殺されたら、すぐにカリア姫を殺すように子分には言ってある」

「なに?」

「俺をおまえの父親ヒュンダスの元へ連れて行け」

「なぜだ?なぜ父王に会いたい」

「尊敬し、憧れているからだ。王族に憧れぬものなどいまい」

「ほう」

王子のウンダスはこう思った。所詮こいつは庶民の子、王侯貴族に単純に憧れるバカなのだ、こいつはデラン王国の王に会うことを人生の目標に掲げているような愚か者に違いない。

「よかろう、おまえたちを城に連れて行こう」

アトリフは思った。

「こいつ、バカだぞ」

アトリフ、ラミナ、ラレン、ザザック、アトス、エレキア、エコトスは馬に乗って、ウンダスの軍隊の列に加わって再び王都を目指した。

チョロはそれを見届けると、ダラントの村の廃屋に戻った。

「ユリトスさん、あいつら王都の方へ戻って行きました」

五味は言った。

「よし、俺たちも戻ろう」

チョロは言う。

「どうして?危険じゃないッスか?」

五味は言った。

「ナナシスがいるだろう?」

五味たちは南へ向かって森の中を歩き始めた。

もう日が暮れかけていた。途中からジイがランプを出してその灯りで森の中を歩いた。


夜には、アトリフたちは王城に着いた。

彼らは王の元へ通された。

王の周りにはさすがに兵士が大勢控えていた。アトリフが妙なことをしないためにだ。

しかし、アトリフには自信があった。彼の目的は師匠を殺したヒュンダスを殺すことだった。そのためには時の止まる魔法を使えば一瞬で王を殺すことはできる。問題はその後だ。どうやってこの城から逃げ出すか。しかし、それにも策を用意していた。それは一度も使ったことのない魔法の使い方だった。

王座に座ったヒュンダスが言う。

「カリアとライドロはどうしたのだ?」

「さあ、知りません」

「なに?」

「あなたは覚えていますか?十五年前、北の森で魔法使いの私の師匠を殺したことを」

「なんのことだ」

「覚えてない?自分の殺した人間のことを」

「そんなもの、いちいち覚えていたらキリがないわ」

「そんなもの・・・ですか」

「それがどうしたのだ?」

「他でもない。俺はあなたを殺しに来ました」

兵士たちはダッと、国王の前に壁となった。

「くっくっく」

アトリフは笑った。

「はっはっは。そんな兵士たちで俺から守られていると思うのか国王よ」

国王ヒュンダスも笑った。

「ならば余の手で殺そう」

その瞬間、アトリフの顔の前に短刀を持ったヒュンダスの右腕が現れた。

が、それがアトリフを襲うより時が止まるほうが早かった。空中の右腕は静止した。動いているのはアトリフのみ。アトリフは兵士たちの隙間を通り、国王ヒュンダスの胸をサーベルで刺した。そして引き抜いた。そして、また時間が動き始めた。

ヒュンダスは血を吐いた。

「ぐっ、こ、これは、どうしたことだ?」

目の前に立っていたアトリフは笑った。

「俺は時を止められるんだよ」

兵士たちがアトリフに襲い掛かった。

「こういうふうにな」

アトリフはまた時を止め、王座から距離のあるラレンたちのいる場所まで戻った。

また時が動き始めた。

兵士たちはキョロキョロしてアトリフの所在を探した。

アトリフはラミナと五人衆に言った。

「俺の体に触れていろ。十分時間を止める」

エレキアは驚いた。

「え?そんなことできるの?」

「ここから逃げ出すにはそれしかない。いいか、とにかく俺の体に触れていろ」

アトリフは「ハァッ」と気合を入れた。するとアトリフに触れていた者以外が止まった。

「十分以内に城を出るぞ」

アトリフたちは走った。

城内の兵士は皆、静止していた。

ラレンが走りながらアトリフに訊いた。

「アトリフ、あんた時間を止めるなんて神か?」

「俺は神じゃない。時間を止めることはできない。今こうして時間が止まっているように見えるのは俺たちの時間だけが速くなっているからだ。つまり、俺たちは一瞬の間に十分歳を取ることになる。もしこの魔法で十年時を止めたら、俺たちは一瞬にして客観の時間の中で十年歳を取ってしまう。わかるか?」

「なんとなくな。不思議な気分だぜ。城外の空を飛ぶ鳥さえ止まってやがる」

こうして、アトリフたちは城の外へ出た。周りからしたら一瞬で移動したことなる。

城内は国王が殺されたことで大騒ぎになった。

アトリフたちは馬に乗り、ドラゴン街道に出た。

「よし、行くぞ!西へ!ドラゴンの秘宝を求めて!」


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